冬に渡って来るカモといえばすぐマガモを思いつく。カルガモは都市部にも定住しているから、最初のうちは渡って来るのはマガモしか考えられなかった。オシドリは名前を知っていて写真で見たことはあったが実物を見たことはなかった。
原崎沼のカモの説明板
天童の原崎沼の遊歩道にはカモの種類別の絵が描いてある掲示板があり、飛来するカモの説明が載っている。オスははっきりした違いがあるのにメスは皆似ていて区別がつかない。数年前から冬になったらカモの写真を撮ってカモの勉強をしようと思っていた。インターネットで何種類かのカモの資料をプリントアウトして、ファイルに綴じて車のトランクに入れて持ち歩いていた。カモの特徴や習性はファイルを読んだだけでは分からず、資料と実物を同定することはなかなかできなかった。
それでもマガモのオスは顔の周りが緑色なので分かりやすい。嘴も黄色いからすぐ同定できるようになった。でもメスはどれがどれだか分からなかった。原崎沼にはマガモ、ヒドリガモ、オナガガモ、オオバン、カルガモ、コガモ、ヨシガモ等がやって来る。そのカモたちの半分はメスだから、似たような模様のメスガモの中でマガモのメスを同定するのはとても難しい。原崎沼ではマガモが一番多く次にヒドリガモだろうか。沼の中央の水面を泳いだり、首を羽に埋めて寝ている多くはマガモである。オスとメスが一緒に泳いでいる場面を見ることも多いので番いの仲は良いのではないかと思う。色々なカモが同じ場所で混在しているかというと、種類毎に基本的に場所は異なっている。コガモは割りと離れた場所にいて何かあるとすぐ飛び立つ。とても神経質で用心深い。太陽が上がって日当たりが良い日には、沼の北側のコンクリートの護岸にカモたちが集まって日向ぼっこをしている。その時だけはマガモ、ヒドリガモ、オナガガモやカルガモもみな一緒である。しかしその場所にコガモだけは混じらない。マガモを原崎沼の監視員はアオクビと呼んでいた。一〇年位前までは原崎沼には大量のカモが渡ってきていたが今は少なくなったと話していた。シベリア等の繁殖地や日本の越冬場所の環境が悪化していることが影響しているのかもしれない。
マガモ
蟹江に帰って善太川でもマガモを見かける。カルガモと一緒だからか余り人を恐れる様子は見られない。土手からカメラを向けると原崎沼よりははっきりした良い写真が撮れた。
「日本のカモ 識別図鑑」(氏原巨雄 道昭 誠文堂新光社)のマガモの項目では「大きさは全長五〇~六〇センチ。翼開長八一~九五センチ。特徴としてカルガモとほぼ同じ大きさの大型のカモ。水面採餌ガモの中では、太めのがっしりとした胴体で重量感がある。飛翔は幅広い翼で比較的ゆっくりと羽ばたく。翼鏡は青く、それを挟むように前後に白帯があり目立つ。分布・生育環境・習性として冬期、全国で普通に見られ、夏期は北海道と本州の高地で繁殖する。また本州の平地でも局所的に繁殖しているものと思われる。池、湖、河川、港湾などに生息する。おもに植物食で、穀類、植物の種子、水生植物などを食べ、ドングリも好む。潜水採餌をすることもある。図では繁殖範囲はシベリアやカナダ、アラスカなどであり、越冬地は日本や中国である。ヨーロッパでは繁殖地と越冬地が重なっている。日本の一部も重なっている。」と記されている。原崎沼でも善太川でもマガモが採餌している場面を見たことがなかった。写真を撮りに行くのはいつも午後だった。午前早くと夕方に採餌しているのかもしれない。監視員にどこで採餌しているかと尋ねたら、朝早く沼を飛び立ってどこかの田んぼに行っているようだとだけ話してくれた。
木曽川の堰の杭にとまるマガモ
蟹江の善太川ではマガモの数は多いが日光川のウオーターパークでも何羽かのマガモが越冬していた。カイツブリやミコアイサの写真を撮りたくて沼に沿った遊歩道を行ったり来たりと往復していた。二月初旬に番いと思われるマガモのオスとメスが並んで泳いでいたがそのうちにオスがメスの上に乗りかかった。メスはオスの重さで体全部が沈んで、顔も沈みそうになっていた。交尾しようとしたらしい。交尾はてっきり陸上でするものと考えていたので吃驚した。オスが離れて泳ぎ出すとメスも仲良く並んで泳ぎ出した。溺れそうになりながら交尾するのはメスにとってどんな気持ちだろうか。感情移入して「良い加減にしろ。」と言いたいのではないかと思って笑ってしまった。
ガチョウがガンを家禽にしたように、アヒルはマガモを家禽に改良したものである。アヒルは白い羽なので白い羽のものを選んで家禽化したのではないか。そこで遠くのマガモを同定するのに、アヒル同様に嘴が黄色いか、足が黄色か橙色かで判定している。
本当にマガモをアヒルに改良した証拠がどこにあるかという問題がある。それがマガモのオスの尻にあるカール状の羽である。私もマガモの特徴をそこまで観察していなかった。尻にあるカール状の羽がマガモをアヒルに改良しても存在するというのがその証拠だと知って吃驚した。撮った写真を見るとオスの尻が確かにカール状になっている。アヒルは改良されて体が大きくなり、羽が小さく退化して飛ぶことが難しくなったがカール状の羽だけは残ったままである。
アヒルとマガモを区別する際、私は白いものがアヒルでアオクビがマガモだと思い込んでいた。マガモと同様に顔から首にかけて緑色のアヒルもいると知って、何が何だか分からなくなってしまった。アヒルの品種の中にはアオクビアヒルというのもあるらしい。その違いは外見ではなく体重や体格、飛翔力の違いというのである。
水を蹴らないで飛び立つマガモ
アヒルとカモの違いに関してアイガモがいる。マガモとアヒルの合いの子である。田んぼの雑草取りに使ったり、野生のカモをおびき寄せるおとりに使っている。掛け合わせ方によって、アヒルに近いアイガモやマガモに近いアイガモとバラエティが大きいようである。個体によっては飛翔力もアヒルよりはあるものがいる。アイガモはその点で半家禽のカモと言えそうである。山形県ではカモ鍋とかカモソバが有名だが、野生のマガモやカルガモは狩猟数や時期が決まっている筈だからそうそう手に入らない筈である。そう考えるとカモの材料はアイガモではないかと思うのだが、本当のところはどうなのだろう。知りたいものである(カモ目 カモ科 マガモ)
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