ウワバミソウ

植物編

4月末から5月にかけて、山形県では山菜が地元スーパーや農産物市場などで出回るようになる。タラの芽やワラビなどに交じって、ウコギ、コシアブラ、ミズ(ウワバミソウ)、シドケ(モミジガサ)、フキノトウ、ウルイ(オオバギボウシ)、ギンボ(ボウシ)、コゴミ、ウドやネガマリダケなど多様である。これらはお浸しや天ぷら、胡麻和えなどで食べるが、それぞれ味が違っていて、春の醍醐味を味わえるのでとても楽しい時期である。

 私自身は、天ぷらや胡麻和えにして食べるのが好きだが、自分で採ってきて食べるものもある。タラの芽、ワラビ、フキノトウ、コゴミ、ギンボそれにユキノシタなどである。これらの多くは天ぷらにして食べる。ワラビ、コゴミ、ギンボ、ユキノシなどは毎年生えるところが決まっているので、採りつくさなければ毎年楽しむことができる。フキノトウやウドなどは3月から4月にかけて、関山や笹谷トンネルを超えて仙台方面にいくとき、道の周辺にたくさん生えているので、売っているのを買うことが馬鹿らしくなるほどである。

 タラの芽は毎年山に入って採りに行くと、もう既に採られていることが多く、しかも鎌で茎を切り取られている。早めに切り取って芽の出る前のつぼみの茎を、バケツに入れておいて大きくなって適当な葉が出始めたところで食べるのではないかと思われる。スーパーで売っているタラの芽は、農家の人たちが畑で栽培し春先に切り取って、出荷時期を調節するためにバケツに入れて家の中で育てるので、買って食べるとあっさりした味わいのタラの芽になってしまう。野山に行って採ってきた大小様々のタラの芽は野趣を満喫でき、売っているものよりは格段に美味しいと私は思っている。

 山形に来て山菜に親しんでいるのだが、お浸しにする葉物の山菜は採りに行きたいと思っても区別ができず、近くを通っても分からないのではないかと思う。シドケ(モミジガサ)のように、出たばかりの葉は猛毒のトリカブトや食べることができるニリンソウの葉と似ていて、ややこしいことも躊躇する原因である。毎年テレビのニュースで、ニリンソウと間違えてトリカブトの葉(同じキンポウゲの仲間)を食べて食中毒になったと報道されることも一因である。ウルイやギボウシはどう違うのかまだ分からないが、私の住んでいるアパート西側の畑ではギンボ(ギボウシ)を植えていて、春になると新芽が出て秋口になって薄紫のクサスギカズラ科のユリのような花が咲くのを毎年繰り返し見ている。多くのところでこうした光景を見るから、山形人には、ギンボは山菜として普通の食べ物ではないかと思われる。

 いつかアイコ(ミヤマイラクサ)、シドケ(モミジガサ)、ミズ(ウワバミソウ)を区別でき、自由に採れるようになったら山形県に馴染んだことになるだろうと思っているが、今のところはそこまではいっていない。

 春の終わり頃、東根市にある水晶山(640㍍)に散策に行った。山形県は山が深いなと思うのは、天童から25分もかからない山に入ると、ほとんど人に出会わないことである。出会うとしたら熊かもしれないと思いながら、多少緊張しながら入るのである。途中のアスファルトの山道に一台の軽トラックが止まっていた。私はそれよりは下に車を置いて、上にある堂へ繋がる真っすぐの参道を植物を撮りながら、歩いて行ったのである。そこで、フタリシズカやマムシグサなどの写真を撮って、帰りにアスファルトの道に沿って降りてきたら、軽トラックのところで男性が採ってきた山菜を広げて整理をしていた。それを見て、私がそれは何かと尋ねたら「シズ」だといった言うに聞こえた。かなりの量であったが私はその正式名をその時は分からなかった。また隣にはギンボがあった。この近辺にはシズがたくさん生えていて、分かる人にはすぐ分かるのだろうと思うと、自分の拙さにがっかりしてしまった。後々分かったことだが、「ミズ」と答えたのを私が「シズ」と聞き間違えてしまっていたのだった。

 秋になって、高瀬から山形市内に抜ける紅花トンネル(1971㍍)の手前を左に入る林道を歩きながら植物の写真を撮っていたら、その中にとても不思議な植物を見かけた。葉が出ている茎の部分に赤茶色の瘤のようなものがついているのである。それが一箇所ではなく、茎全体についているのである。最初は、色々な葉にある昆虫や寄生菌による瘤ではないかと思ったが、それならば茎から葉が出る一部だけになるはずだが、そうではなくこの状態が正常なのではないかと考えた。その時は、その植物の名前も知らず、こんな状態になる植物があるのは不思議だなあと思いながら、とにかく写真をたくさん撮って、後で調べようと思ったのである。

 そこでインターネットで調べてみたら、何のことはない、この植物はミズ(ウワバミソウ)で秋になるとできる瘤で山芋のムカゴのようなものだと分かってきた。その瘤がついた茎が倒れて地面につくと、その茎の瘤(ムカゴ)から芽が出てくるというのである。これは山芋などのムカゴ(これは茎から落ちると思うが)と同じような働きをする、子孫を増やす方法である。

 そしてこのミズの瘤は、秋田では料理に使われていることも分かってきた。この地方では「ミズのコブ」と言われており、その瘤を集めて湯掻いて醤油漬けにしたり和えものにしたりするようである。またそのコブにはヌメリがあり、これも山芋のムカゴと似ている。日本人は、こうしたぬめりや粘るものが好きな一端であろう。

 私にとって、これがミズ(ウワバミソウ)との野外での初めての出会いであり、その特長であるムカゴと知り合った初めての体験である。来年の春には、是非とも新芽が出たミズを探したいと思っている。因みに山形ではミズナと言わずにミズといっているようである。

 後日そうした目で見ると、色々なところでミズを見かけるようになった。初夏に宮城県の村田町の遊歩道でもミズが群生しており、そこではある茎に小さな花が咲いていた。これが秋になると瘤になるかどうかは分からないが、全てのミズにこうした花が咲いている訳ではなかった。また天童高原の入り口手前の山道にも、秋にミズの瘤を見つけた。ミズの葉はケヤキの葉のような形と葉脈があり、今では躊躇なく探せる自信がある。これもインターネットで調べてみたら、ミズには雌雄があり、雌の茎に瘤ができると記されていた。

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