タニシ

動物編

これまで淡水産の巻貝をメインで育ててきたことはない。それでも長くメダカを育てていたのでその水槽の脇役として小さな巻貝がいた。ある時にはその貝を育てているのかメダカを育てているのか分からない状態になることがあった。

 偶然だがテナガエビを用水路で捕まえて、それを机の前の三五×二三センチのプラスチック水槽に入れて飼っていた。そこにはヌマチチブ、スジエビとモツゴ(クチボソ)等も一緒だった。餌としてメダカ用の粉末の餌とスジエビ用の餌を入れた。でも何となく食欲があるとは思えなかったので調べてみたら、藻や水苔も食べる雑食性だと記されていた。そこで水草のアナカリスはあるが水苔はないので、用水路にいるタニシを入れることにした。というのはタニシの貝殻の表面に藻や苔がついていて、それを食べるのではないかと考えたからである。よく絵本で見た浦島太郎を竜宮城に乗せていったカメの甲羅にも藻や苔がついている絵を思い出したからである。

 永和駅近くの流通センター南側の用水路にはタニシが沢山いる。魚捕りをしていると網の中に一緒に入ってくる。そのタニシを捕ってきて水槽に四~五匹入れてみた。するとテナガエビはすぐタニシの方にやってきて、その殻の上の苔を食べていた。これでテナガエビの餌の調達は上手くいったと考えた。その後水槽の水が少なくなったので部屋の水道水をコップ一杯入れたら、その翌日にそのテナガエビは死んでいた。水道水のカルキの影響なのか、それともストレスによるものなのかは分からない。どちらが原因にしても感受性が強い生き物らしく(他の魚類は死んでいない)、それを考えつかなかった自分の未熟さを痛感したものである。

 そのテナガエビはいないが他の三種類の魚たちが泳いだり、底を這ったりしている。魚には毎日二回ほど餌をやっている。そのメダカ用の餌が餌として妥当なのかどうか分からない。でも動物は生きるために本来は好きでないものも食べて生き残る戦略を採っているから、生きていくために好きでないものも食べる筈だと考えた。タニシも何か食べて生き延びているのだろう。でも心配になって調べてみたら、タニシは植物食で藻などを食べているという。アナカリスなどの水草は餌になる可能性があるから餌は保証されていることになる。

 今まで気がつかなかったが、この水槽にいる四~五匹のタニシの他に小さいタニシが水槽面や底にいることを発見した。入れた記憶は全くない。その数も七~八個位だろうか。大きさも小さいものの卵から孵ったばかりの小ささとは違う感じである。それを見た時にカダヤシと同じように卵胎生ではないかと思った。

 私は上述のようにメダカを何十年も飼ってきたが、その水槽には必ず小さい巻貝がいた。その貝はモノアラガイかサカマキガイだと思う。その巻貝はアナカリスなどの藻や水槽の壁面にゼリー状の卵を産みつける。その中に小さな黒い粒々が入っている。メダカも産卵時期になると卵をホテイアオイの根に産みつけるので、初心者はそれがメダカの卵かと尋ねてくる。

メダカと一緒に飼っているとゼリー状の巻貝の卵の方が目につく程である。モノアラガイたちは向かい合って相手を振り回しながら交尾しているのをよく見かける。そしてメダカの餌を撒くと、背中の貝を下にして水面下を動きながら口をパクパクしながら餌を食べる。その貪欲さは相当なものである。学生たちはこれを見るとその貝がタニシだというので、いつも訂正している。タニシはもっと大きいのだと話すが淡水産の巻貝を一般人はタニシだという人が多い。この貝が増えてくるとメダカを育てているのか、モノアラガイを育てているのか分からなくなってくる。こうした経験から淡水産の巻貝は卵を産んで孵るものだと思うようになっていた。

 卵を産んで稚貝が誕生するという考えは、別の例で強固になっていた。蟹江に帰ってから田んぼの側溝を見ると、春先から夏にかけて用水路のコンクリートの壁にピンク色の塊がくっついているのが目につくようになる。即座にそれを見てジャンボタニシの卵だと判断した。この辺りにもジャンボタニシがいるんだと吃驚した。調べてみるとこの巻貝はタニシの仲間でなくスクミリンゴガイと言われる貝で、一九八一年に食用として日本に持ち込まれたものらしい。それが食用としては不適切と考えられた頃には養殖場から外の世界に逃げ出して、日本各地に広がってこの辺りでもそこら中で見かけるようになった。先日岐阜県海津市の用水路でタモ網を入れてみたら、大きなジャンボタニシが捕れた。その用水路の水面上の壁にはピンク色の卵が沢山ついていた。私が知っている日本のタニシの数倍もある大きな巻貝だった。

 この巻貝は南米のアルゼンチンとウルグアイを流れるラプラタ川流域に生息していたものを持ち込んだものらしい。このピンクの卵はそれを捕食しようとする動物には、神経毒を持っているので食べることができない。ただヒアリだけが食べることができると記されていた。このピンクの色はこれは食べると危険だというアピールのためではないかと思う。

流行りの若い娘たちの(グループ名を失念した)グループの一人が引退する時に、家が貧乏だったのでタニシの卵を食べていたと話していた。本来のタニシは卵胎生なのでその卵というのはジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)ではなかったかと考えている。味は動物にとっては死にいたる程危険だが、人間には苦みがある程度らしい。私は食べたいとは全く思わないが、食用に適するという謂れがある貝なので食べた人たちもいたのだろう。私はモノアラガイとジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)が共に産卵することから一般的な巻貝の産卵方法だと思い込んでいたのである。

 巻貝の中でタニシのような卵胎生のものが一般的なのかそれとも例外的なのか、今の私の学力では分からない。でも貝全般やモノアラガイ、ジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)について私が知っている例からすると、タニシの卵胎生は特殊な産卵方法ではないかと考えざるを得ない。

 ジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)の日本への移入の例は、生態系や食物連鎖を全く考えないまま食用にできるとか、フィッシングに面白いとかいう単純な発想で移入されてきたのではないか。将来日本の生態系が乱されていくかも知れないとは考えないのだろうか。身近の人々と話してみるとそんなことを考えたり理解しようとしない人たちが多い気がする。動植物と調和しながら生態系を守ることが、結局は私たちを守ることに繋がること、そうして地球は人間だけのものでないという思想は、いつになったら共有できるようになるのか、そんなことをいつも考えてしまうのである。(タニシ 原始紐舌目 タニシ科の巻貝の総称 ジャンボタニシ 原始紐舌目 リンゴガイ科 リンゴガイ属 スクミリンゴガイ) 

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