メジロ

動物編

メジロといえば、母が自宅の庭の木にミカンを刺しておいて、そこのミカンを啄(ついば)みに来るのを楽しんでいたことを思い出す。住んでいる団地は五〇〇軒位の団地で蟹江町では一番大きな団地だが、今では道路幅も狭いし、家々も築何十年と経っていることから古い団地といった方が良い。田んぼを造成して団地ができた当時は、開発業者の内田橋住宅の平屋の建売住宅を買って住んだ人たちが殆どだった。父が購入する時期が遅かったためか、団地内の東西に走る道路ごとに南北に二軒の家が十二軒並んでいる。買ったのは北側にある平屋だった。当時は誰も自家用車を持つ人もいなかったせいか、道路幅が狭くても不自由さはなく、普通の団地の道路幅だったと思う。

冬のさなかにはビワの花に集まる

 何十年か経つうちにそれぞれの家が改築や修築をするようになって、自宅の南側の家が二階建てにした。土地の有効利用のためか区画の北側一杯まで二階家屋を建てたので、冬になると自宅に陽射しが全く入らなくなった。夏は太陽の高度が高いので陽が入るが、秋分を過ぎるとだんだん陽が当たらなくなり、冬になると全く陽が当たらない。冬期間は家の中はジメジメして湿度は高くなりしかも寒いので、好天でもストーブを焚かないと寒さを凌げないようになってしまった。北側にある住宅はどの家も冬期間は陽射しが入らない。道路を挟んだ向かいの家は南側なので冬でも太陽が燦燦と当たってどの家も洗濯物や布団を干している。名古屋は言うまでもなく太平洋岸なので冬期間は他の季節よりも快晴の日が多い。

 そんな南側の家と北側の自宅の間にある庭は、冬の間は全く日が当たらないままだが、南北の家屋の間の庭空間は、並んでいる十二軒どこも同じ状況なので、東西に延びる長い緑地帯のような庭空間となる。つまり木々や植物が生えている細長い空間が続いている訳だ。この長い東西に延びる緑地帯である庭空間は鳥たちにとって大事な場所になっている。

 エドヒガンの蜜を吸う

そうした庭空間がある自宅は弟や妹たちが結婚して家を出て、祖母も亡くなり残った母だけが一人で生活していた。そうして冬の慰みにいつ頃からか、生えている木にミカンを突き刺していたようなのである。私が冬休みや春休みに数日間だけ蟹江に帰省した時に、メジロが来てミカンを啄んでいるのを何度か見かけたことがある。その時にはこの辺りにもメジロがいるんだなあと思った。

 随分前になるがいわき市に住む知人が住む団地では、庭に餌台が置いてある家があってメジロが来ていた。知人の庭にもメジロを呼べないかと思ったが餌台はない。庭に植えてある桜の木の枝にミカンを何個か突き刺して、メジロが来るのを期待しながら待っていた。待てど暮らせどメジロは来なかった。他の家の庭の餌台には来ているのに、ミカンを突き刺した知人宅の庭には全く来なかったのである。ミカンを突き刺したのが十一月末だったが、三月中旬になってやっとメジロを見かけるようになった。それまではただひたすらにミカンを突き刺していただけだった。その間にミカンだけではつまらないので、サクラの木の枝に台状の板を紐で据え付けて、メジロ以外の鳥も来ないかとハトのエサ、ピーナッツ、ヒマワリ、牛脂も置いてみた。すぐにはどの鳥もやってこなかったが三月になってスズメ、ヒヨドリ、シジュウカラが姿を見せるようになった。こんな経験から鳥を呼び寄せるためには一~二週間ではとても足らずに数か月かかることが分かった。野鳥は元々用心深く、新しい環境をすぐには受け入れない。そして何か月も様子を見ながら安全かどうかを図っているのではないかと思う。

 冬から春にかけて色々な花の蜜を吸って生き延びる

 メジロが来る頻度はそれ程多くはなかったが、突き刺したミカンにヒヨドリが来て啄んでいる。それも大胆に啄んでいくので突き刺したミカンが地面に落ちてしまう。またそれを突き刺し直すことの繰り返しだった。

 メジロはスズメより小さくスズメ目に属している。ミカンの汁や実を啄みに来る時には見ている限り二羽でやってくる。番いなのだろうか。ヒヨドリが占領している時にはやって来ずに、いなくなるとミカンが置いてある場所まで飛んできて啄んでいた。仙台の知人宅の庭の餌台でも、冬期には二羽でやって来てリンゴを啄んでいた。私は何故かメジロは二羽でいるものだと思うようになった。

天童でも春になってアパート近くの東久野本公園の桜が満開になった頃、どこからかメジロが飛んできて蜜を吸っていた。そこにはヒヨドリも来ていた。そうした光景を見ると春が来たのを実感したものである。

蟹江に帰ってきてから、弥冨の社会教育センターに「老人大学講座」の講師を頼まれて、センター近くの専用駐車場に停めたら、生垣に植えてあるアベリア(ハナツクネウツギ)の間に数羽のメジロが止まっていた。やはりこの近辺にはメジロがいるのだと思った。

私の知人の前田裕司さんの自宅(千葉県流山市)の庭に、メジロが巣造り産卵して育雛(いくすう)している様子をフェィスブックで掲載していた。その中で昆虫やその幼虫等を巣に運んでいる様子が記されていた。それまで私はメジロはミカンやリンゴの実を食べたり汁を吸ってだけ生きていると考えていた。これらは基本的にブドウ糖で熱エネルギーになるだけである。虫なども捕るのだろうかと少し疑問に思っていたのである。先日NHKの「ダ―ウインがきた」の「マメハチドリ」(二〇一七・一二・一七放映)で通常は蜜などを吸っているものの、育雛時にはタンパク質を食べさせていると説明していた。それを視てヒナの体を作り上げるには当然だろうなと思ったものである。

「日本の野鳥」(叶内拓哉他 山と渓谷社)では「留鳥または漂鳥。環境は、平地の樹林が比較的多い公園や庭園、住宅地から山地の林、竹林など。行動はつがいか小群で生活数するものが多い。主に樹上で、昆虫類、クモ類、木の実、花蜜などを採食。地上に降りることは少ないが、越冬期には林に近いアシ原にもよく入って採食する。留鳥性の強い個体は一年中つがいで、一定の区域内で生活し、季節移動する個体は越冬中は小群になり、区域を定めずに動き回って生活するものが多い。」と記されている。

これらを見るとメジロは恒常的に昆虫やクモ類を常食していて、餌台にミカンやリンゴを置いて呼び寄せられるのは、メジロが好きな餌でかつ冬期に餌がないからやってくるのではなかろうか。

今年の三月下旬に日光川の土手を歩いていたら、川とは反対側の民家の梅や桃の果樹が植えてある畑の木に一羽のメジロを見かけた。スズメよりは小さいが目の周りの白色などを含めて可愛らしい鳥だと再確認した。急いでカメラを構えてシャッターを切ったら、一枚だけそれらしい写真が撮れていた。やったーという感じだった。

私は昔からウグイスの羽のウグイス色というのが、メジロの羽のような色合いだと想像していた。実際のウグイスの羽の色合いはもっとくすんだ緑である。それに較べるとメジロの薄い黄緑の色合いはとても綺麗で、そして目の周りの白とのコントラストが美しいと思う。その俊敏な動きもその美しさを増幅しているように思えてならない。街中でもメジロが生活しているらしいが出かけて探すことはなかなか難しいようである。(スズメ目 メジロ科 メジロ属 メジロ)

コメント