ナマズ その1

動物編

小中学校の頃から名古屋周辺では田植えは六月中旬過ぎからで、その前に田んぼに水が張られ、田植えの準備にために用水路の水量も多くなる。六月初旬になるとフナ、メダカ、ドジョウ、ザリガニ、モツゴ、ヌマチチブ、スジエビ等の稚魚が捕れるようになる。暖かくなって親たちが産卵して、それが孵って群れるようになる時期である。その時期になると、小川や用水路に行って四手網やザルを使って魚を捕ったものである。魚を捕っている時に、偶然ザルや網に一見すると少し顔が角ばったオタマジャクシのようなものが捕れることがある。その頃はてっきりオタマジャクシだと思っていたが、ちょっと様子がおかしい。よく見てみるとナマズの子だった。髭(ひげ)が顔に張りついて分からないのである。そんな経験を何度もしたことがあった。

ナマズの稚魚と成魚

タモ網を水中に入れて動かしながら上げてみたら、メダカの親が数匹捕れた。また網を入れてみるとモツゴ、ドジョウ、フナの稚魚が掬えたがその中にオタマジャクシのような魚が入ってきた。見た瞬間ナマズだと直感した。しかも二匹も捕れたのである。

ナマズの稚魚を捕ったのは五〇年振りだった。小学生の時の感動を偶然また経験することが出来た。その時おばさんが傍を通りかかって、「何をしているのか。」と尋ねてきたので、メダカ捕りをしていると話すと、この用水路は一年に一回、魚だらけになって盛り上がる位になると話してくれた。私はその時ナマズの稚魚を捕ったばかりだったので、「それはナマズではないかと思う。」と応えた。本でナマズの産卵について読んだことがあったからである。ナマズは用水路を大挙して上って水田や用水路で交尾し産卵するらしい。ナマズの群れだったかどうか分からないものの、何匹かのオスがメスに纏わりついて産卵を促し、産卵する様子は迫力があるだろうなと思う。

蟹江周辺には昔から蟹江川、日光川、善太川、福田川等があり水郷地帯である。海に近いので川の流れがゆったりし淀んで大きな池や沼もあちこちにある。昔からフナ、ウナギ、ナマズやライギョ等の川魚を釣る人たちがいて、蟹江と言えば釣り人がゆったり釣り糸を垂れている光景が想い出される程である。

また町内には「なまずや」という川魚専門の料理店が昔からある。現在もこの名前だが今でもナマズ料理を出しているのかは確認していない。以前住んでいた天童から仙台に向かう国道四八号線の陸前白沢駅近くにも、同じ「なまずや」という店があった。今ではなくなって牛タンの店に変わってしまっている。最近ではナマズを見ることは少なく、ナマズを食べさせる店では定期的にナマズを手に入れなければならないから、ナマズを養殖する場所がどこかにあるのではないかと推測している。

 産卵のためにメスを追いかけるオス

捕ったナマズの稚魚二匹はフナとドジョウの稚魚と同じバケツに入れて置いたら、翌日にはフナの稚魚の数が減っていた。私はナマズの稚魚の写真を撮りたいために透明なプラスチックの小さい水槽に入れるとそこで糞をした。捕った時までに食べたものが糞になったのか、それとも昨日入れたフナの稚魚を食べた結果の糞なのか分からない。その食べる量も半端ではないように思われる。そのことからナマズの養殖をするとなると、相当に餌代がかかるだろうなと思った。

数年前にその用水路でメダカを捕っていた時自転車を曳きながら歩いて来たおばさんが、私に「何をしているのか。」と尋ねてきたので、「メダカを捕っている。」と答えると、「メダカはナマズの餌にする。」と応えた。ナマズが稚魚から成魚になる過程で、メダカを餌にする時期があること、そしてナマズの養殖をどこかでしているのだろうと思った。

春にナマズが産卵してその稚魚が捕れるということは、この辺りの水郷地帯では年月を過ぎても、生態系が崩れないまま維持されていることを意味している。私にとって単なる原風景が変わらないままに見えるこの光景こそが、昔からいる川魚や植物間の複雑な生態系を維持している象徴なのではないかとも思う。

 川で見かけたナマズ

先日岐阜県海津市にある「お千代保(おちょぼ)稲荷」に出かけた。ここは日本三大稲荷の一つと自称している。伏見稲荷は当然に入るが、他には豊川稲荷等多様で、地域によって異なるらしい。東北仙台にいた時には岩沼の竹駒神社も三大稲荷と言っていたと思うが、残り二つ(伏見稲荷は入る)の他の一つは「おちょぼ稲荷」ではなかった気がする。この神社の門前町は近郊の人たちには有名で、いつ出かけても高齢者の人たちが店を見ながらそぞろ歩きしている。並んでいる店の中には何軒かの川魚の佃煮屋がある。エビ、モロコ、ハヤの佃煮を売っている。また食堂にはウナギ定食の他にナマズの蒲焼定食のメニューがある。その値段はウナギ定食よりも高く三八〇〇円程である。どの食堂でもこのナマズの蒲焼定食があるから恒常的にナマズが手に入るのだろう。これもきっと木曽三川(木曽川、長良川、揖斐川)の近くであることと無関係ではないように思う。こんな地域は全国的にも珍しいかもしれないと思うがどうだろう。(ナマズ目 ナマズ科 ナマズ属 ナマズ)

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