キンクロハジロ

動物編

善太川には冬になるとカイツブリ、カワウ、カルガモ等の留鳥の他に、冬鳥たちがやってくる。オオバン、マガモ、オカヨシガモ、コガモ、ミコアイサ等である。その中に時々キンクロハジロも見られる。善太川でキンクロハジロがいつも見られる訳ではなく時々見られる程度であり、付近の沼や川を移動しているのではないかと思う。

キンクロハジロ その1

 最初にそのキンクロハジロを見たのは、十二月に善太川の関西線の鉄橋のすぐ南側で、一羽のカイツブリと数羽のキンクロハジロを見かけたのが始めだった。まだその頃はカモ類の区別は全くできず、カイツブリとキンクロハジロとの区別さえ覚束なかった。しかしだんだんとその違いは分かるようになってきた。カイツブリはひょろっとした長い首ときょろっとした目が特徴なのに、キンクロハジロはそうではない。キンクロハジロの方が全体に黒っぽい羽で覆われている。目の虹彩はどちらも黄色い。カイツブリもキンクロハジロも潜って小魚を獲るが、キンクロハジロは他に甲殻類や水生昆虫、水草なども採餌する。

 水面を蹴りながら飛び立つキンクロハジロ

 カイツブリは潜ると一分近く潜っていて潜った場所から随分と離れた場所まで移動して浮き上がってくるが、キンクロハジロはそれ程の時間や距離ではない感じである。これらの鳥は水中採餌する仲間なので、水面採餌するマガモ、オカヨシガモやカルガモに較べて足が胴体のやや後ろについており、飛び立つ時には水面を足で何回も蹴って飛び立っていく。それに較べてマガモたちは即座に飛翔に入れる。こんなこともだんだん分かってきた。そんなことも分かると嬉しいものである。

 その後岐阜県海津市の長良川の水門がある沼に、カモの写真撮りに行った。そこには、オカヨシガモ、ハシビロガモ、オオバンの他にキンクロハジロが泳いでいた。そのキンクロハジロには冠羽があって、頭から羽が数本離れていた。それがキンクロハジロの一つの特徴である。写真を撮るとその姿かたちは美しい。また立田大橋から南の桑名市側の木曽川の川べりを歩いていたら、そこにキンクロハジロの一〇羽位の群れが泳いでいる。私が歩いて行くと川べり近くにいた群れが木曽川の中央に逃げるように泳いでいく。私からは後ろ向きになって離れていくので良い写真が撮れない。野生の鳥たちはとても用心深く慎重で逃走距離が種によって異なるものの、いつもその距離が長いと感じる。

 藤前干潟で見かけたスズガモ その1

 そんなことからキンクロハジロを知った積もりでいた。庄内川、新川、日光川が流れ込む藤前干潟にミサゴとカモの写真を撮りに出かけたらヒドリガモ、マガモ、コガモ、カルガモ、オカヨシガモの他にキンクロハジロだと思われる黒っぽいカモもいることが分かった。遠くから見るとキンクロハジロのようだが、違うような気もする。最初はキンクロハジロだと思い込んでいた。しかしオスの背中の上面(黒い部分)が尻の方が黒くて真ん中は白っぽい斑(まだら)模様になっている。またメスは嘴の根元の部分が白く、根元がリング状に見えるものもいる。頭や顔の部分が日の当たり具合で緑色に見える光沢がある。大きな特徴はキンクロハジロとは違って冠羽がなく集団でいることや岸の近くには近寄って来ないことである。そのカモはスズガモである。

 藤前干潟で見かけたスズガモ その2

 十二月の終わりに藤前干潟に午後出かけて、藤前干潟に西から入り込む新川河口に向かって歩いていたら、その前方に大量の鳥が線になったり塊りになったりしながら、干潟の伊勢湾岸道に近い水面の方角に飛びながら移動していた。その数は五~六〇〇羽ではないかと思われる。まだ新川河口まで行っていなかったので、鳥の群れが絶えまなく飛んでくる光景を見てとても驚いた。カメラを望遠にして見たらカワウの群れだった。スズガモはカワウ程の大きな集団でないが、小集団というよりは中集団といっても良い集団で行動している。藤前干潟の新川河口ではキンクロハジロは殆ど見かけないので、キンクロハジロとスズガモは生息場所が異なるのではないかと、今のところは考えている。

 キンクロハジロ その2

 そこで、「日本の野鳥」(叶内拓哉 安部直哉ら著 山と渓谷社)でキンクロハジロとスズガモについて調べてみた。キンクロハジロは「形態はオスは頭部から頸は紫色の光沢のある黒色で、後頭には長い冠羽がある。脇腹と腹は白く、他は黒い。嘴は青灰色で先は黒い。虹彩は黄色。メスは頭部から頸は黒色で、短い冠羽がある。~中略~ スズガモのメスの頭は丸みがあるが、本種はとがって見え、冠羽があることで識別できる。環境は、湖沼、池、河川、内湾、港など。行動は、ふつう日中は休息していることが多く、暗くなると食べ物の多いところに飛んでいき、活発に行動する。水面を動き回っては潜り、貝類、カニやエビなどの甲殻類、水生昆虫などのほか、水草も食べる。近年では公園の池などにも多く入り、餌付けされている場所では、日中でも人間が与えた餌をよく食べる。」と示されている。

 またスズガモは「形態はオスは頭部から胸は黒い。頭部は緑色の光沢があるが、光の当たり具合で紫色にも見える。上面は白く、黒い波状紋がある。腹も白く、脇腹には淡黒褐色の目立たない波状紋があう。メスは頭頂は褐色。顔と頸は黒茶色。顔の前面は白い。上面は灰黒色で、胸から脇腹は褐色。上・下尾筒は黒褐色。嘴は青灰色で、先端は幅広く黒い。虹彩は黄色。頭は丸い。環境は、内湾、港、海に近い池など。行動は、日中は波の静かな内湾や、海岸近くの池や湖に入って休息するものが多い。休息時は大群でいることが多い。夕方になると一斉に飛び立って海上へ行き、潜水して採食する。貝類や甲殻類を好み、海草類なども食べる。朝方、休息場へ戻る。内陸の湖沼に入る個体は少ないが、他のカモ類の集まるところに入ることもある。」と述べられている。

 これらの記述からは、食性や採餌する時刻なども似ており、ちょっと見ただけでは区別することが難しい。私もこのキンクロハジロとスズガモをそれぞれ示されて区別する自信はない。冠羽がはっきり見えるとか、背中の上面が波状紋になっているかがはっきりしていれば何とか区別することはできるかも知れない。頭部の丸みなどが区別の一つの手がかりだが、今のところ私が区別する基準にはなっていない。こうしたことを何度も経験しているうちに見た瞬間にどれだか同定できるようになるのだろう。これまでの経験でマガモのオスとメス、カルガモなどは遠くから見てもすぐ分かるようになってきた。その時はそれぞれの特徴を一個一個確かめてのことではない。そのカモの色合いや姿から直観的にどのカモだか分かる。自分でも不思議なことだと思っている。将棋の詰めなどの論理の訓練を積み上げていくと、その後直感的にどの手が良いかということを感じるのと同じである。なぜかパースの論理から直観に繋がるという説を思い出してしまった。(カモ目 カモ科 ハジロ属 キンクロハジロ)

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