ホオジロ

動物編

天童にいた頃からホオジロは何度も見かけていた。丘陵地帯を車で通ったり歩いていると、左から右へまたその逆というように、道路を横切って飛んで行く。すぐ木陰に入ってしまうのでその姿をじっくり見ることは珍しい。それでも姿の一部が見えることもあり、その頭の形や眉斑(びはん)が白いことからホオジロだと確認できていた。見た場所は丘陵地帯や山裾に限られていて山の奥では見かけたことはない。そんなことから里山で生きている鳥ではなかろうか。

ホオジロ(右端はメス)

 そんな名前も知り顔馴染みになっているホオジロだが、撮りたいと思いながらも写真にきちんと撮れたことはなかった。天童市の水晶山の入り口に茎が三角のサンカクイやハラビロトンボの写真を撮りに行った時、近くの電線にホオジロらしい鳥が止まっていた。カメラのシャッターを切ったがパソコンに取り込んでみたらぼやけていた。でも輪郭と色合いからホオジロだと分かった。見かけていながらずーっと写真が撮れず欲求不満になっていた。

 東根市の沼沢地区に五月末に動植物の写真を撮りに出かけた時、その山道を歩いていたら木の梢にホオジロが止まっていた。その場をじっと動かないままだった。すかさずカメラのシャッターを切った。撮れた写真はきちんとした良い写真だった。何回も何回もホオジロを撮ってきたが、やっと写真らしい写真が撮れた。

 ホオジロの囀り

 蟹江に帰って来てからも色々な鳥の写真を撮っている。二月になって日光川と善太川の河口がぶつかる土手付近を連日徘徊している。また日光大橋から上流に向かって尾張中央道の橋が架かる辺りの土手も歩いている。そこではカルガモ、ヨシガモ、オオバンやカワウが見られる。上流に向かって右手の土手なので、天気が良いと水面が逆光になってカモの写真が上手く撮れない。日光大橋近くの岸辺にはヨシ原があり、川の上流に向かう土手に沿ってヨシの一部が枯れ草のまま続いている。孤高の鳥であるツグミがコンクリートの護岸を頻繁に飛んだり降りたり歩いたりしている。この辺りは天童近辺に較べるとツグミの数はかなり多い。ツグミよりは小さい茶色い鳥が、素早く前方のヨシの枯れ草に飛んで行って隠れる。そんな光景を見ながら次の橋まで行って戻ってくると、日光川と土手を挟んで佐屋川があるが、その川辺の草叢の木にさっきの茶色い鳥が止まっていた。

佐屋川はコイ等の川魚を養殖している。佐屋川のどの場所でも遊漁料を取って釣りをさせている。建築家の黒川紀章の親戚が持ち主で、テレビで若尾文子と結婚した彼がテレビ対談で佐屋川は黒河家の所有地だと話していた。

その鳥の写真を撮ろうと望遠にしてファインダーを覗いたら何とホオジロだった。ホオジロは山沿いにしか住んでいないと思い込んでいたので、日光川の河口付近にホオジロがいることに吃驚してしまった。連写して写真を撮ったがぼやけたものが多かった。家に帰ってパソコンに取り込んだら撮ったホオジロの近くにもう一羽ホオジロが写っていた。二月半ばなので番い(つがい)形成時期だと思われ、この二羽は番いなのだろう。

 ホオジロの番い

数日後その場所を通ったらまたホオジロを見かけた。前回同様に少し離れた場所にもう一羽が止まっていた。写真を撮ろうとしたホオジロは小枝を咥えていた。それを見てやはり番いなんだと確信した。しかも枝を咥えている様子からこの草叢に営巣しているのではないかとも思った。

 ホオジロを蟹江周辺で見かけたことで、自分の認識を改めることになった。日光川と善太川の河口が合流する辺りにも広いヨシ原があるが、ツグミよりは小さい鳥が数羽の群れで飛んだり茂みに隠れたりしている。カワラヒワを頻繁に見かけるのでカワラヒワの群れかも知れないと思いながら写真を撮っていた。すぐにヨシ原の中に入ってしまうのでなかなか同定できない。ヨシ原で鳥を見かけると望遠で写真を撮ってパソコンに取り込んで拡大している。撮った写真にはオオジュリン、ベニマシコやホオジロと思う鳥が撮れていた。三月に入ってヨシの茎に止まってホオジロが囀っているのを見かけた。やはりこの近辺にはホオジロが恒常的に住んでいるのだと思うようになった。

 二月の半ばに木曽三川の長良川脇の水門横の沼にカモの写真を撮りに行った。そこにはオカヨシガモ、オオバン、キンクロハジロの他に珍しくホシハジロがいた。それらの写真を撮りながら歩いて行くと、沼の反対側にある畑の木の梢に鳥が止まっていた。その写真を望遠で撮ったらそれはホオジロだった。そのホオジロは声高らかに綺麗な声で囀り始めた。厳しい寒さの合間の春のような日射しの一日で風もなかった。セーターを着ていると暑い位の日だった。そのホオジロは縄張り宣言とメスへのアピールをしているのだろう。この畑も山沿いではなく平地だった。ここでも私のこれまでのホオジロに対する考え方は覆されてしまった。

 ホオジロ(左端はメス)

 そこで「日本の野鳥」(叶内拓哉 安部直哉ら著 山と渓谷社)を見たら、「環境は平地から山地の草原、農耕地、川原、疎林など。行動は、繁殖期以外は小群で生活するものが多い。開けた場所を好み、ときどき灌木の茂みに入る程度で、暗い林内に入ることは少ない。もともといなかった山林でも、伐採された二、三年後には生息するようになる場合が多い。繁殖期には主に昆虫類を、非繁殖期には主に草の種子を採食。鳴声は繁殖期には高い草木の頂などでさえずる。」と記されている。

 ホオジロは山沿いだけでなく開けた平地でも住んでいることが日光川周辺でも確認された。また川の中の石に止まっているホオジロの写真も撮った。ツグミやムクドリは土手の道路や堤防のあちこちにいて簡単に写真を撮ることができるのに、ホオジロはヨシ原の中にすぐに隠れてしまう。また警戒心が強くて人の姿が見えると遠くの方へ飛んでいく。蟹江周辺のホオジロとの出会いは、私にとってはなぜか嬉しい出来事になった。(スズメ目 ホオジロ科 ホオジロ属 ホオジロ)

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