オオシオカラトンボ

動物編

オオシオカラトンボは小さい頃には見たことはなかった。名古屋から地方に出かけた時に偶然見かけたことが何回かあった。最初に見かけたのは、中学の夏休みの林間学校で、焼岳に登山するため長野県の木曽福島で汽車を降りてバスに揺られて上高地に行く途中で偶然見かけた。姿はいつも見ているシオカラトンボのようだったが、雰囲気が違っていた。大形の体型と翅の元が茶色でオスの尻尾の体色が白っぽかったことを印象深く覚えている。親しんでいるシオカラトンボではないと直感した。そんな経験からこのトンボは高山に住んでいるのだろうと勝手に推測していた。

  オオシオカラトンボ

数年前に世界遺産の岐阜県白川郷に行き合掌造りの民家を見てから、国道一五六号線を富山県南砺(なんと)市方面にある五箇山合掌造り集落に行く途中本陣だった家屋がありそこを見学してから車に乗り込もうとしたら、周りの田んぼにトンボが飛んだり止まったりしていた。そこで写真を撮ろうとトンボの近くまで行ってみた。そこにいたのはオオシオカラトンボのオスだった。数匹いたが全てオオシオカラトンボだった。周りを見回してもシオカラトンボは全くいなかった。私の感覚ではシオカラトンボが一般的でオオシオカラトンボは珍しいと考えていたが、ここではオオシオカラトンボが普通のトンボだった。何年か後にオオシオカラトンボだけしかいないのか、シオカラトンボもいるのか確かめに行きたいと思っている。この辺りは白川郷を含めて標高が高いから、オオシオカラトンボだけの可能性もあるかも知れないと考えている。

天童のアパートから近くの山元沼や原崎沼に動植物の写真を撮りに行っていた。山元沼に行く手前に田んぼがあり畦がある。田んぼには毎年イネが植えられているが、イボクサやコナギなどの抽水植物(水生雑草)が沢山生えている。そのためイネの収穫量は多くないだろうと思う。そうした雑草を取っている姿も見たことはない。水生雑草の繁殖力を考えるといちいち除草することは大変な作業ではないかと思う。そんな場所なので、田んぼの一角はイネを植えるのを放棄したままの場所もあった。田んぼの畦の水辺には野生のセリが沢山生えている。秋になるとミゾソバが花を咲かせる。その場所ではシオカラトンボ(ムギワラトンボも)が飛んだり植物の枯れ枝に止まったりしていた。そんなシオカラトンボの写真を撮っていたら、その中に何とオオシオカラトンボがいた。メスは見当たらなかったがオスが飛んだり枯れ枝に止まったりしていた。そこで私は夢中で写真を撮った。

  オオシオカラトンボの産卵

数日後に行くとまたオオシオカラトンボが止まっていた。それから山元沼の東側の杉林を通り抜けて小さい開けた広場に行ってみた。その端(はずれ)には小さなハス池がある。ハス池の脇には農器具が置かれた納屋がある。いつ行っても人の気配はなかった。その広場の池のハスの葉にもオオシオカラトンボが止まっていた。山元沼への入り口の田んぼとこのハス池の二か所で見かけたのである。

   シオカラトンボ

富山県五箇山合掌造り集落の標高はほぼ四〇〇メートルである。大雑把に高度が一〇〇メートル上がるごとに〇・六度下がると言われている。すると平地よりは二・四度C低いことになる。また北に一〇〇キロ行く毎に一度C下がると言われている。すると山形までは東京を基にすると三五〇キロメートル位だから、三・五度C位低いことになる。おおよそ五箇山と天童辺りの気温は同じ位と考えて良いだろう。生息域が気温に左右されるとしたら、高地にいるオオシオカラトンボと天童にいるオオシオカラトンボの生育環境はほぼ同一と考えて良いだろう。但し五箇山ではオオシオカラトンボしか見かけなかったが、天童周辺ではシオカラトンボも同じ地域に住んでいる。これをどう考えたら良いのだろうか。

  シオカラトンボの交尾態と警護産卵

色々調べてみたがオオシオカラトンボがシオカラトンボより気温が低い所を好むという資料はまったくなかった。それよりも「普通に見られるトンボ」というような記述になっていた。また習性もシオカラトンボと同じで交尾して産卵するときは、オスがメスの上空で警護する行動をとると記されていた。

「日本のトンボ」(尾園暁 川島逸郎 二橋亮 文一総合出版)のオオシオカラトンボの項目では「分布は北海道の一部を除き日本全国。生育環境は平地~丘陵地の周囲に樹林がある水田や湿地・池沼など。生活史は卵期間一~二週間程度、幼虫期間二~八か月程度(一年多世代)。幼虫で越冬する。形態はオスは成熟すると青灰色の粉を吹く。備考として、全国に広く分布し、普通にみられるトンボの一つ。交尾は、成熟オスは水辺に静止して縄張り占有する。交尾態となったペアは、水辺の枝などに止まる。産卵は、メスは単独で浅い水面を出水し、腹端ですくい上げた水と卵とを前方に飛ばす。オスは付近を飛んで警護することが多い。」と記されている。

このことから、オオシオカラトンボとシオカラトンボは、気温の高低で棲み分けているのではなく、混在して住んでいる可能性が高い。ただインターネットを見ると「シオカラトンボは明るい水辺に多いのに対し、オオシオカラトンボは薄暗い水辺を好む。」と記されていた。蟹江周辺で何十年も前からオオシオカラトンボが飛んでいるのを見たことはない。ウチワヤンマがいる海津市の森がある養老公園に行けばいるのかもしれない。オオシオカラトンボは本州ではどこにも住んでいると示されているが、蟹江周辺では見かけない理由は、薄暗いという生育条件を満たしていないからかも知れない。そんなことを考えてしまった。(トンボ目 トンボ科 シオカラトンボ属 オオシオカラトンボ)

                             

コメント