ハヤブサ

動物編

タカの仲間は殆ど分からなかったが、それでも少しずつ区別がつくようになってきた。それでも数種類に過ぎないが自分なりには嬉しいのである。区別つくものは今のところトビ、チョウゲンボウ、ミサゴ、ハヤブサとノスリである。チュウヒやツミ等の他のタカの仲間は、まだ分からないので勉強中といったところである。

 善太川にカモの写真を撮りに行くと時々猛禽類だと思われる鳥が飛んでいる。ある時にはケリの集団が慌てふためいて乱舞したり急に川面に降りてきて逃げ惑う場面を見かけた。その集団の群れのすぐ上をケリとは違う鳥が一羽旋回しながら飛んでいた。そのケリの慌てようからハヤブサか何かのタカの仲間だと思った。どうも鳥たちは自分の天敵のタカを熟知しているらしく、その姿を見ると逃げたり避けたりする行動をとるようである。

ハヤブサが高電線の鉄塔にとまる

ニコ・ティンバーゲン著の「動物の行動」(タイムライフ 一九六九・一二発行)には、次のような説明が載っている。「多くの種類の家禽のヒナは、タカの影が頭上を横切ると警戒してかがむが、アヒルのような害のない鳥の影は無視する。そこで研究者たちは、首の短い敵鳥と、首の長い害のない種との差異を見分ける生得能力をヒナがもっているのだと結論をくだした。しかし、最近の詳しい研究によって、別の事実が判明した。ヒナが臆病にかがむということは、何物でも頭上を横切りさえすれば身をかがめるという生得的な傾向からきたものである。ヒナは、落ち葉に対してまで身をすくめる。成長するにつれて彼らは、これらの見慣れたものは、しだいに恐れなくなる。しかし、彼らは決して敵となる鳥に対しては慣れることはない。これらの敵鳥を見ることは、ごくまれだからである。」

このように、本来生得的な能力として頭上を通るものに対してかがむ行動に、見慣れるという学習が合わさって合理的な行動が形成されてくるのだろう。そこで天敵のタカに対して大騒ぎ行動をとることになる。このケリの集団の頭上で飛んでいたタカが何だったか分からなかったが、私にはハヤブサのような気がしてならなかった。そのケリの頭上を飛んでいたタカは、その後離れていった。

 藤前干潟にミサゴの写真を撮りに行った時、干潟のコンクリートの堤防の北側に名古屋市の大きなゴミ処理場があり、その煙突も大きな四角形で高くなっている。処理場の建物自体が大きくその建物の周りにはいつもたくさんのカワラバトがいる。その建物に巣を造っていて生活場所なのだろう。いつもはのんびりと飛んでいるが、ある時ハトたちが大騒ぎして混乱した飛び方をしていた。私は何事かと思ってよく見ると、一羽のタカがハトたちと一緒に混じり合って飛んでいた。ハトの群れが建物の周りを狂ったように飛んでいるのに合わせてゆうゆうと飛んでいた。その飛び方からハトたちを狙っているようには見えなかった。何度かそこで旋回しながら飛んでいたが、離れてだんだんと風に乗って高度を上げて新川河口の上を越えて東の方へ飛んでいってしまった。その建物を飛んでいるタカの写真を何枚か撮ったものの小さくて綺麗には撮れなかったが、ハヤブサではないかと思った。家に帰ってパソコンに入れて拡大してみたら、ぼんやりしているもののその顔立ちからハヤブサだと同定できた。私が思っていたようにハヤブサだったのである。

  ハヤブサの飛翔

その後藤前干潟にカモの写真を撮りに行ったら、そこで三脚に大きな望遠ズームのカメラを備え付けていた男性がいた。良い写真が撮れたかと尋ねたら、「ミサゴの写真を撮りに来ている。」と応えてくれた。「以前撮った写真よりもっと良い写真が撮れるかも知れないと思って来ている。」と話していた。その会話の中でこのゴミ焼却場の辺りにハヤブサが来ると話してくれた。私は前にハトの群れの中にいるハヤブサを撮っていたので、その話をした。写真を撮っている人はきっとセミプロなのだろう。その焼却場に来る鳥がハヤブサと分かっていて頻繁に来ていることを知っていたのだった。私が「その辺りにハトが沢山いて狩場(餌場)だからでしょうね。」と応えると頷いていた。

