ドジョウ

動物編

小さい頃からドジョウはフナの稚魚、メダカ、モツゴと一緒に捕った魚である。蟹江に戻ってからも、魚捕りに行くとドジョウが捕れる。六月頃にはまだ春先に孵ったばかりのドジョウの稚魚が捕れるが、九月を過ぎると成魚になって体も太くなってくる。

捕ったドジョウ

 そんなドジョウだが学生時代には仙台で一度食べたことがある。酒の飲み会でドジョウ鍋を食べたが、骨ばかりでドジョウの味を味わうことはできなかった。

ドジョウの骨を取って、蒲焼風にするか天ぷらにすれば美味しいと思うが、そうした料理はあるのだろうか。よく聞くのは地獄鍋というドジョウ料理で、だし汁を入れた鍋に豆腐を真ん中に置いて熱していく。すると熱くなってドジョウが豆腐の中に頭を突っ込んで豆腐の中に入り込んでいく。それでドジョウ入りの豆腐料理ができるというのである。実際には豆腐全体にドジョウの体が入り込むことはなく、せいぜい頭だけだそうである。石川五右衛門ではないが、だんだんと熱して殺していく過程を見ると残酷だとしか言いようながい。

 ドジョウで印象深いのは秋口になると水田の畦の小川の水が枯れてくる。するとフナやメダカは川の流れに乗って本流に流れて行くか、水溜りになった所に集まってくる。シラサギやアオサギがやってきて啄んで彼らの餌になってしまうのが落ちである。それに対してドジョウは泥の中に潜り込んで行く。土管の脇とか水溜りが干上った泥の中に入り込んで越冬するのである。小学生の頃に秋から冬にドジョウ捕りに行く時は、移植ベラを持って行ったものである。水溜りがあった形跡の場所を掘り返してみると、泥の中にドジョウが何匹かいて、それを捉まえるのが子どもの遊びだった。そんな話を短大に勤務していた時にお茶を飲みながら事務局長の佐藤利男さんに話したら、秋田の本庄辺りでもスコップでドジョウを捕ったと話をしてくれた。ドジョウの習性を当時の人たちは皆知っていたのである。

 またドジョウは時々水面に空気を吸いに上がって来る。今も机の前の水槽にいる三匹のドジョウは、ときどき水面に上がって空気を吸っている。水面に浮かんでいる撒いた餌を食べるためかと考えていたが、一瞬の動きで水中に戻ってしまう。時々水中で尻から空気の泡を出している。これは腸呼吸といわれて濁った水でも低酸素になっても呼吸ができる訳で、環境の悪さでも生き延びることができる。この腸呼吸が泥の中でも生き延びることができるドジョウの特徴なのだろう。

 関西線永和駅北側の田んぼに水を引くための用水路には、狭い幅の何本かの南北に流れる用水路と、真ん中の東西に流れる大きな用水路がある。東西の用水路から南北の用水路に水を送るための取水口の堰があり水量調節できるようになっている。東西に流れる用水路は日光川水系ではないかと考えている。

 その東西に流れる用水路で飼っているナマズの餌にするフナやタナゴを捕っていたら、ウォーキングしていた老人が話しかけてきた。これは木曽川からの水ではないかと言うのである。私が日光川水系ではないかと応えたら、国府宮の裸祭りを見に行った時にその辺りで日光川が木曽川と繋がっていたと言う。私はそれを確認していないのでいつか確かめに行きたいと考えている。

 その東西に流れる用水路は冬でも流れが枯れることはないが、南北の狭い用水路は堰を止めてしまうので用水路の水は枯れてしまう。春になると東西の用水路から南北の用水路に水を入れるが、不思議なことにそれぞれの用水路で捕れる魚が違っている。

 気をつけて見ているが蟹江の用水路にはカダヤシしかいない。愛西市の永和駅北側の用水路にはカダヤシのいる場所とメダカがいる場所がある。東西に流れる用水路にはカダヤシしかいない。だんだんとカダヤシが増えていることは確かである。そんな状況の中で南北の用水路にドジョウしかいない用水路がある。何故そこにドジョウしかいないのか理解できないが、実際そうなのである。

