ベニイトトンボ

動物編

昔からトンボ採集はしてきたがトンボの専門家でもなく遊んだ対象としての存在でしかなかった。トンボの種類や生態も種によって違いがあり、専門家の知識の深さには驚嘆するばかりである。私にはどれも同じように見えてしまう。その中でもイトトンボの仲間には色々な種類がありどれがどれだか分からないものが多い。

ベニイトトンボ(真ん中がメス)

 それでも何種類かは同定できるものもあり、ベニイトトンボはその一種である。蟹江に戻って南側の狭い庭に、今年になってナス、キュウリ、トマト、ハナオクラの他に、ハス、ワタ、アズキ、イネ、オモダカ、イボクサ、ラッカセイ等をプランターで育てている。また産地別のメダカ、タイリクバラタナゴ、フナ、シマエビ、モツゴ、ライギョやナマズを安い塩化ビニール製のプランターを水槽代わりにして所狭しと置いている。一見すると畑にある小さい池(ビオトープ)のような風情となっている。

 昨年もその庭でベニイトトンボを見かけた。蟹江に住み続けていたらもっと早く出会っていただろうが、これまで帰省した時には出会ったことはなかった。天童の原崎沼の「網張の里」の草叢にある小さい池でも見かけたことはなかった。天童周辺の沼には頻繁に出かけているので、もしベニイトトンボがいたらきっと見かけていた筈だと思う。天童周辺では地域的にいないのではないかと思う。

  交尾態と連結態

 今年になって庭でまたベニイトトンボを見かけた。私の住む団地は団地内の何本かある東西に走る道路ごとに、南北に二軒ずつの家が東西に一二軒ずつ並んでいる。私の家は北側の道路に面している北側の住宅で、南側には二階建ての家が建っており、冬になると一階の部屋は全く日が当たらなくなる。そんな北側の一二軒の並びは、全て南側に狭い庭がある。一二軒の狭い庭が並んだほぼ真ん中に位置する自宅の庭には、昔母が木の枝にミカンを刺していて、メジロが飛んできて啄んでいた記憶がある。二階のベランダから見ると庭が一二軒分繋がっており一種の緑地帯のような様相となっている。そんな住宅の緑地帯と自宅の庭が一種のビオトープの状態になっているから、ベニイトトンボが飛んで来たのかもしれない。

 同じ属のキイトトンボ

 ベニイトトンボは、環境省レッドリスト(二〇一二年)によると、「準絶滅危惧種」に指定されている。先日蟹江町の図書館に出かけて愛知県の動物関連の資料を見ていたら、そこにもベニイトトンボは希少種だと載っていた。昔この蟹江ではキイトトンボが沢山いて、私はそれでトンボに興味を持つようになった。最近この辺りでキイトトンボを見かけたことはないのにベニイトトンボに出会ったのである。オスの赤い色は目立つ。何回か庭で見かけたので写真を撮った。こんなに目立つ色なら敵からも目立って危険ではないかと思う。そんなことが準絶滅種になった理由だろうか。

 イタセンパラの資料の中にも「木曽川中流部のワンド周辺では、イタセンパラの他イチモンジタナゴやベニイトトンボ、カキツバタなどの希少な生物が確認されています。」と記されている。

蟹江周辺の用水路に行って魚捕りをしたり写真を撮っているが、水辺でベニイトトンボを見たことがない。どうしてここに時々飛んでくるのか分からない。一週間程前にもベニイトトンボが止まっていた。以前のものに較べるとやや薄黄色も入って地味な感じだった。羽化したばかりなのかと思っていた。写真を撮ってから数日経っても庭のホテイアオイやハスの葉、アズキの葉で見かけた。その頃台風が来て嵐になったが、その後にも庭にいることを発見した。どうやってやり過ごしたかとても不思議である。そのベニイトトンボは体表の色は以前のままだった。きっとメスではないかと思う。その薄い色のベニイトトンボの他に、赤いベニイトトンボが庭の他の場所にいて、二匹同時に庭にいることもあったが、交尾はしていないようだった。

その二匹を見てここに定住しているのではないかとさえ思うようになった。このメダカの稚魚を入れてあったプランターで、親が産卵し幼虫がメダカの稚魚を餌にして羽化したのではないかと思うようになった。団地の中のビオトープと私がいう意味はそんなことからの発想である。

 連結産卵する(オスは立ち上がる)

 ベニイトトンボは、私が親しんできたキイトトンボと体つきや雰囲気が似ている。特に頭の作りや色合い、そして尾の太さの雰囲気がとても似ている。キイトトンボはイトトンボの仲間では大きい方に属する。頭の形や色合いがベニイトトンボとキイトトンボはそっくりなのである。調べてみたら同じキイトトンボ属に属していた。そんなことを知って妙に納得してしまった。

 「日本のトンボ」(尾園暁 川島逸郎 二橋亮 文一総合出版)のベニイトトンボの項目には「分布図では、愛知県、三重県、大坂府周辺と山口県及び九州地方に偏っている。生息環境は主に平地~丘陵地の抽水植物や浮葉植物の繁茂する池沼。生活史は卵期間一~二週間程度、幼虫期間二か月~一年程度(一年一~二世代)。幼虫で越冬する。形態は他の赤くなるトンボと異なり、羽化時には既に体色が赤くなっている。備考として全国各地で減少していたが、最近になって新産地の発見が相次いでいる。これは水草の移動や放逐などに伴う人為的な分布拡大の可能性もある。産卵は交尾を終えたペアは連結態のまま、水面に浮いた植物組織内に産卵する。オスはその間、直立姿勢で警護を続ける。メス単独での産卵もしばしば観察される。交尾は成熟オスは植物の間を飛んでメスを探し、交尾は水辺の植物に止まって行う。同じペアが交尾と産卵を繰り返すことがある。キイトトンボのように大型の獲物を捕ることは少なく、小昆虫や小型のクモ類をよく捕食する。」と記されている。

 ベニイトトンボの分布状況からすると、自宅の庭でベニイトトンボを見かけるのは幸運だとしか考えられない。一年に一~二世代に亘ることからすると庭のプランター水槽でヤゴになり羽化している可能性は否定できないと思う。何とか来年もお目にかかりたいものである。(トンボ目 イトトンボ科 キイトトンボ属 ベニイトトンボ)

                             

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