クズは周りにたくさんある蔓状のマメ科の植物である。秋の七草の一つに数えられており、土手とか木々の上を被って繁茂している。三枚の葉っぱは大きいものだと一枚が人の顔位もあり、それこそ圧倒的な存在感を示している。夏になると線路脇の土手にも繁茂しており、私の考える夏の風景の一部を構成している植物である。
クズは根をクズ粉といって澱粉を採って、京都の和菓子や東京の葛餅の原料でもあり、中華料理等の餡かけの材料にもなっている。昔は澱粉の名称は、私などは「片栗粉」と言っていたが、クズ粉でも良いのである。もともと澱粉だから、それを作る名前をつけるのが本来の筋かもしれない。しかし売られているものの殆どはジャガイモから取られたもので、本来ならジャガイモ粉といっても良い筈であるが、風情がない名前に聞こえる。
小学校4~5年生位の時に、ジャガイモを使って理科の授業で澱粉採りをした記憶がある。ある形に切ったジャガイモをおろし金で卸して、細かくし繊維状になったものを水の中に入れて、それを布巾で濾し絞って、そのフラスコの水をそのまま置いておくと、下に澱粉が沈んで残る。上の水を流し去って乾燥させると澱粉の出来上がりというわけである。
澱粉は炭水化物なので、それが含まれているかどうかはヨーソデンプン反応を見ればよい。ヨウ素液をつけると、澱粉があれば濃い青紫色に変色する。ヨーソを薬局で買い求めると瓶に入った茶色の粉末である。これに水を入れても余り溶けずに下に沈んでしまう。溶解の原則から、それを熱してみると溶解量は増えるが、それでも大した濃さにならない。ではどうしたら良いかというと、私は昔からヨードチンキ(ヨーチン)を使っている。チンキというのはアルコールに溶けているということで、小さい時は赤チンと共にヨーチンにお世話になった。赤チンは傷口につけてもちっとも痛くはないが、ヨーチンはつけるとヒリヒリする。そのヒリヒリすることが薬の効果があるように感じたものだった。ついでに、昔ヨーチンと赤チンを同時につけたら、泡が立った経験があるが、なぜそうなるかをいつか調べてみたいと思っている。そのヨーチンはアルコールに溶けているから、容器に入れて蓋をしないままにしておくと、アルコールが蒸発して水分がなくなりヨウソだけが残ってしまう。
ヨーソデンプン反応についてだが、イネの教材テキストを作ったとき、もち米とうるち米のそれぞれに、ヨーチンを垂らしてみたら、ヨーソデンプン反応による青紫の色が違うのである。記憶違いでなければ、もち米の場合には赤紫のような色合いだったのに、うるち米の場合には青紫だったのである。理学部の生物が専門の仲間に尋ねたら、澱粉の性質が違うので、その色の変化が起こると教えてくれた。私は小学校の時から、澱粉があるかどうかについて、ただ単純に青紫色になるとしか覚えていなかったが、化学反応として澱粉の性質に従って色合いが変わるのは、専門家から見れば当たり前のことかもしれない。このことは草木染めの色を定着させる時に使う媒染剤の塩(えん)の違いの問題とも関連することである。同じ草木染めする際、硫酸銅、塩化第二鉄、ミョウバンなどの塩(えん)の違いによって色合いが変わることも、同じ原理だろう。
ある時、中京テレビの「技ありにっぽん」という番組で、奈良のクズの根を採る職人とそれを集めてクズを製品にする業者(個人経営)の番組をやっていた。クズ採り職人は、山に入り車から出ると、秋の山の様子をじっと眺める。すると、その向こうにクズの蔓が木々の上を張って枯れてきているのを見つける。するとその辺りまで車で行き、降りてから山を登って行く。彼は細い鍬状の道具で、その根を掘り、その太くなったところを取り出し、それを部分に切ったり折り返して背負って車に戻る。何回か同じことをして、たくさんの量のクズの根を集めて、それをクズを製品化する業者に持っていく。するとたくさん集められたクズは、根を砕いて細かくし水の中で何度も何度も篩にかけて、その澱粉を取り出す。それを大きな木の樽にいれてから、またかき回して別の樽に移しそれを四角い方形の箱に移す。それを何週間もかけて倉庫で乾燥させる作業の果てに、切ったり割ったりしてある大きさにして製品化する。
何年か前に、毎年開催される奈良の正倉院展に行ったことがあった。そこで帰りに学校の教職員への土産として、クズ粉(一袋ずつになっている)を買ったのだが、自分で葛湯を作ってみたら、なぜか土臭い香りがしたのを思い出した。奈良のクズは粉ではなくて方形の形をしたもので、京都の料理屋などで重宝がられており、料理屋の主人が、このクズでなければ京都の料理はできないと話していた。
昔から奈良のクズを利用した料理が伝統的に作られていることと、そのクズは養殖ではなく野生のものを調達していることを知って、自然からの恵みを貰いながら、私たちは生かされているのだなぁと思ったものである。
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