ツユクサ

植物編

8月になると田んぼの畦に、ツユクサの青い花が咲くようになる。花は一日で萎んでしまうので、か弱げで一層可憐さを感じさせる。その花の色は一般的に青が主流だが、よく見ると薄い赤紫の花びらを持つものもある。この花びらの汁を絞って、朝顔の花のようにリトマス紙として酸性とアルカリ性を区別する試薬として使われることがあったと記憶している。

  ツユクサ

 ツユクサの絞り汁は友禅などの模様の下絵に使われている。というのは水に流すとその色が流れ落ちるからである。昔の人たちは、身近な植物の特性を知っていて、その特性をうまく利用していたものだと感心する。

 若い頃、仙台市の六郷周辺の田んぼの道を夏にジョギングしていた時、偶然に白いツユクサを発見した。これまで白いツユクサを見たことがなかったので、新種ではないかと心躍らせた。新種だったらどんな名前をつけようかと心を浮き浮きさせながら、仙台の野草園にその発見を電話したら、「そうですか」という非常に冷ややかな反応を受け取った。「たまにはそうしたものがある」というだけで、とても新種だという感じではなかったのである。

  白いツユクサ

 その後宮城教育大学の高橋金三郎先生に尋ねたら、植物にしろ動物にしろ、脱色する(白色)のは一般的によく起こることであると教えてくれた。サルや蛇などに白い個体が見られるように、アルビノと同じ現象ではないかと考えるようになった。学生の頃一番町の文化横丁に、籠に入った白いカラスが飼われていたことを思い出した。この白いツユクサは一種のアルビノで、色の遺伝子の脱落によって起こるのである。新種になるにはピンクとか赤とか黄色とかの、青とは全く異なるツユクサが発見されたとき、新種として登録できるのだろうなと考えた。

 その白いツユクサは私にとっては貴重な存在だったので、広い敷地を持つ友人の庭に株ごと採ってきて移植した。2~3年はその株が増えたが、数年経ってその場所が雑草だらけになって、白いツユクサは淘汰されて結局なくなってしまった。

  ツユクサの仲間(トキワツユクサ)

 私にとってツユクサは、もう一つ興味深いことがある。ツユクサの花は一日で萎んでしまうので、その間に子孫を残す算段をしなければならない。多くの有性植物は、なるべく環境の変化に対応できる戦略をとって他家受粉をすることを目指している。ツユクサはそれを目指して、長いめしべを空に向かって伸ばして、風や虫たちによって他のツユクサの花粉を取り込もうとする。ツユクサの花の命は一日と短いので、他家受粉ができない可能性は高い。そこで、ツユクサの花はどうするか。夕方になるとその長い雌しべが丸まって、自分の雄しべの花粉をつき易くする。つまり自家受粉するのである。ツユクサは自分の種を存続させるのに、他家受粉と自家受粉という二段構えで子孫を残す戦略をとっている、とても賢い植物と言えるのではなかろうか。

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