コシアキトンボはシオカラトンボと同じ位馴染みのあるトンボである。シオカラトンボは水辺よりは畑や道端の枯れ枝や石ころに止まったりしている。それに較べるとコシアキトンボはそうした環境ではなく主に水辺や池の周りにいて水面上を飛んだり、水面に出ている枯れ枝に止まっていることが多い。生活環境が全く異なっている。
コシアキトンボのオス
小学生の頃には名鉄線の中小田井近くの「ミツカン酢」工場脇の沼でも、あま市の萱津神社の境内の池でもよく見かけていた。タモ網で捕ったこともあるが飛翔力がありシオカラトンボよりは捕るのが難しい。夏にトンボ捕りに行くといつも池や沼にコシアキトンボが見られたものである。
コシアキトンボには腹部の一部に白い部分や黄色い部分があり、池の上を飛翔して水面に突き出ている枯れ枝に止まる。それがコシアキトンボに私が持っている印象である。
このコシアキトンボは天童の山元沼でも原崎沼でも見かけていた。仕事が忙しくてトンボを観察する余裕が何十年もなかったので、二つの沼で見かけた時にはチョウトンボ、ショウジョウトンボ、ウチワヤンマ程ではないもののとても懐かしく感じた。ところが沼の周りを散策して見かけたコシアキトンボはその腹部がみな白かった。
コシアキトンボのメスと産卵
小さい時の思い込みではオスは腹部が黄色くメスは白いと思っていた。この二つの沼で見かけたコシアキトンボは腹部がみんな白い。オスが見当たらない、何故だろうと思っていた。気候の違いによるヤゴや成虫の食性が異なるので、東北のコシアキトンボは、オスもメスも白っぽいのではないかと思ったのである。
蟹江に帰ってから六月初旬に庄内川沿いにある庄内緑地にハナショウブの写真を撮りに行った。何十種類のハナショウブが植えられていて名古屋近辺のハナショウブの名所の一つになっている。ハナショウブが植えてある畑の細い水路にはクロスジギンヤンマのオスが飛んでいた。その写真を撮ろうとしたが全てぼやけてしまった。ハナショウブの写真を撮り終わって駐車場に帰る途中、緑地内のクスノキに囲まれた路上にコシアキトンボが何匹も飛び回っていた。そのトンボの中には腹部が黄色いトンボがいて名古屋周辺ではオスのコシアキトンボの腹部は黄色いんだなあと再認識したのである。同じコシアキトンボでも、東北と愛知県では種が多少違うのかも知れない。
「日本のトンボ」(尾園暁 川島逸郎 二橋亮 文一総合出版)のコシアキトンボの項目を見ていたら、この腹部の黄色は未成熟の成虫に見られる特徴であるように記されていた。コシアキトンボの項目では「図による分布ではほぼ日本全国に及んでいる。生育環境は平野~丘陵地の、周囲を樹林を囲まれた池沼や河川の淀みなど。生活史は、卵期間一~二週間程度、幼虫期間半年~一年程度(一年一世代)。幼虫で越冬する。形態は、黒味の強い中型のトンボ。腹部第三~四節に黄白斑があり、オスは成熟すると斑紋が白色になる。オスメスともに前額は白色~黄色、翅は基部と先端部に濃褐色部があり、特にメスで目立つ。産卵は、交尾後のメスは単独で、水面に浮かぶ植物や浮遊物のほか、水面から突き出た枝などを腹端で連続的に叩いて、卵を付着させる。オスが周囲を飛んで警護することもある。水面から突き出た枯れ枝などに産卵することもある。交尾は、メスを見つけたオスはすぐに捕らえて空中で交尾態となる。交尾は終始飛びながら行われ、数秒で終わることが多い。縄張り争いは、成熟オスは池の岸に沿って往復飛翔し、縄張りを占有する。オス同士が出会うと激しい争いが繰り広げられる。」と示されている。
オスのせめぎあい
私は何十年間もコシアキトンボのオスの腹部は黄色で、メスの腹部は白いと思い込んでいた。ハラビロトンボの体色の変化と同様に、時間経過と共に腹部の色合いが黄色から白に変化していたのである。東北地方と愛知県のコシアキトンボの種間には違いがあると考えていたが、時間経過の変化に過ぎなかったことになる。庄内緑地で写真を撮ったコシアキトンボは腹部が黄色だったがその時期は六月九日だった。それに対して天童市の山元沼と原崎沼で撮った写真は七月中旬から八月上旬だった。季節の変わり目が天童では早く来て秋も早いことから、コシアキトンボの出現と成熟も早いのかも知れない。そう考えながらも春から秋にかけて一週間毎に定期的に歩き回っていたから、山元沼や原崎沼でコシアキトンボの腹部が黄色いものを見かけた記憶がないことに今でも合点がいかない。見えども見えずだったのだろうか。(トンボ目 トンボ科 コシアキトンボ属 コシアキトンボ)
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