オシドリ

動物編

愛知県三河の設楽町田峰の寒狭川(かんさがわ 豊川の支流)にオシドリの写真を撮りに出かけた。伊勢湾岸道の飛島インターから東名高速道路に入って、豊川インターで降りて、新城市を経由して寒狭川にあるオシドリの里まで行った。所要時間は二時間位だった。

オシドリは五円、四一円、五〇円切手にもなっている上に、オスの姿がとても綺麗でいつか実物を見ることができたらと考えていた。中日新聞の十一月二日版に次のような記事が写真と共に載っていた。少し長くなるが引用してみよう。「国内有数のオシドリの越冬地として知られる愛知県設楽町田峯の寒狹川(豊川)に、今年も群れが飛来した。地元在住の伊藤徹さん(六七)が管理する観察施設『おしどりの里』が一日に解放され、野鳥愛好家が集まった。十月中旬から姿を見せ始め、現在は二百羽ほどが愛らしい姿で水に潜ったり、ドングリを食べたり。同県西尾市の岡本静江さん(七六)は『とてもかわいい』と夢中でカメラのシャッターを切っていた。『今年も皆さんの協力で鳥たちを迎えることができた』と伊藤さん。『警戒心が強く、少しの物音でも飛び立ってしまう。静かに観察して』と呼びかける。最盛期には約五百羽が集まるといい、たくさんの『おしどり夫婦』の姿は来年三月中旬まで楽しめそう。」と記されていた。

 オシドリのオスとメス

何度か道を間違えながらも「おしどりの里」まで何とか行く着くことができた。その入り口から駐車場には自由に入れるようになっていて、入り口にいた男性がどこに停めても良いと言ってくれた。降りてから駐車料金はいくらかと尋ねたら、オシドリは野生の鳥なので必ずいるとは限らない。だからオシドリの観察ができたら三〇〇円をオシドリ保護のために募金箱に入れて欲しい。もし見られなかったら入れなくても良いとの話だった。この資金はオシドリのためのドングリや観察施設のために使うという。毎年オシドリが来るようにドングリの実をこの周辺に撒いていると話してくれた。敷地の家屋の前には、ドングリを入れた袋が何袋か置かれているのを見かけた。

愛知県近辺のどこの名勝地に行っても駐車料金を取ることが普通なので、そうした寛容さには驚いた。見られないことがあるということだったので、名古屋から来たのだと話すと、「名古屋はまだ近い。もっと遠方から来る人たちもいる。」と話した。停まっている車を見たら、それでも近郊の豊田、豊橋、浜松ナンバーの車が多くて、名古屋ナンバーは私の他に一台しかなかった。

そこで、カメラを持って観察場所まで歩いて行った。反対方向から帰ってきた人に「オシドリはいましたか?」と尋ねたら、「メスはいたがオスはいなかった。」という話だった。それで写真を撮れなかったら仕方がないと思いながら進んでいくと、ブルーシートで囲われた観察小屋があった。川の脇に造られた木造の板敷きの小屋にブルーシートが張られ、小さな観察窓がついている。そこから覗くようになっていた。私が行った時は、既に三脚に望遠ズームのカメラを備え付けた人が二人、観察窓から写真を撮っていた。

今まで蟹江近くの綺麗とは言えない川でカルガモ、マガモやコガモなどを撮っていたが、ここの水は清流で流れは速い感じだった。その流れの中で多くのコガモたちが浮かんでいた。コガモだけだと思っていたら、そのカメラを構えた人が「メスのオシドリがいる。」と教えてくれた。よく見るとオシドリのメスだった。そのオシドリのメスを最近買ったカメラを望遠にして撮り始めた。するとこのカメラはオートにしてあったので、自動的にフラッシュが光るようになっていた。するとその人が、カモが驚くのでフラッシュをたかないようにと注意をしてくれたが、私は「フラッシュをたかないようにする仕方が分からない。」というと「プログラムにすればよい。」と言われた。それを分からずフラッシュが立ち上がらないように指で押さえたまま写真を撮った。

  メスの気をひこうとするオシドリのオス2羽

その頃には二羽か三羽のオスのオシドリが、コガモの群れに混じって泳いでいた。私は必死になってシャッターを切っていたら、あきれたその人は私のカメラのプログラムの印にダイヤルを合わせて、こうすればよいのだと教えてくれた。カメラには沢山の機能があるが私はカメラについて素人で全てを分かっていない。カメラに熟知している人には当然なことが分からずに、しかも咄嗟には処理できない体たらくだった。カメラをプログラムにしてからオスのオシドリの写真を何枚も撮って、「有難う」とお礼を言って帰ってきた。フラッシュを上げない方法をこれで覚えることができた。どんなに歳をとっても初めての経験では誰もが初心者なので、分からないことは知っている人に聞くに如かずと思っている。そんなことを学んだオシドリ撮影だった。

