ラ・フランス

植物編

ラ・フランスはその形がいびつで同じバラ科のリンゴ、ナシ、モモなどの果樹のように丸くなく、外見はでっちり型といえる形をしている。フランスが原産なので洋梨であるがラ・フランスと呼ばれている。この形の故か、私の洋画を描く知り合いはこのラ・フランスをモデルにして絵を描いたと言っていた。単なる丸いというよりは、そのいびつな形が描く対象として逆に良いのだろう。

ラフランスの花

 天童周辺では春になるとラ・フランスの花が咲くが、花を上から見ると花弁に黒い点が点在している。これは雄しべが中央の雌しべと同じように並ぶというよりは、離れているからそう見えるのである。きっと他家受粉するように、なるべく自家受粉を避ける戦略をとっているのかも知れない。

 このラ・フランスの名前や姿形は昔から知っていたが、それを食べて美味しいという経験はなかった。仙台に住んでいた時に、山形の知り合いがラ・フランスを一箱くれたのである。そのとき初めてラ・フランスを食べたが、そのねっとりした舌触りと強くない甘さに魅了されてしまった。こんなに美味しいものなのかというのが第一印象であった。

 ラフランスの実

 天童や山寺の果樹の無人販売所にもラ・フランスが何個か入ったビニール袋がリンゴ、柿、スモモやブドウなどと一緒に、一袋200円で販売されている。その袋には親切に、果物の茎の部分が押して少し引っ込むとか、黄色くなれば食べ頃と書いた紙が添付されている。私は、そのラ・フランスを買って、冷蔵庫に入れたりテーブルに置いて熟成するのを待っているが、その食べ頃の時期がいつも判断できないのである。熟さずに若すぎると、このラ・フランスはジャガイモを齧ってような舌触りである。とても昔食べたあの美味しいラ・フランスにはならないのである。

私は毎年リンゴやラ・フランスを作っている農家から、自分と頼まれた分を含めて3万円位買ってリンゴを各地方の知り合いに送る。その農家に出向くと、いつもラ・フランスもサービスしてくれる。貰った時に食べ頃になるように、冷蔵庫で熟成させてくれている。

 木守柿のようなラ・フランスかな?

私の知り合いというと、ある一人はラ・フランスの食べ頃になる熟成の時期が分からず、そのまま放っておいて、結局は柔らかくなりすぎて鳥の餌にしている人もいるし、逆にその食べ頃を的確に判断してその美味しさを満喫している人もいる。どうもこのラ・フランスは、ただ店から買って食べれば美味しいという訳でもなく、食べ頃を判断する技量が関係ある果物なのである。

先日山形大学の先生が、ラ・フランスの食べ頃を測定する器具を作ったと新聞にも掲載されテレビでも放映されていた。注射器のようなものでラ・フランスの表面を押して、熟していれば深く押し込めるが、そうでなければ押し込めないことで判定するようである。その器具の値段が8000円位だったと記憶している。こんな器具が出てくるというのは、ほとんどの人が食べ頃を計れないのだなあと思ったのである。

 山形新聞を見ていたら、次のような記事が載っていた。引用させてもらうと「フルーツの女王と呼ばれるラ・フランス。見栄えのしない外観から方言で『みだぐなす』のあだ名が付き、かつては“黒子”の受粉樹に甘んじていたが、味や香り、なめらかな食感で県産果実の主力へとのし上がった。~中略~19世紀にフランス人が発見し、本県には大正時代に入ったようだ。栽培に手間が掛かることもあって長く日の目を見なかったが、果物の需要が缶詰から生食に移るにつれ良さが見直され、西洋ナシの最高峰に。」と述べられている。(この文中の『みだぐなす』とは、『みっともない』ということだそうである)独特の形、舌触り、味などが人々の口に合うまでにはかなりの時間がかかっていたのだろう。新奇なものが受け入れられるようになるプロセスを、このラ・フランスでも見たような気がする。

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