チョウゲンボウ

動物編

ワシ、タカ、ハヤブサの猛禽類に興味はあったがその区別や習性については分からなかった。テレビでスズメバチの巣を狙ってハチたちの猛攻に耐えながらハチの子を食べるハチクマや、魚を専門に捕るミサゴの映像を見たことはあったが、どれがどれやら分からないままでいた。何となくトビは小さい頃から見かけていても詳しい特徴は分からずじまいだった。いつかワシ、タカ、ハヤブサ等の違いや習性を勉強出来たらと思っていた。天童を離れる頃になってハヤブサの仲間のチョウゲンボウを知るようになった。蟹江に帰って来てからハヤブサ、オオタカ、ミサゴ、チュウヒ、ノスリ、チョウゲンボウを見かけるようになった。それらの違いも少しずつ分かりかけているところである。

チョウゲンボウの飛翔

 私はこれまで実際にタカが狩りをしている場面を一度だけ見たことがある。今は東日本大震災の東京電力の第一原子力発電所の放射能漏れでまだ帰宅困難地域になっている。浪江町から双葉町への国道六号線沿いの崖の上空で、タカがハトを狩っていた。タカの大きさはハトと較べて大きいとは思えない程だったが、空中でハトに挑みかかっていた。ハトの羽が何枚か空中に舞っていた。その狩りの周りでカラスが二羽、ギャーギャーと声を上げながら飛び交っていたのを今でも鮮明に覚えている。今になって考えるとハヤブサかオオタカではなかったかと思う。

 猛禽類のうち私はワシを直接見たことはない。見かけているのはタカとハヤブサの仲間である。「日本の野鳥」(山と渓谷社)を見ると、タカとハヤブサの仲間は別々のものに分けられている。タカ目とハヤブサ目の違いは、翼の幅が広く翼の先の羽根(翼先分離)が一枚一枚分かれているのがタカ目で、翼の幅が狭く先が尖って、羽根が分かれて見えないのがハヤブサ目である。また猛禽類の特徴としてホバリングと滑空すること、そして風を受けて高く上昇していくことは共通であるように思う。

 畑の上でホバリングする

 天童を離れる年の三月中旬になって、同僚の松田知明さんが天童市の成生(なりゅう)地区の薬師神社の境内にチョウゲンボウがいると教えてくれた。以前にもその話をしたと言うのだが、私にはその記憶は全くなかった。それを聞いて翌日に薬師神社に行ってみた。ハト位の大きさのチョウゲンボウが、けやきの大木の大小のいくつかの洞(ほら)を出入りしていた。私はてっきり二羽だけだろうと考えていたが、五六羽が住んでいてその写真を撮った。三月なのでけやきは葉がないので鳥たちをはっきりとらえることができた。私は梢に止まっている姿や飛んでいる姿を撮ることが出来て満足して帰った。

 退職した翌日の四月一日にまた写真を撮りに行った。年配の男性が組み立て用の椅子に座り望遠レンズを三脚で固定して、大きなけやきの洞(ほら)にレンズを向けたままじっとしていた。シャッターは線状のものでひたすら待っていた。その男性と話したら五~六年前から写真を撮りに来ている。洞から飛び立つ瞬間を撮りたいのだと話した。「今の時期は産卵時期ではなく交尾の時期で梢のあちこちで交尾している。まだ巣作りしておらず番いにはなっていない。」と話してくれた。その話の途中で洞から出て行ったチョウゲンボウが、ネズミを掴んで戻ってきたのを見かけた。このまだ寒い時期にネズミが捕れるのかと感心したものである。

 そのチョウゲンボウの写真を撮る前に、上空を大きなタカが飛んでいた。私はその頃タカと言えばトビだとしか思い至らず、馬鹿の一つ覚えでそのタカをトビと考えていた。その年配の男性に「あそこにトビが飛んでいますね。」と話しかけると、その男性は「トビではない。」と即座に答えた。その時どうしてそんなことが瞬時に分かるのだろうと思った。今振り返ってみると羽の幅や尾羽の形から判断していたのだろう。きっとノスリではなかったかと思っている。

