カタクリ

植物編

春に山に入るとところどころでカタクリの花を見ることができる。群生していることが多く一輪だけ咲いているのを見掛けるのは珍しい。カタクリはユリ科だから球根で、片栗粉の名前は球根からデンプンを採ったことの名残りである。

カタクリの花

 カタクリの花を見る期間は長くなく、ある期間を過ぎると全く見られなくなる。東北では少し山に入ると原っぱや土手に咲いているのを見ることが多い。天童では若松観音の寺の周りの土手や道端にたくさん咲いていたし、山門の登り口の道路脇にも数株咲いていた。球根でも増えるから採らなければ同じところで毎年咲くのである。種でも増えるはずだから放っておけばその数が増えていくだろうと思う。国道48号線の大滝から仙台に抜ける左のパーキングの土手も、ニリンソウとカタクリの群生地がある。仙台に行く途中に寄って写真を撮っている。また山形県の雪が多くて有名な大井沢に行く途中でも、車を止めてぶらぶらしていたら、急斜面だったがそこにもカタクリが咲いていた。

 カタクリの花の蜜を吸うヒメギフチョウ

 私にとって思い出深いカタクリは、宮城県の村田町(低い山々である)の山に入った時、春の野原一面にカタクリが咲いていた光景が忘れられない。人は誰もおらずカタクリだけが群生して咲いていた。そこで人生で初めてギフチョウかヒメギフチョウか判定できなかったが、蜜を吸っているのを見た。その当時はカメラを持って入らなかったので、その写真を撮れずに今でも残念に思っている。これが私の心にあるカタクリの原風景であり、私だけのものである。

 私は偏屈なので人が観光地に大挙して訪れるようなところには行く気がしない。山に登るといってもその頂上を目指してただ歩くというのも関心がない。きっと頂上に辿り着けば達成感や周りの風景の素晴らしさを経験できるとは予想はできるが、私の趣味には合わない。富士山が世界文化遺産になって富士登山で賑わっているのを見ると、ますます富士山に登りたくなくなる。たくさんの登山者で頂上のトイレがどうなるだろうと心配になる。こんな訳で山に入るといっても高い山ではなく、ぶらぶらできる風景の中にいる動植物が気になって仕方がない。

 キバナカタクリ(園芸種)

 昔崖っぷちに咲いていたカタクリを移植しようと、移植ベラで採ろうとしたが途中で根が切れて採ることはできなかった。野生に咲いている野草を採るのはやっぱり良くないということだろう。その後カタクリを持ち帰ることはしなくなった。

 カタクリの花を観察していると、日中太陽が照っていると花びらが大きく開いてそっくり返って咲く。同じ花が夕方になると閉じてしまう。昼間なら咲いているのをすぐ見つけられるが、夕方だと探すのが難しくなる。

 カタクリについて調べてみると実は3つの部分に分かれること、アリを引きつける物質で受粉に結びつける仕組みを持っていること、せいぜい2週間程度の開花時期であることなどがわかった。春の短時間にしか咲かないイチリンソウ、ニリンソウやアズマイチゲなどの植物などを春の妖精(スプリング・エフェメラル)と呼んでいる。場合によってはヒメギフチョウやギフチョウなどの昆虫を含める場合がある。

 こうした春の妖精という呼称をつけた人のセンスの良さと、その植物の習性や生理を良く知っているからこそつけられた名前だとつくづく思うのである。

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