帰りにはカーナビで自宅へ帰るように入れたが、カーナビが古いので新しい道路の画像は出てこない。東名高速道路の北側に新東名高速道路ができているが、そこに入るインターがあるのではないかと思って往きの道順を外れて浜松、豊橋方面の道路を走って行った。幸運にもその道路上に新城インター入り口があり、そこから新東名高速道路に入ることができた。名古屋方面に向かって走って行った。当然のことながらカーナビは道路がない空を飛んでいて矢印だけになっていた。

最初のサービスエリアでトイレ休憩をした。そこは長篠設楽原サービスエリアだった。食堂周辺には織田家の木瓜紋(もっこうもん)の旗竿がそこら中に立てられていた。食事をしてから少し散策したら、長篠の合戦でサービスエリアの東端の高台が織田信長が布陣した場所で、その東の設楽原が長篠の合戦場だった。高速道路のサービスエリアが歴史上の合戦場の東の高台になっていたので驚いた。また不思議に思ったのはこのサービスエリア内は織田家の木瓜紋だけで、徳川家の三つ葉葵の家紋はどこにも見られなかった。武田勝頼軍と戦ったのは織田と徳川の連合軍の筈だがと思いながら、総力といい鉄砲などの戦術と言い織田信長が中心だったからだろうかと腑に落ちないまま、自分なりに納得したのである。

その後は岡崎までは空中を飛ぶカーナビに導かれて新東名を走り、豊田ジャンクションを経由して伊勢湾岸道を通って、飛島インターで降りて帰宅した。パソコンに取り込んだら数枚はオシドリの写真が撮れていた。

オシドリが越冬しているというのは東北では殆ど聞いたことがなかった。山形や秋田でその情報を聞いていたら、写真を撮りに行っていただろう。中国地方の鳥取県ではオシドリが県の鳥になっている。切手の中には大山(だいせん)とオシドリが組み合わさった切手も販売されたことがある。鳥取県日野郡日野町にはオシドリが見られる場所があって餌付けもなされている。ドングリだけでなくくず米、古米、古豆などを餌として与えている。こう考えると、中国地方ではかなりの範囲にわたってオシドリが見られるのではなかろうか。

設楽町にオシドリの写真を撮りに行った時、管理人が越冬のために来ているという話をしていた。オシドリの繁殖地はどこなのだろう。日本のカモ識別図鑑によると、図では日本を含む沿海州が繁殖地になっていた。分布・生息環境・習性では「留鳥または冬鳥として全国的に生息し、北海道、東北ではほぼ夏鳥。山間の渓流、湖沼などの近くの木の洞で繁殖する。冬は周囲を木々に覆われた池、湖沼、河川に生息し、都市の公園の池でも、同様な条件がそろえば越冬する。おもに植物食で、特にドングリを好んで食べる。水棲の生物も食べる。」と記されている。こんな疑問を持つようになったのは、NHKのニッポンの里山「ケリが巣立つ河和田地区 福井県鯖江市」の放映された中に、オシドリが河原地区の鎮守の森にある一〇〇年位経った杉の洞で、子育てしている様子を映していたからである。他のカモの多くがシベリアや沿海州から越冬のために日本に飛来することから、それが一般的でありオシドリもそうに違いないと思っていた。ところがこの番組を視てそうではないかもしれないと思うようになっていた。設楽町のオシドリたちはどこから越冬のために飛んで来るのだろうか。

その後に元同僚だった松田夫妻が名古屋を訪れてくれた。そこでオシドリを撮りに行ったことを話すと、何のことはない、山形の県鳥がオシドリだと教えられた。灯台下暗しとはこのことである。インターネットで調べてみたら平成二十六年度では山形県内で三五羽が確認されていると記されていた。野鳥観察会の記録を見ると、七月に酒田、十月に寺沢、十一月に山辺町で観察されている。酒田のオシドリはこの地域のどこかで繁殖している可能性があるが、十月十一月のオシドリは越冬のために来ている可能性がある。

「日本のカモ」(氏原巨雄 氏原道昭 誠文堂新光社)によると、「繁殖分布は沿海州で、日本で周年見られる」と図示されている。具体的な事例からもやっぱりどちらの可能性もあるだろうなと今のところは考えている。(カモ目 カモ科 オシドリ属 オシドリ)

 

                            

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