テングチョウ

動物編

山形市の高瀬から紅花トンネル(一九七一メートル)に抜けるトンネル前の広場に車を停めて、六月半ばにそこから南に入る林道に入って行った。この林道は何回も入っていて、初めてウワバミソウの赤っぽい瘤(ムカゴ)を見たのもここだった。

一番奥がどのようになっているのかは分からない。というのは時間を決めて入っているからである。大体往きに一時間半位の時間(四~五キロ程か)と決めて、その時間になると引き返している。その理由は帰りの体力を考えてのことである。また助けを求めようとしても携帯電話やメールが通じないこともその理由である。当然ながら林道に入ると殆ど人に出会わない。奥羽山系の裾野なのでクマと出会う可能性も高い。鈴などを鳴らしたり声を上げたりしながら歩いていく。

 その林道の西側には谷川が流れていて、それに沿った山道といった風情である。車でも奥まで入れるが、途中の動植物の写真を撮るとなると、やはり歩いていった方が都合が良い。その林道の景色は同じ景色が続くかというとそうでもない。林道が谷川に沿いながらも曲がりくねっているので、ある場所ではスギ林になって薄暗くシダ類が沢山生えている。それを抜けると日当たりが良くて明るく木々がまばらに生えていてススキの草叢のようになっている場所もある。

 明るくて石ころだらけになっている道もあった。その石ころだらけの道路上に大きくないチョウが沢山飛んでいた。乱舞しているという程ではないが、それでも多数のチョウが道路上に降りて止まっている。私が近づくと飛び立ってまた先の道路に降りて止まるを繰り返している。

  農道に降り立っていたテングチョウ

 そのチョウの姿を見て、そのチョウとこれまで出会ったことはないなと思った。そして翅を広げると赤い模様が目立つのだが、翅を閉じた裏側は黒っぽくて地味な色だった。こうしたチョウが、道路のそこら中で飛んだり降りたりしていた。これまで沢山のチョウが一か所に舞っているのを見たことはなかった。でも初めてそんな場所を見た。交尾のための乱舞なのか何か集まる他の理由があるのか分からなかった。どんな名前のチョウか、どんな習性があるのか分からないまま一年位そのままにしていた。

 一年以上経ってからチョウの図鑑で調べてみたら、「テングチョウ」ということが分かった。「日本のチョウ」(日本チョウ類保全協会編 誠文堂新光社)には「食草はエノキ、エゾエノキ、クワノハエノキ(ニレ科)で、生育環境は、平地~山地の広葉樹林。都市近郊の公園や神社から、雑木林、自然林にかけて広く見られる。都市部の生息地はまとまった樹林がある場所に限られる。森林では、河川や渓流、林縁部など食草の多い場所が好まれる。行動は、日中高所を敏速に飛翔し、各種の花や樹液を訪れる。羽化直後は給水行動を盛んに行うため、路上の湿った場所に集団で見られることがある」と示されていた。

  テングチョウの表翅と裏翅

 他でも調べてみたら、ウィキペディアのテングチョウでは「頭部の触角の内側に前方に伸びる突起があり、これが天狗の鼻のように見えることからこの和名がある。~中略~ 山地から平地の雑木林の周辺に生息し、成虫は年一回もしくは二回発生する。最初に発生するのは六~七月頃だが盛夏には休眠する。秋に再び活動してそのまま成虫越冬し、冬眠から覚めた春先にも再び活動する。早く羽ばたいて機敏に飛び、各種の花に訪れる。稀に大発生することもある。」と記されている。

 樹林が生えている所にいるらしいがこれまで見たことはなかった。私が見かけた場所は渓流沿いの木々が沢山生えている明るい場所だった。きっと幼虫の食草が沢山あるのではないかと思う。

  蟹江周辺で見かけたテングチョウ

 テングチョウは大発生することがあるらしい。大発生によって幼虫の食草であるエノキが食害にあって、オオムラサキの幼虫の餌がなくなってその数が減少することも考えられる。どの動物であっても好みの植物だけでなく好きではないが生き延びるために仕方なく食べる食草もある筈だから、まあ何とかなっているのだろう。

 このようにテングチョウについては、最近知り合ったばかりなので、これから習性も含めて学んでいくのを楽しみにしている。(チョウ目 タテハチョウ科 テングチョウ属 テングチョウ)

コメント