カマキリ

動物編

カマキリは小さい頃から周りに普通にいた昆虫である。あまり親しくなった感じはなかった。幼稚園や小学校でカマキリの卵を捕ってきて、それが孵化して沢山のカマキリの幼虫が教室中を歩きまわったという話は、幼稚園や小学校に実習巡回や授業参観に行くと聞かされたものである。

ハチを狙って攻撃体勢をとるカマキリ

 先日団地の中を歩いていたら、ある家の前にシソ科の植物が鉢植えにされていた。そのシソ科の植物の葉にカマキリが止まっていた。そのカマキリは尻尾をそり返して、前足を体に引き付けて攻撃体勢をとっていた。その植物の先に黒いハチらしいものが止まっている。それを狙っていたのだ。そのカマキリの攻撃体勢と獲物である黒いハチの距離は少し離れていたが、その緊張感は傍で見ている私にも良く分かった。その瞬間カマキリはその獲物を補足したのだった。普段カマキリをよく見かけるが、それらはのんびりしていて獲物を狩る場面ではない。カマキリが獲物を狩る瞬間を見たのはこれが初めてで、その肉食昆虫の凄さを見せつけられた感じだった。

 カマキリを見ると連想的に肉食獣の特徴を思い出す。顔が三角で前足が後ろ足より短く、恐竜のティラノサウルスはカマキリと姿が似ている。ティラノサウルスは三角の顔ではないが体の特徴はそっくりである。私にとってカマキリは肉食動物の典型的な体つきなのである。

  普段みられるカマキリの様子

 勤めていた短大の構内に特別養護老人ホームの「たかだま」がある。そこに勤めている大津綾さんと知り合いになった。というのは、この施設ができる前に、準備室が短大の校舎内にあり、それで話をするようになり学長室でも話をしたものである。この女性は昆虫等の動物好きで変わった実験風のことをする人である。ある時にキッチンハイターにカエルを入れたら溶けたというのである。なぜ溶けるのかと質問された。その時はキッチンハイターの成分は分からなかったが、キッチンハイターの成分の中に苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)が入っているのではないかと答えておいた。

大学院生の頃、仙台の白百合学園小学校で、助教諭の資格で五~六年生に理科の授業をしていたことがある。その時に塩酸(HCL)と水酸化ナトリウム(NAOH)を混ぜ合わせて塩(NACL)を作る実験を行っていた。その当時、薬瓶には塩酸が入った瓶があったし水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)の瓶もあった。それを少量ずつ加えて塩を作る実験をした。その当時美空ひばりが公演中にファンから塩酸をかけられたたとか、最近でもスーパーで硫酸をかけられた事件があった。塩酸では火傷を負うような場合だし、硫酸では物が溶けることがあるように思う。昔読んだ松本清張の小説に死体を硫酸溶液に浸して溶かす物語があったような気がする。その当時の私には塩酸や硫酸の方が水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)よりは劇薬だとの認識であった。塩酸や硫酸は体に付着したら、すぐに水道水でどんどん流せば大きな被害はないということが分かってきた。それに較べると水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)はタンパク質を溶かしてしまう。ましてや水酸化ナトリウムの溶液が目に入ったら、失明する可能性もあるのではなかろうか。そう考えると、塩酸よりは水酸化ナトリウムの方が余程の劇薬だと認識するようになった。そんな劇薬が理科室の準備棚の中に簡単な鍵だけでよく置かれていたものだと思う。今から考えると恐ろしいような気がする。

温泉で肌がすべすべになるという効能書きがある泉質で、名湯と言われている所では、例えば岐阜県の下呂温泉や福島県の母畑温泉等は、温泉で皮膚がヌルヌルして体に優しい感じがする。女性にとっては肌がすべすべになるから好まれるのだが、こうした温泉の多くはアルカリ泉質である。言ってみれば肌の皮膚が溶け出すようなもので、害がある程ではないのは当然だが、同じタンパク質を溶かす原理によるものではなかろうか。

キッチンハイターの成分に水酸化ナトリウムが入っているか調べてみた。すると、漂白剤として次亜塩素酸ナトリウム、アルカリ材として水酸化ナトリウム、界面活性剤としてアルキルエーテル硫酸エステルナトリウムがあり、予想通り水酸化ナトリウムが入っていた。これがカエルの皮膚を溶かす原因だったのである。

この大津さんからは、別の質問も受けた。カマキリを捕まえて腹をつぶすと、黒い針金のような線虫(ハリガネムシ)が出てくる。どのカマキリにも線虫がいると思っていたが、いないカマキリがいるのは何故かというのである。私は線虫は寄生虫だから必ず寄生しているとは限らない。だから全てのカマキリの腹に線虫がいるとは限らないと説明した。彼女の言い分からすれば、殆どのカマキリにいるような言い方であり実際にも多いのかもしれない。

 色々な場所で見かけるカマキリ

その線虫(ハリガネムシ)といえば、私にも小さい頃の思い出がある。東芝社宅の家の前の道路にカマキリが死んでいて、皆で腹をつぶしたら黒い針金状の線虫が出てきた。昔から母にハリガネムシにおしっこをかけるとおちんちんが腫れるぞと脅(おど)されていた。しかし皆でハリガネムシにおしっこをかけたのである。すると数日後に本当におちんちんが腫れてしまった。母から言われていた、してはいけないことをした罰である。だからカマキリのハリガネムシとおちんちんが腫れることはずーっと大きくなるまで対連合していて記憶に残っていたものである。今から考えると子どものことだから汚い手でおちんちんを掴んでおしっこをしたことがおちんちんが腫れる原因で、ハリガネムシにおしっこをかけたこととは関係ないことは言うまでもない。

 人間は色々なことを関連づけてしまう習性がある。これが世の中の理不尽な予言とか、関連とかを作り出す源なのではなかろうか。人間の能力の素晴らしさと同時に酷さに通じる能力と言えるだろう。(カマキリ目 カマキリ科の昆虫の総称)

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