ノスリ

動物編

タカの仲間は同じように見えて区別することが難しい。山形県天童市周辺でもタカらしい鳥がいると写真を撮ってきた。最近ではトビが何とか分かるようになってきた。あま市と清須市の境目の五条川脇に工場があるが、そこの大きな排気口の煙は我慢できない位の臭いである。カモの写真を撮りに行って堤防と川の間の草叢を歩いていると、冬になると北西の風が吹き、その臭いが私の方に流れてくると頭がクラクラする程である。その周辺には不思議なことにカラスが群がって飛び回っている。何故そんなにいるのか理由は分からなかった。そのカラスたちは屋根、木々、電線や電柱などに止まっている。辺りの空にはトビも飛んでいる。それも一羽ではなく数羽がゆうゆうと風に乗って飛んでいる。そのトビにカラスたちが近づいて攻撃している様子も見られる。山形県の天童でも新庄でもそして愛知県の蟹江や飛島村の周辺でもカラスがトビを攻撃していた。猛禽類のトビがカラスに追われ攻撃されている光景しか見たことはない。多分カラスの縄張りの中にトビが入り込んでいるから攻撃されているのだと考えていた。トビの写真を撮るようになってトビの姿がだんだん分かるようになってきた。街中の大型の鳥はトビではないかと考えるようにさえなってきた。

  ノスリがとまってから飛翔する

 天童に住んでいた時に白水沢ダムの奥の森にヒメギフチョウ、カタクリやキクザキイチゲ等の野草の写真を撮りに入った。その帰りにダムから東根市の方に帰る時に、上空に円を描きながらゆっくり飛んでいるタカを見つけた。車から降りてカメラをズームにして写真を撮ったが空中で遠方だったせいかはっきりした写真は撮れなかった。そのタカの姿はトビとは違うように思えたものの、その当時ははっきりと区別できなかった。その時感じた違いとは地上から見える広げた裏の羽の模様とその白さ、尾の形が広がっているところがトビとは違っていた。私はその姿からノスリではないかと予想したが、区別する特徴の違いや根拠がはっきりしていなかった。

 先日カモの写真を撮りに長良川と揖斐川の間にある岐阜県海津市に出かけた。長良川に続く水門脇の沼にはハシビロガモ、オカヨシガモ、コガモ、オオバン等がいた。マガモは全くいなかった。そこで写真を撮ってから近くの畑を車を走らせていると、電線に大陸から渡ってきたツグミが何羽か止まっていた。近くの畑で耕運機を使って土起ししていたので出てくる虫を狙ってチャンスを待っていたのかもしれない。車を降りてそのツグミの写真を撮っていたら、近くの電柱にトビのように思われる鳥が止まっていた。私はてっきりトビだと思ってシャッターを切ったが、すぐ飛び立って少し離れた電柱に移動した。その電柱近くまで歩いて行き写真を撮った。次にその鳥は飛び立ってかなり遠くの電柱に移動した。トビに較べると羽の色が茶色いなあと違和感がありながらも、家に帰ってパソコンに取り込んでみたらトビではなかった。図鑑やインターネットで調べてみたらこの鳥はノスリではないかと思われた。トビとノスリの違いは羽の色、尾羽(おばね)が撥(ばち)状か扇子状か、翼先分離(初列風切の先端の羽の数 トビは六枚 ノスリは五枚)で区別できるという。主観的に言えば、顔立ちがノスリは可愛いいのに対してトビはそうではない。私がトビではないと違和感を覚えた部分はその顔立ちの違いだった。こうして私はノスリを近くで見ることができた。

  ネズミを捕って啄む

 ノスリが大体確認できるようになったので、これまでトビだと思って撮った写真を見直してみた。すると何枚かはトビではなくノスリだった。天童高原に出かける途中の月山が見える畑の電柱に止まっていたものを撮ったものだった。私は羽の色が茶色がかっていたのでトビの幼鳥ではないかと勝手に判断していたのだった。改めて見ると顔つきがトビに較べて可愛い顔をしている。別の数枚は天童のアパートから短大に通勤している途中の「イオンモール天童」前の奥羽線の跨線橋の電柱に止まっていた鳥も、実はノスリだった。これも私はトビとばかり思っていた。羽の色と飛び立とうとしている姿は、トビではなくまさにノスリだった。何度もノスリに出会っていたのにそれに気がつかないまま、いつかノスリに出会いたいと思い続けていたのだった。

  カラスに威嚇され追いかけられる

 ノスリについて調べてみた。タカ目、タカ科、ノスリ属、ノスリ(種)に属しており、大きさはトビよりは小さく五〇~六〇センチ程のカラス位で、オスよりはメスの方の体が大きい。ハヤブサなどの猛禽類は自分で羽を八の字に動かしてその場でホバリングできるが、ノスリは器用でないらしく風を受けてそれを利用してホバリングするウインドホバリングする。国内にいて留鳥だが、時として漂鳥として移動することがある。行動範囲は農耕地、草原、平地の開けた土地、森林などで生活して、私たちが見かける可能性が高いタカである。ネズミやモグラ、鳥やカエルの他、昆虫も狙う。こうしたノスリの食性からクマタカやイヌワシのような大きな獲物を狙わないのでタカ狩りには使えない。役に立たないタカとして、奈良時代には「くそとび」と呼ばれていたという。他にも羽の色合いや食性から「馬糞鷹」とも呼ばれていたという。こうした名称はノスリに対してとても失礼だと思うが、食性が似ているトビも狩りに使うという話は聞いたことはないので、同じような評価ではないかと思う。

 以前天童市の成生の薬師神社にチョウゲンボウの写真を撮りに行った時、その上空を大きなタカが舞っていた。チョウゲンボウの写真を撮ろうと狙っていた人に「あれはトビですね。」と尋ねたら、「トビではない。」と即座に答えた。今から考えるとノスリだったのではないかと思う。天童周辺には割りと多くノスリがいるのではないかと思う。その人は即座にノスリの特徴を確認して教えてくれたのだろう。

  地面すぐ上を飛ぶ(ノスリの名の謂れ)

 蟹江に帰って日光川河口にカモや他の鳥の写真を撮りに行っているが、ある時川の上空でカラスが二羽、一羽のタカを攻撃していた。私はオオタカかも知れないと思って写真を撮ったが、パソコンに取り込んでみたらノスリだった。ここでもカラスがノスリを攻撃していたのである。餌場や縄張りを守るためだとは思うが何とカラスはきかない鳥だと思ってしまった。

 「日本の野鳥」(叶内拓哉 安部直哉 上田秀雄 山と渓谷社)のノスリの項目では「主に本州中部以北で繁殖し留鳥。四国、九州、中部以南では冬鳥。環境は平地から山地の林や草原、農耕地、牧場、川原など。行動は林の大木に枯れ枝を積み重ねて巣を作り、毎年同じ巣で繁殖することが多い。採食はネズミを主に両生類や爬虫類、鳥類、昆虫類などもとる。非繁殖期は農耕地などの開けた一定の採食場に出てきて、ネズミの活動時間に合わせて採食行動をするのがふつう。」と記されている。

 これらの記述からタカの仲間の中では鈍感で闘争的なタカではないように感じる。それは私が感じる目の可愛さからのものかも知れない。(タカ目 タカ科 ノスリ属 ノスリ)

コメント