土手や樹上を被う蔓植物

その他編

植物は水と炭酸ガスと日光を基に光合成して、他に窒素、燐酸、カリウムなどの肥料があればより生長していく。東南アジアのジャングルでは、日光の分捕り合戦がその植物の生死を分けている。そうした高い樹上での戦いの地上部分では、日光はほとんど届かずに植物が枯れたり育たない環境だと考えられる。

 植物は日光のどんな光の波長を利用しているのか。私たちは植物の緑色をみると心が癒されたりほっとするが、七色の光の波長の中で、この緑色が葉で光が反射されているので緑色に見えるのである。ということは、植物は光合成するのに、緑色の波長は使っていないことになる。調べてみると、植物は赤色か青色の波長の光を使って光合成しているのである。最近では、これらの光の波長のLEDを使って、屋内で効率的に野菜を育てる野菜工場の話も見聞きするようになってきた。

 日本では日光の分捕り合戦はないかといえば、熱帯雨林ほどではないにしてもある。というのは、森に行くとツタがスギの木に吸盤をつけて垂直に蔓を伸ばして這い上がっているのを良く見るし、アメリカに行ったとき建物の壁がツタで覆われていたのも自然の風景だった。アメリカ東部の大学がアイビーリーグというのもこうしたツタに絡んだものだろう。

   クズ

 ツタ以外で私が第一に思いうかべるのは、やはりクズである。このクズは3枚の葉(3小葉)からなり、大きいときは3枚のうちの1枚だけでも人の顔より大きいものがある。こんなクズが土手一面を被っていたり、電車の通る鉄橋にぶら下がっているのを夏の季節には誰でも目にしているはずである。また原崎沼辺りでは、ある木の樹上をクズが一面に被っていて光を分捕っていた。土手一面のクズの下に生える植物は、きっと生長を妨げられているに違いないと思う。

 こうして土手や野原一面、そして樹上を被っている蔓植物と言えば、他にヤブガラシ、カナムグラ、アレチノウリ等がある。ヤブガラシは東北でも見かけるが、私が育った名古屋ほどには繁茂しているのを見たことがない。でも東北では野原や土手で探すと生えているのを見かける程度である。気温や環境条件が相応しくないだろうか。小学生時代には、ヤブガラシが木々の上に被さっており、それに花が咲くとアオスジアゲハが飛んできて花の蜜を吸っていた。小さい花が集まってある大きさの花の塊になっていて広がって咲いているが、花弁だと思えるものはないようだった。飛んでいたアオスジアゲハを追いかけて捕ろうとするが、そう簡単には捕れなかった。というのは、ヤブガラシの花が高い樹上に咲いているからである。

   ヤブガラシ

   ヤブガラシに吸蜜に来るアオスジアゲハ

 ところがそんな勢いがないヤブガラシと違って、東北では秋になると野原一面に広がって勢力を拡大しているのはカナムグラである。秋になるとそこら辺がカナムグラだらけになり、その葉の中から長い花茎を出して花が咲く。葉はクズほどの大きさではないが、一面を被ってしまう繁殖力が強い植物である。山寺に抜ける道の脇道に入ったら、樹上をクズが被っていたが、その下の土手にはカナムグラが生えていた。こうして植物間で棲み分けしているらしい。

  カナムグラ

 宮城県の村田町から岩沼市に抜ける山沿いで、大きな葉で土手が被われているので、カボチャでも植えているかと思って車から降りて写真を撮ろうとした。葉の間から実が見えたが、ヒシとか金平糖のような風貌の緑色の実がなっていた。こんな実をつける植物があるのかと吃驚しながら写真を撮った。友人宅を訪ねて庭の手入れがしていない場所には、何のことはない先ほどの蔓性の植物が生えていた。窓越しにみると、やはりあの変わった実がついていた。主人に聞くと、数年前から増えてきて、秋口になると庭一面がこの植物被われると話してくれた。それで自宅に帰って図鑑で調べてみたら、アレチノウリという植物で、アメリカ原産の帰化植物であるという。1950年代に大豆の種にくっついて入ってきたとあった。これが日本全国に広がるには多少時間はかかるだろうが、繁殖力が強そうなので、いつかヤブガラシやカナムグラを駆逐して勢力図を変える可能性がある。友人宅の庭は、数年前はカナムグラだったと記憶しているから、それがアレチノウリに切り替わったのである。

  アレチウリ

 野原や荒地、樹上に繁茂する植物の生態系とその日光の分捕り合戦についても、激しい闘いがあることに驚いたのである。

コメント