イソシギ

動物編

シギの仲間を初めて知ったのはイソシギだった。イソシギといえば、エリザベステーラーの「いそしぎ」が想い出され、リチャードバートンとの共演だった。そのテーマ曲は耳の中に残っていて、そんな抒情的な風情とイソシギという名前は繋がっている。

 イソシギを見かけたのは善太川で、川は汚れ人が捨てた廃棄物が岸辺に散乱している環境の中だった。映画のイメージと現実のイソシギのギャップに驚いたことを想い出す。

  イソシギ

日光川の河口の岸壁や藤前干潟の海辺、そして五条川の干潮時の砂浜などでもよく見かける。昔はきっと海辺の砂浜や干潟で見られたのだろう。

 定点観測地の新大井橋付近の善太川で一年中イソシギを見かける。水辺を餌探ししながら、素早く移動していく。私がカメラを持って歩いて行くと、前方に飛んで行ったり、水面上を対岸に飛んで逃げて行くが、余り怖がっている様子はない。降りた先ですぐに餌探しをするからである。イソシギの飛翔の様子は、チドリのように水面上をある独特の飛び方でスーッと飛んでいくので、格好良いなと思う。

羽の色は茶色で腹は白っぽく、地味な色合いである。飛んでいる時は羽の翼鏡(よくきょう)が白く目立つ。水辺でゴカイやミミズ、ユスリカやハエなどの昆虫類を捕りながら、せかせかと尻尾を振りながら移動していく。群れで行動するのを見たことはなく、一羽か二羽で行動しているのが殆どである。

シギというと嘴(くちばし)が長く脚が長いイメージだったが、イソシギは少し嘴が長いかなあと思う位で、最初はシギの仲間だと思えなかった。雰囲気もこの辺りでよく見かけるコチドリに似ていて、最初は区別できなかった程である

五月になって飛島村の田植え前後の田んぼや用水路では、まだ残っている冬鳥や南から北に渡っていくシギの仲間を見かける。そんな仲間に冬鳥のクサシギと北に移動していくタカブシギがいる。留鳥のイソシギの三者は似ていてなかなか区別できない。

クサシギとタカブシギは羽の模様の違いがあるので区別しやすいが、クサシギとイソシギの区別はとても似ていてできないのだ。

  クサシギ

これまで似た動物の違いが初めは分からなかったのに、時間をかけていく内に段々できるようになった経験が何度もあり、それが楽しいと思えるようになってきた。

例えばコサギ、アマサギ、チュウサギとダイサギの区別は長い間分からなかったが、その違いがだんだん分かってきた。今では見た瞬間にダイサギだとか、コサギだとか凡そ判断できるが、風景の中に一羽だけでいると、やっぱりどれだか分からなくなってしまう。

人間の経験による知覚や認識能力の成長は、自分ながら凄いと感心している。最初はどの特徴の違いがあるか個別的に比較して、ダイサギかコサギかと判断していたが、それが見た瞬間の雰囲気の違いで区別できるようになってきたのだ。何故そんなことができるようになるのか自分ながら不思議に感じている。

冬の時期に飛島村の用水路で黒っぽく見えるシギが餌探しをしていた。その姿はイソシギに似ていて、嘴を水中に突っ込む時、顔も水中につけながら餌を懸命に探していた。

これまで善太川で見かけているイソシギは、餌を捕る時にそんな行動はせず、水辺を歩き回って餌を探している。水面で餌を狙っている時も顔を突っ込んでいる場面は見たことはない。採餌の仕方が違うのだ。

クサシギとイソシギは姿形がとても似ているのに、行動の仕方や習性が違っているらしい。専門家なら見た瞬間にこれはイソシギだ、これはクサシギだと判断できるのだろう。早くそうなりたいものである。

「シギ・チドリ類ハンドブック」(氏原巨雄 氏原道昭 文一総合出版)で、その形態的な違いは次のようになっている。イソシギは「①尾羽は長くて翼端を大きく超える。下面の白色が側胸、肩部まで食い込む。白いアイリングが目立つ。夏羽と冬羽は軸斑の模様が若干異なるが遠目には大差がない」と記されている。クサシギは「①嘴は長めで上嘴先端が微妙に下にカーブして見える ②上面の白斑が小さく、より暗色に見える ③翼下面も暗色 ④白い眉斑は眼の位置まで。静止時、初列風切先端は尾端と同じかやや越える」と記されている。こうしたイソシギとクサシギの形態的な違いは素人にはすぐには判断できないものが多い。「嘴は長めで上嘴先端が微妙に下にカーブして見える」は私には殆ど分からない。でもイソシギとクサシギの区別が少し分かってくると、その嘴の違いが分かるようになってきた。全く分からない素人状態と半分かりの状態で、その指摘されている部分の理解が違うのである。五月半ばを過ぎたら、この用水路のクサシギと思われるシギは見かけなくなった。北帰行したのだろう。

そこでイソシギとクサシギの生態について、「日本の野鳥」(叶内拓哉 安部直哉他 山と溪谷社)では、イソシギは「留鳥。中部地方北部以北では夏鳥。南西諸島では冬鳥。海岸、河川、湖沼、水田、河口、干潟など。繁殖期はつがいで行動し、非繁殖期は一羽でいるのがふつう。浅い水辺を腰を上下に振りながら歩き、飛びかうユスリカをとったり、水中から水生昆虫の幼虫をとる。ときには魚類やトンボ、ハエなどの昆虫類もとる。」と記されている。

クサシギは「旅鳥。関東地方以南では少数が冬鳥。河川、湖沼、池などの泥地、水田、水田地帯の小川や用水路、湿地など。渡りの時期も越冬中でも一羽での行動が多く、ときどき二~三羽が同じ水田にいることがある程度。水深の浅い場所で昆虫類、甲殻類、タニシなどを採食する。休息中でも、羽づくろいしては体を上下に動かす。」と記されている。

蟹江周辺ではイソシギは留鳥で、クサシギは冬鳥と考えて良さそうである。私の観察では、殆どの場合クサシギは用水路の浅瀬で、嘴を突っ込みながら餌探しをしている。それに対してイソシギが嘴を突っ込んでいる姿は見たことがない。そんな餌捕りの違いが、食べている内容の違いを反映していることがわかる。

イソシギとクサシギを並べて比較すると、初心者にとってはどちらも同じように見えてしまうが、その生態は全く違っている。両者を区別する時に、そうした食性や行動の仕方などを比べて考えれば区別できる可能性がある。その位このイソシギとクサシギは似ていて、区別できなかいシギなのである。

(チドリ目 シギ科)  

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