 タカに関心を持つようになって大きな沼、川で写真を撮っていると、何故か猛禽類に以前よりは度々出会うようになってきた。見かけていたのだろうがこれまでは見えていなかったのかもしれない。

 ハヤブサの特徴を知るようになったのは、NHKのプラネットアース「新しい世界で生きる動物たち」で、ニューヨークの高層建築が立ち並ぶ摩天楼で、三〇年前からハヤブサが住むようになったという内容が放映されていた。本来は切り立った高い崖に住むハヤブサがニューヨークに住むようになったのは、高いビルが彼らにとって便利だったからだという。高い所から飛び立つことができることと、吹く風が高層建築にぶつかって上昇気流を引き起こし、その風に乗ることができるからだというのである。そして何よりも人が放して増えたカワラバトがハヤブサの格好の餌となるという。その場面では時速三〇〇キロにもなるスピードで、ハトを都会の川か池の水面近くまで追い込み、それに向かって直線的に落ち込むように襲い掛かるハヤブサの姿を映していた。そうして今ではニューヨークには一六番い(つがい)が住んでいるという。かなり密度が高いという話しぶりだった。新しい環境が本来の自然環境よりも適応しやすい条件を持っている場合もあることを示している。

そんな場面を見て、私はハヤブサの姿や顔立ちを学ぶことができた。殆どのハヤブサが顔に黒い模様がある。それを見るとハヤブサかどうかが分かるのだ。実際、善太川や藤前干潟で見たタカの顔立ちは紛れもなく、テレビと同じ顔立ちのハヤブサだった。

 ハヤブサがハトを啄む

 いつも思うのだが蟹江や愛西市周辺には、そこら中にカワラバトがいて集団で飛んだり田んぼで群れて採餌している。また善太川の橋の下にはカワラバトの巣があって四六時中出入りしているし、また近くの東名阪自動車道の高架橋の下でも巣造りしている。ハヤブサにとって餌になるハトは十分いる筈である。しかしハヤブサを四六時中見かけることはない。ここで見かけるハヤブサは一体どこに巣がありどこからやってくるのだろうかといつも不思議に思っている。確かにこの辺りには高い建物などはない。風を利用するとなれば高い送電線しか見当たらない。そこに巣をかけるとすると夏は暑く日陰ないから、子育てすることはとてもできないとも思う。巣造りの条件、飛翔するための条件、餌になる獲物の条件などが上手く合わなければ、ハヤブサは住めないのだろうかと思うようになった。

 最近になって善太川にカモの写真を撮りに行ったら、上空に旋回しているタカだと思われる鳥が飛んでいた。瞬時にハヤブサではないかと思ってカメラを空に向けて夢中になってシャッターを切った。ゆっくりと円を描きながら飛んでいる。私の近くの空にも近づくような感じだったので、何枚もシャッターを切った。その後ゆっくりと円を描きながら風を捉えて上昇して、遠くの方に飛んでいってしまった。タカの仲間はホバリングしてその場に浮かんでいたり、風を上手く捉えて高く上昇できる能力を見ると、他の鳥たちよりは高度な能力を持っているように思えてならない。昔の戦闘機や東北新幹線のハヤブサなどの名称は姿の格好良さだけでなく、こうした能力からの命名理由があるのかもしれないと思う。この時のハヤブサはハト等の獲物を狩るような雰囲気は全くなかった。ハヤブサも他の肉食獣と同様に、空腹の時だけハト等の獲物を狩るのではないか。生態のバランス中に獲物に出会うと必ず狩るということは含まれていないのではないかとふと考えたのである。(ハヤブサ目 ハヤブサ科 ハヤブサ属 ハヤブサ)

                           

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