五月になってけやきの葉が茂るようになり、その洞から顔を出し飛び立つ瞬間を夢中でシャッターを切ったら、洞から飛びだした姿を撮ることが出来た。その写真は私の気に入った写真の一枚になっている。

 天童成生の薬師神社のチョウゲンボウ

この天童の成生の薬師神社のチョウゲンボウは鳥愛好家には有名な場所らしい。というのは一年中いることと、それを地域の人が守っていることが原因らしい。松田さんの話では神社の改築等もチョウゲンボウの生態に支障がない時期に行ったという。上述の「日本の野鳥」のチョウゲンボウの項目に載っている写真の撮影場所が天童市と記されており、これは薬師神社のチョウゲンボウの写真だと思われる。遠く東京からも写真を撮りに来ると聞いたことがあるので、有名なチョウゲンボウの生息地として知られているのだろう。

チョウゲンボウは別の点からも意味がある鳥である。というのは、私の教え子でゼミ長だった佐藤元姿さんは書を嗜むのだが、書の最後につける雅号を私に考えて欲しいと依頼された。その際、号に自分の名前の一字を入れたいという条件も加えたのだった。私は雅号についても書道の世界についても碌に判らず、それでも彼に良い雅号をつけられたらと考えて車に乗って運転しながら思案した。

私は小さい時から野生の動植物に親しみを感じるような育ち方をしていたから、元姿さんの元とハヤブサの仲間の「ちょうげんぼう」が妙に繋がってきた。「ちょうげんぼう」は小型の猛禽類のハヤブサの仲間で、ネズミ、小型の鳥、カエル、ミミズ等を狩って生活する鳥である。その姿は一見すると可愛いけれどもハヤブサの持つ鋭さを持っている。私はこの「ちょうげんぼう」を「超元峯」として雅号にしたら良いのではないかと考えるようになった。学生時代に彼と話し合った時に、今の自分を反省してより質の高い世界に向かう努力をすべきだということもあったから、「超元峯」とは今ある大きな森や峰々を超えて、新たな世界に到達すべきだという意味合いを込めての雅号なのである。換言すれば「ちょうげんぼう」のような鋭い眼差しで世界を見続けながら、内省的に自分に厳しくあれという二つの意味合いが含まれた雅号なのである。

 カラスやノスリを威嚇するチョウゲンボウ

私が贈った「超元峯」は三文字であり、どうも書道の世界では雅号は二文字なのが一般的らしい。そこで彼はその雅号を「元峯」と記しているとのことである。先日彼と話した折に、書にも篆書、隷書、楷書の他に自由な発想に基づく遊び文字の類もあり、そうした作品には「超元峯」と記していると話してくれた。書道の世界も、ある形や条件の中に創造性や思いを含める世界と、その枠を大胆に外していく世界があるようである。自分の世界の一応の区分けに、彼はこうした雅号の使い分けをしているのだが、彼の創造の世界がもっと奥深くなってくれば、その号の区別もいつしか意味のないものになっていく可能性もある。

 佐藤元姿さんに薬師神社のチョウゲンボウの話をしたら、撮った写真をぜひ欲しいと言われ何枚かCDに焼いてあげた。その写真を大きく引き伸ばして飾ると話してくれた。

 蟹江に戻ってからも、このチョウゲンボウを岐阜県海津市の畑の電柱の電線上でも見かけたし、日光川の日光大橋の近くの上空で飛翔している姿や電柱の上に止まっている姿も見かけた。蟹江周辺にもチョウゲンボウが住んでいるらしい。木曽三川の西には養老山地があり、そこから遠征して来ているのかも知れないなとも考えているところである。

                              

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