オオバン

動物編

オオバンは天童の原崎沼で良く見かけたものだった。マガモやカルガモ等のカモ類と較べると、いつも別行動していて水辺のヨシとか藻があるような場所にいることが多い。人が近づくと池や沼の中心部に泳ぎ出す。カモたちは飛び立つのに、オオバンは殆ど飛び立たずに泳いで離れていく。

黒くて顔の真中に白い長い部分(額板)があり、一度見たら忘れられない水鳥である。原崎沼には飛来するカモの絵が描かれた掲示板がある。それにはカルガモ、マガモ、コガモ、カイツブリ、オナガガモ等、それぞれのオスとメスの絵が描かれている。オスの区別は何とか分かるがメスは全て同じように見えてしまう。数年前から、冬になったらカモの種類を勉強しようと考え出していた。しかしその掲示板の絵を実際の鳥たちと同定することもなかなかできなかった。今から考えると原崎沼ではカイツブリは見かけたことはない。しかしその当時、私はこのオオバンをカイツブリと思い込んでいた。今から考えると随分姿が違うのだが、それさえ分からなかった。

  群れで行動することが多いオオバン

当時の原崎沼で見かけるオオバンはせいぜい二羽程度でいることが多く、時には一羽で泳いでいることもある。そんなことからオオバンは群れる性質はないのではないかと思っていた。加えて、オオバンが飛んでいる姿も見たことはなかった。

蟹江に帰ってからオオバンを善太川、福田川、長良川の水門脇の沼、長良川のそこかしこで見るようになった。沼では二~三羽程度の群れが多いが、長良川では数十羽の群れになっていた。そして水中に潜ってその底の水草を千切って食べていた。その水草は海草のアマモのような水草である。セキショウモかもしれないがとにかく細長い水草だった。私がいつも出かけている木曽三川の木曽川、長良川、揖斐川は、河口から四~五キロ地点ではないかと思われ、木曽川が干潮の時には川の底にアサリやシジミの稚貝を沢山見かける。この辺りは汽水域だと思われるのでアマモが生えている可能性はある。そんなアマモと思われる水草をオオバンは潜って食い千切って食べている。長良川でもそうした破片が波に漂いながら、コンクリートの川の縁に打ち上げられているのを見かけた。

長良川の堤防は立田大橋を三重県側に渡って右折すると、岐阜や大垣方面に行ける堤防の道路でトラック等の行き来が激しい場所である。そんな堤防を車を運転しながら長良川の水面に浮かんでいるカモを見かけて、道路脇の小さい広場に車を停めて写真を撮るために川の縁まで降りて行った。そこで見たのはこのオオバンの群れだった。岸辺近くにいるのはカルガモの群れかオオバンだと思っていたが、これ程のオオバンの大きな群れは初めてだったので吃驚してしまった。

オオバンは顔の特徴である白い額板と、泳いでいる時に顔を前に突き出すように泳ぐ特徴があってヒョコヒョコしながら泳いでいる。カモ類はそうした泳ぎ方はしないから遠くからでもオオバンだと分かるようになってきた。また飛んだ姿は見たことはなかったが、善太川で偶然私に驚いて飛び立ったのを初めて見た。水面を足でけりながら飛び立った。そこで水面にいくつもの水輪と水しぶきが立った。因みに恒常的に水中採餌するカモの仲間のカイツブリ、キンクロハジロ、スズガモ、ミコアイサは、体に対して足が後ろについているので歩くのが不得意(水中採餌には好都合)で、結果的に飛び立つ時には水面を足で蹴って助走しながら飛び立つ。オオバンも同じである。

  水を蹴って飛び立つオオバン

カルガモと同様にオオバンも留鳥だと思っていた。三月から四月にかけてマガモ、オカヨシガモ、ミコアイサ、コガモ等は善太川からいなくなってしまう。ずーっとオオバンはいると思っていたら、そのオオバンもだんだんいなくなってしまった。カルガモも善太川にいなくなるものの田んぼの畦で一年中見かけている。カルガモやオオバンにとって川にいるのは留鳥なりの越冬の仕方なのだろうか。越冬するためにやってくるカモたちはカルガモやオオバンが人が近づいても驚かないので一緒にいると安心できる。殆どのカモはカルガモが飛び立つ直前には飛び立つが、危険を察知する限界の判断をカルガモやオオバンに委ねているように見える。群れる効果がここにあるのだろう。

