サクランボ

植物編

山形に来てサクランボの花を見たときは感激した。桜といえばピンクか薄いピンクだと思い込んでいたが白い花なのである。ソメイヨシノのように枝に均等に咲くというよりは、どの枝先にもびっしりと蕾がついて、花が密着して咲くので、遠くから見ると枝に花がまとわりついている風情である。そんな花びらの白さと枝につく花のつき方にも吃驚したのだった。(花のつき方がこう見えるのは、木の剪定が関係してるかも知れない)

   サクランボの花

 天童周辺は果樹栽培が盛んで、サクランボ、梨、リンゴ、ラフランス、スモモ、ブドウ、モモなどが栽培されている。その春の開花時期にはほぼ一斉に咲きだすので、その光景は素晴らしく、山形に住んで良かったと思うのは毎年のこの時期なのである。

 天童市は将棋の駒で有名で、全国の将棋の駒の96%近くを生産していると言われている。皆さんもご存じだと思うが、4月20日前後の土日の桜祭りには、プロ棋士による人間将棋が舞鶴山で開催される。この舞鶴山の桜も素晴らしく、この桜祭りと桜の開花が重なるかどうかが、天童市民の関心の的になっている。

 例年だとソメイヨシノの開花後、一週間位するとサクランボの花が咲き出すが、春の季節が年によって異なっても、この咲きだす間隔はほとんど外れたことがない。

 サクランボの実がなるのは大体6月の初旬から下旬にかけてであるが、サクランボといっても早生種や晩生種などがあり、実のなる時期は一定でない。また生食用のサクランボは、自家不和合性(自家受粉では種ができない)なので、受粉するには他種の花粉が必要となる。今のところは中生種の佐藤錦が主流なので、早生種の花粉をつけなければならない。

  サクランボの実

 春に天童周辺を散歩がてら歩いていたら、既に実が赤くなっている木がある傍で、まだ花が咲いていたのは佐藤錦だった。農作業している人にどの種の花粉をつけているのかと尋ねたら、早生種の「紅さやか」だと言われた。サクランボの木の中に、こうした他種のサクランボを入れて他家受粉ができるようにしているのである。

 毎年同じ場所ではないのだが、ビニールハウスで早めにサクランボを作る農家がある。3月から5月頃までの間だが、灯油を使って暖房して早めに作る。こうしてサクランボの「はしり」にすると値段が高いのだろう。また、ニュースなどでハウス栽培のサクランボを食べているのを見ることがある。私自身は4月20日にある会議に出てハウスのサクランボ(7粒)を食べたことがあり、提供してくれた人が一粒300円だと話してくれた。味は6月に食べる露地物と変わらなかった。

   受粉させるマメコバチの巣

 こうしたハウス栽培のサクランボの受粉はどうしているのだろう。露地栽培の開花時期の場合には、長い竹竿の先に鳥の羽根をつけたハタキのようなものに他種の花粉をつけて人工受粉しているのを見かける。またマメコバチやミツバチを利用して受粉させているが、ハウス栽培のときはどうしているのだろうか。前年度の花粉を取っておいて受粉させるのか、他種のサクランボも同時にハウスで咲かせながら、人工授粉したり蜂による受粉をしているのだろうか。ハウス内の温度はそれほど高くないと思われるから、動きが悪い蜂による受粉は効率が悪いのではと心配してしまう。

 蜂による受粉では、サクランボ畑には葦の茎を切ったものを何層にも積んで小さい屋根のある小屋に入れて畑の真ん中に置いてある。最初は葦がばらけて小屋から落ちていたものがあり何だろうと思ったが、これは蜂の巣であり、春の冬眠を過ぎて羽化させる寝床だと知った。マメコバチという小さい蜂で、農家の人たちは業者から買っている。確かにサクランボ畑の数や木の本数の多さから、自然のミツバチなどの蜂、蝿、甲虫に受粉を期待することは難しい。サクランボの受粉には自前の蜂を用意しなければならない訳である。蜂は巣の近くのサクランボばかりの受粉をするかどうかは分からないから、その効果はどんなものだろうか。

 そんな積もりで見ていたら、あるサクランボ畑の木の下に菜の花をたくさん咲かせている畑があった。菜の花の匂いは強いから、蜂を呼び寄せることに効果があると思われ、そのついでにサクランボの受粉をしてもらうための工夫らしい。

 受粉したサクランボの実は、みるみる大きくなり赤くなってくる。サクランボの実がなりだすと、アルミのパイプの枠でできた屋根にビニールを張って、雨で実が割れるのを防ぐ。

 私はサクランボを親戚や友人などに送るが、知り合いの依頼を含めるとその金額は、毎年概ね10万円以上にもなる。サクランボは山形が本場であるのと、実が二つくっついたものや歪んだり割れたものは商品にしないから、サクランボの値段は高いものとなっている。都会の送られた人が考える値段よりはかなり高いというのが、サクランボの値段である。

 地元に住んでいると商品にならないものでも味は変わらないので、それを手に入れたいと思うがそれができないのだ。サクランボのブランドの価値を県全体で守ろうとしているからである。

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