シオカラトンボ(ムギワラトンボ)は小さい時から遊んだトンボである。それよりは小さい同じ色をしたトンボも知っていた。シオヤトンボである。コフキトンボという名前は聞いたことがあったがシオヤトンボとコフキトンボがどう違うのか最近まで分からなかった。
コフキトンボ
天童の原崎沼の遊歩道を歩いていた。それは七月下旬だった。この頃はサクラの木にはニイニイゼミが鳴いていてアブラゼミも鳴き出す時期だった。
沼周辺ではシオカラトンボ、チョウトンボ、ショウジョウトンボが飛んでいて、シオカラトンボが遊歩道の石の上に止まったりしていた。またシオヤトンボと思われるシオカラトンボより小さいトンボも止まっていた。そんな写真を撮りながら歩いて行くと沼の周りに生えているミズカヤツリの葉に、綺麗な黄色い体色で翅の四枚に茶色い帯が入っている小型のトンボがを見かけた。数年前からこの沼に写真を撮りに来ているが、こんなに綺麗なトンボは見たことがなかった。遊歩道からそのトンボを何十枚か撮った。トンボは葉に止まったり時々移動するものの沼の方に顔を向けて止まっている。遊歩道側に顔を向けている写真は全く撮れなかった。携帯用のデジタルカメラと撮影技術の低さから殆どのものがピントが合わずピンボケになってしまった。それでも数枚は何とか画像がはっきりした写真が撮れた。
帯型のコフキトンボ
家に帰ってどんなトンボか調べてみたらコフキトンボだった。この原崎沼には数年前から写真を撮りに来ている。昔からコフキトンボがいると思われるのにどうしてこの体色のコフキトンボを見かけなかったのだろう。とても不思議だった。そこで詳しく調べてみたらこのコフキトンボのメスには普通のメス型と、写真を撮ったオビ型(帯型)というメス型があるという。普通のメス型はオスよりは少し麦わらが入っている感じのトンボだが、オビ型は体色が黄色で翅に茶色の帯が入っている。このオビ型は沖縄と北海道では全てオビ型だという。本州のコフキトンボはオビ型だけではなく、地方によって様々な割合だということだった。インターネットの資料には出現率は東北~関東では一〇~二〇パーセント、中部~九州では一〇パーセント未満だという。
こうした資料から私が原崎沼で撮ったコフキトンボのオビ型の写真は、幸運だとしかいえないものだった。コフキトンボは原崎沼に生息しているもののオビ型のメスはほとんど現れなかったのだ。オビ型のメスが時々出現するのはとても不思議なことで、遺伝的に劣性遺伝の可能性が高いと推測している。環境との兼ね合いで出現したりしなかったりこともあるのだろうか。
交尾態からメスの産卵行動へ
そのインターネット資料には、「未成熟個体は同型。成熟個体は異型もしくは同型。オスは成熟すると全身が黒化し、強く白粉で覆われる。またメスは多型で通常はオスと同様に成熟するが、地域によっては翅端部に褐色帯をもつ型(オビトンボ型)が多く表れることがある。生存環境は、平地~丘陵地。水辺に挺水植物と抽水植物の多い池沼や水田、用水路。底質は砂泥で有機質が多く、水質はやや濁ったあるいは濁った陸水。開けた明るい環境を好む。生態は昼行性。静止時は翅を開いて平にとまる。飛翔は敏速だが移動性は弱く、羽化水域を遠く離れることはない。羽化直後の未熟な固体はオスメスともに、水辺を離れ、付近の雑木林などの林縁で栄養飛翔を行う。成熟したオスは水辺に戻り、日中は水面から突き出した杭や枯れたアシなどにとまって縄張りを確保する。盛夏にはやや顕著な黄昏飛翔性を示し、日中は抽水植物などにぶら下がって休み、主に夕方に水域の上を飛び回ってメスを探す。メスを見つけると直ちに交尾する。幼虫の捕食性は、若齢幼虫はミジンコ類、中齢以降はユスリカ類、ハナアブ類、カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類などの幼虫、オタマジャクシ、メダカなど。成虫の捕食性は、小型~中型の鱗翅目、ハエ、ユスリカ、アブ、小型のトンボなどの飛翔性昆虫の他、カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類。」と記されている。
これらの記述から生態は凡そシオカラトンボやシオヤトンボと同じである。私の経験でもこれら三種のトンボは同じ環境で見かけるから、当然といえば当然だろう。但し形態的にコフキトンボのメスのオビ型が特異であるのと同様に、多少の違いはそれぞれあるのだろうが。
ところで私が区別できなかった、シオヤトンボとコフキトンボの違いはどうなのかという点は、①コフキトンボはオスの複眼が黒化する。シオヤトンボのオスは深い水色、メスは淡褐色になる。②尻尾の先端がコフキトンボは黒い部分が大きいのに、シオヤトンボはそれが小さい。③翅の縁紋はコフキトンボは黒いが、シオヤトンボは橙である。などで区別できるという。そこでオビ型のメス以外で撮った写真を詳しく見てみたら、その殆どはコフキトンボのオスとメスだった。主に区別に使ったのは、②③だった。
勤めていた短大の五〇周年記念事業の際に「開学五〇周年記念誌」を発刊した。その記念誌の資料編の中表紙に、私の撮ったコフキトンボの写真をA三の大きさにして掲載することになった。その理由は、他から持ち込む写真には肖像権や映像権が絡むので、使用許可や料金が必要となる。そこで動植物の良い写真はないかと相談を受けて、司書の髙橋明子さんと片平睦美さんに提供した多数の写真から選んだのが、このオビ型のコフキトンボがミズカヤツリの葉に止まっている写真だった。
面白いことにこの写真の原本のコフキトンボでは分からなかったが、拡大されたオビ型のコフキトンボは、葉に止まりながら糞をしている。拡大された写真には、尻から落ちていく糞が空中に留まっているのが見える。この部分はよく見ないと分からないので気がついているのは私だけかもしれない。こうした糞が空中に留まっている場面を撮れたことも今となっては良い思い出となっている。(トンボ目 トンボ科 コフキトンボ属 コフキトンボ)
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