昔から時々見かけているものの、翅を開いたところを見たことがないチョウがいる。ウラギンシジミである。裏翅は銀白色で、私にとっては魅力的なチョウである。
ウラギンシジミ



ウラギンシジミに初めて出会ったのは、紅花で有名な高瀬の村山高瀬川に沿った山道を歩いていた時だった。裏翅が銀白色のチョウが私の腕にとまって動かなかったのだ。そこで何とか工夫して写真を撮ったものの、表翅の模様は分からないままだった。なぜ止まったのかは分からなかったが、私が汗をかいていたので、それを吸う為に寄ってきたのではないかと思った。なかなか飛ばないまま止まっていた。
それから何年か経って、十月に高崎の叔父が亡くなり市内の寺に納骨しに行った際、寺の境内でウラギンシジミが飛んでいるのを見かけた。モンシロチョウと比べて動きが速く表翅の紋様はやっぱり分からなかった。
このチョウは蟹江周辺でも時々見かけるが、数は多くない。花の蜜を吸っている姿を見かけたことは一度もない。止まっている時、他のチョウなら翅を広げるのに、それも殆どしない。同じチョウなのにモンシロチョウやモンキチョウのように花に集まるチョウではないと知らず知らずに予想していたのだった。
夏に愛西市の福原輪中に出かけたとき、長良川の土手下の人工湿地近くの資材置き場の広場で、ウラギンシジミを見かけた。最初は止まっていたが、飛び立って激しく飛び回ってから近くの地面に降りるのを繰り返していた。その様子から地面で吸水しているのではないかと思った。
ウラギンシジミ(左2つはオス ➡つがメス)



その止まった時、翅を半開きする時があって紋様の一部が見えた。茶色い紋様からオスだと思う。ウラギンシジミが広場を飛び回っている様子を写真の連写で数枚撮ったが、家に帰ってパソコンで見ると、翅の紋様が見られるものは数枚だけだった。
数日後長良川の土手下を歩いて行くと、河畔でまたウラギンシジミを見かけた。半開きの紋様からメスだったが、葉の裏に隠れるように止まった。そこから少し飛んで移動したが、その時も葉の裏に止まった。どうもそうした習性らしいのである。
イチジクの蜜を吸うウラギンシジミ


十一月になって、鈴鹿峠を車で通ってみたくなって亀山から甲賀土山まで抜ける途中で、車を停めて付近を散策していたら、オオアオイトトンボとウラギンシジミを見かけた。そこで写真を撮った。オオアオイトトンボはこの辺りにいることに吃驚したが、加えてウラギンシジミもいたので、幸運だと思いながら写真を撮ったのだった。ウラギンシジミはオスだった。とにかくウラギンシジミはひょんな時に出会うのである。
秋になってカキの実がなる頃、海津市のハリヨ公園にでかけた。その駐車場の前にカキ畑があった。岐阜県は富有柿で有名な所で、カキ畑が沢山ある。駐車場を降りてカキ畑を見ると、木の上で飛び回っているチョウがいた。何とか写真を撮るとコムラサキとキタテハだった。カキの実をヒヨドリが啄んだ後に穴が空いている。そこにこれらのチョウが吸汁に来るようなのだ。このチョウのうち、キタテハは花の蜜も吸うが、果汁や獣糞なども吸うと言われている。またコムラサキは果物や獣糞の汁を吸う。これらのチョウが飛んでいる場所で、カキの実に裏翅が銀色のチョウがとまって、カキの果汁を吸っていた。見た瞬間ウラギンシジミだと直感した。ウラギンシジミはカキの汁も吸うことを初めて知った。
葉の裏にとまる習性があるウラギンシジミ(メス)



見かけた場面の少し前の時刻に、近くの畑でウラギンシジミが飛んだり、地面に降りたりしているのを見かけていた。何とか写真を撮れないか、動画を撮れないかと思って追いかけていたが、全く撮れずにいたのだった。それが偶然カキの果汁を吸っているのを見かけたのである。
ウラギンシジミはコムラサキ同様に、花の蜜を吸う代わりに、果物や獣糞の汁などを吸って生きているらしい。これまでチョウは花の蜜を吸う為に、花に集まるとばかり思っていた。ところが歩き回っているうちに、沢山のチョウが果汁や獣糞などの汁を吸って生きていることを知るようになったのだ。これまでどうしてチョウが花に集まると思い込んでいたのだろうか。
チョウの代表は小さい時からモンシロチョウ、モンキチョウやアゲハチョウだった。それらは皆花に集まり蜜を吸っている。そうした事実から、チョウは花の蜜を吸うと一般化させていたのだと思う。そうでないチョウであるコムラサキ、キタテハ、ウラギンシジミやゴマダラチョウは、蟹江に戻ってから知り合いになったチョウたちである。そうした花に集まらないチョウたちがいて、生きていることをずーっと知らないでいたのだった。
「日本のチョウ」(日本チョウ類保全協会編 誠文堂新光社)ではウラギンシジミについて「小型。食草はクズ、フジ、クララ、タイワンクズ、ハリエンジュなど(マメ科)。生息環境は森林、疎林、草原、農地、公園、人家、河川。~中略~ 春~初夏は食草がフジ類のため、渓流沿いの樹林や公園などで発生。秋には主にクズを食草とするため、林縁部や河川堤防、都市部の荒地などクズの繁茂する場所に広く見られる。行動は日中、樹上や林縁を活発に飛翔し、しばしば地上にも降りる。花にはほとんど訪れず、腐果や獣糞などで吸汁するほか、湿った路上で吸水も行う。成虫は常緑樹の葉裏で越冬する。」と記されている。
幼虫はマメ科の葉を食べながら蛹になり羽化するのに、成虫になると植物の花に集まらない生活を送っている。
ところでシジミというので大きさは小型となっているものの、私の感覚ではキタキチョウくらいの大きさで、他のベニシジミやツバメシジミに較べてかなり大きい感じがする。また成虫のまま越冬するので晩秋から翌年春早くにも見かけるチャンスがあるようだ。そんな時期に出会ってみたいものだと思っている。
「コンチュウ図鑑」には、「分布は本州の北陸地方よりも南の地域に分布しています。海外では中国から南のヒマラヤ山脈あたりの地域にかけて分布しています。季節は三月~十一月で、成虫は春先から秋の終わりにかけて発生時期を複数回に分けて活動しています。」と記されている。キタキチョウと同じように南方系のチョウらしい。だんだんと温暖化で北上しているようである。
戦後の頃ウラギンシジミの北限は関東地方までだったが、その後は温暖化の影響からか北上し続けているようである。私が山形でウラギンシジミに出会ったのは二〇一五年八月なので、その頃から六十五年を経過している。生息地が北上し定着している時期にあたるので、山形で見かけても何の不思議もないと思ったのだった。
(シジミチョウ科 ウラギンシジミ属)
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