 小学生の低学年の頃は魚捕りにはタモ網を使っていた。高学年になると釣り道具屋で四手網を売っていて、それを買って捕っていた。この四手網は四面の三面が縦に網があるが一面だけはなく、そこに魚を追い込んで網に捕えるものである。そうすると沢山の魚が一網打尽に捕れる。その当時の四手網は、網の上で交差させる四手部分は竹でできていた。蟹江に帰ってから四手網を買いたいと釣り道具屋を回ってみたが、売っている店は全くない。そこでインターネットで探したら埼玉県内の魚網を作っている店で販売していた。昔は四手の材料が竹だったのにグラスファイバーになっていた。かなり曲げても折れることはないので丈夫といえば丈夫である。但し送料を含めて四千円程もした。

 田植え跡の田んぼでドジョウを捕るダイサギ

 ドジョウがいる用水路に四手網を置いて近くから竹の棒でバシャバシャさせながら追い込んで四手網を上げてみると、数匹のドジョウが捕れる。小さいものはバケツに入れる前に網に目からこぼれてしまうが、大きいものは小さいプラスチックネット網で掬ってバケツの中に入れる。普通ならフナ、タナゴやカダヤシがいる筈だがドジョウしかいない。何度もその用水路で四手網を仕掛けてドジョウを捕っているのでだんだん捕れる量が少なくなってしまった。

 これらのドジョウは水槽で観察しているものの他は、庭のナマズが入っている大きなプラスチック容器の中に入れてしまう。そのうちきっとナマズの餌になってしまうかも知れない。またそんな積もりで入れているのだが。

 二〇一七年三月にNHKで放映された「ダーウィンがきた」でドジョウについてやっていた。ドジョウは田んぼが好きな魚で田植えのために水田に水を入れると、流れ込んできてそこで生活する。夏の夜になるとメスを何匹かのオスが追いかけて、体に巻きつきながら産卵を促す。産卵数は数万個で直径が一ミリ二日程で稚魚に孵るという。

 ドジョウの特徴である口ひげは一〇本あり匂いや触覚センサーになっている。ミジンコ、ワムシ、イトミミズ、ユスリカ等の獲物をその口ひげで感じ取ってパクっと食べるという。獲物は川に較べると田んぼの方が三〇倍も多い。その環境がドジョウにとって好都合の環境になっている。その田んぼにはシラサギ、アオサギ等の鳥や天敵であるタガメ等の水生昆虫がいる。敵が近づくと泥の中に潜って身を隠す。タガメに襲われるとその粘着質の皮膚のぬめりでするりと抜け出すという訳である。

 空気中の酸素を吸う腸呼吸の行動や、余った空気を尻から出す行動もやっていた。これらがドジョウの生活環と密接に関係している。秋になって田んぼの水が抜かれると、あるドジョウたちは水の流れに沿って川に戻るが、それができないドジョウたちは田んぼの水溜りに集まってくる。そして水がなくなるとその田んぼの泥の中に潜る。実験でジェル状の透明な物質の上にドジョウを置くと、ジェル状の物質の下に潜っていく様子が映されていた。三〇センチ近く潜っていった。実際に田んぼの泥を掘り返してみると、ドジョウが沢山出てきた。それも一匹ずつというのではなく固まりになって出てきたのである。その理由は何匹も集まるとその粘液によって乾燥から身を守れるからではないかと説明されていた。

 こうしたドジョウだが日本の一九県で絶滅危惧種になっている。それを挙げてみると秋田、長野、富山、愛知、滋賀、和歌山、兵庫、岡山、山口、福岡、宮崎、鹿児島、長崎、四国四県である。

 愛知県が絶滅危惧種になっていることに吃驚してしまった。昨年から蟹江周辺で魚捕りをしているが、上述の南北に流れる用水路では沢山捕れているし、他の場所でも少しは捕れている。それでも昔のように泥を移植ベラで掘り返して捕るほど多くはなくなってしまった。その点で食料にする程の数は捕れないから、絶滅危惧種になっているのだろうか。

 ドジョウは中国、朝鮮半島や台湾の東アジアで生息しているが、天童やいわきの魚屋ではポリバケツに入った生きたドジョウが売られている。一説によれば中国産だと言われている。日本の柳川鍋などの料理が廃れないように料理屋がまだ料理を出しているのだろうか。そんなことをドジョウを介して考えたものである。(コイ目 ドジョウ科 ドジョウ属 ドジョウ)

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