夏になると善太川も木曽川も鳥たちがいなくなって寂しくなる。十月半ばに日光川でカワウの写真を撮ろうとしたら、一羽のオオバンを見かけた。天童市の原崎沼では四六時中見かける感じでいた。留鳥そのものだと思われるのに、蟹江周辺の沼、池や川のオオバンは一体どこに行ってしまったのだろう。オオバンも飛翔できる筈だが、他のカモ類と較べると飛ぶことが上手とは言えない。それとも北の冷涼な土地に移動して子育てしているのだろうか。

千葉県我孫子市の手賀沼にいるオオバンについてのインターネット情報では「オオバンの足の指には、木の葉のような水かきがあり、泳いだり潜ったりすることが得意です。水に浮かぶ姿は、カモの仲間によく似ていますが、実はバンやクイナと同じツルの仲間なのです。オオバンは手賀沼で一年中暮らしています。四月から九月までが子育ての時期です。番(つがい)ごとに縄張りを作り、ヨシ原の水ぎわに、枯れた茎や葉を積み重ねて浮き巣をつくります。なわばりをつくる時には、隣の番(つがい)と激しく戦うこともあります。

  土手や水辺で餌を探すオオバン

巣作りを終えると四~七個の卵を産みます。オス、メス交替で二一日間卵をあたため、ヒナが孵化します。~中略~ 卵をねらうカラスやアオダイショウもオオバンの天敵です。~中略~ 十月になると水面に、三〇羽、四〇羽と群れでくらすオオバンの姿が見られるようになります。手賀沼でオオバンの数を毎月数えていると、冬になると数が増えることに気が付きます。原因として、夏はヨシは生い茂り、ヨシ原の中のようすが見づらく、その結果、数えることのできるオオバンの数が少ないことも考えられますが、ヨシがまだ伸び切っていない四月には、もうオオバンの数が減っていることから、手賀沼の外へオオバンが出て行ったとしか考えられません。北海道や東北地方の北部など雪の降る地域では、冬になるとオオバンがほとんどいなくなるという報告がありますので、おそらく南下してきたオオバンが手賀沼で冬を越すのでしょう。最近、茨城県の北浦で冬に標識を付けられたオオバンが、春から夏にかけて、宮城県の伊豆沼や青森県の小川原湖で見つかっています」と記されている。

 オオバンは国内を季節毎に南北に移動している可能性がある。冬は南下して春から夏にかけては北帰行するという訳である。愛知県の善太川や木曽三川のオオバンは、どこに北帰行するのか知りたいところである。国内での移動中には池や沼、川に寄っていく筈だからそんな情報はないのだろうか。私が天童の原崎沼で一年中見かけていたと考えていたオオバンは、冬には南の地方に移動していなかったような気もしてきた。私の記憶も良い加減になってきたのは歳のせいだろうか。

 「日本の野鳥」(叶内拓哉 安部直哉 上田秀雄 山と渓谷社)のオオバンの項目では、「東北地方北部以北では夏鳥で、それより南では留鳥または冬鳥。環境は平地から低山の湖沼、池、河川、ハス田など。行動は広い水面上を泳いでいることが多く、歩行する姿を見ることは少ない。警戒心は他のクイナ類と同様に強く、警戒時には草むらに姿を隠すのではなく、泳いで遠ざかる。水草の根や葉を好んで食べ、昆虫類も食べる。越冬中は数羽から数十羽、ときには数百羽の群れになって生活する。」と記されている。

  オオバンの足は八つ手のようだ

 これらの記述から警戒心が強いと書かれているが、経験上カルガモと同じ位の警戒心で、ミコアイサ、ヨシガモ、コガモに較べると断然鈍感だと思う。ミコアイサやヨシガモを見ると、日本海を越えて命懸けで渡りをするからか非常に警戒心が強く、それは驚く程である。オオバンが越冬中には大きな集団になるのは、私の経験からも納得できる。

 私の中では他のカモ類に較べると、カルガモとオオバンは何故か大切に思う気持ちが少ないように思う。何故そう思うのかはどこでも見かけていることが原因かも知れない。(ツル目 クイナ科 オオバン属 オオバン)

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