モツゴ

動物編

モツゴという名前は後になってから分かった名前である。住んでいた社宅は名古屋城の西北に位置し田舎と街の境目といえる所だった。その当時はトンボ捕り、魚捕りや魚釣りに夢中だったが、魚捕りでタモ網を使って魚を掬う以外には、練り餌を使ったフナ釣りや赤虫を使ったモロコ釣りをしていた。そのモロコは私たち子どもにとってフナよりは群れていて簡単に釣れる魚だった。浮きがぴくぴくすると横に引っ掛けるようにして釣った。

 モツゴ

 社宅から北の庄内川の堤防の方に行くと隣の名塚中学があり、その北側の工場の隣に大きな池があった。そこで大人たちがフナ釣りをしていたが、私たちは主にそれよりは小さいモロコ釣りをしていた。そこまで自転車に乗って出かけていた。モロコはその池の表面でも見られ、その当時は沢山いたものである。

 大人の中には透明なガラス瓶でできた仕掛け(スイビン)を使ってモロコを捕っていた。瓶の中に練り餌を入れ、片方には布で蓋にするように紐で縛って、もう片方は漏斗状になっている。小魚が漏斗の入り口から餌を取るために入ると、その漏斗が狭くなっているので魚たちは元に戻れない。そんな仕掛けを使ってモロコを捕っていた。そんな仕掛けは私たち子どもには羨ましかった。沢山捕れる訳ではないが、そんな漁法に対する憧れだったのかもしれない。他には庄内川でおじさんたちが投網を打っているのをよく見かけた。円を描くように広げて投網を打つと、その下にハヤやフナが網にかかってくる。大人になったら投網をやってみたいと思ったものである。

 私の母の実家は東京西品川にあり、戸越銀座の南側の坂道を上がった高台にある三軒長屋の真中の家である。今の豊町の日本音楽学校がある近くである。その辺りは下町で路地も狭く裏の家の中が見えてしまう程密集している。プライバシーもないと同然で、隣や裏の家の家族関係や人間関係、家族の歴史について誰もが知っている地域である。私は小さい頃からその実家に連れていかれた。三歳頃は父が東京への出張で一か月位滞在することがあり、父は私を母の実家に連れて行ったものである。祖母にとって初孫だったからだろう。私は名古屋に帰りたくて父が帰って来るまで窓の桟越しに泣いていたのを今でも覚えている。

 それでも小学校に入ってから夏休みになると母と弟妹と一緒に品川の実家に行くようになった。近所の子どもたちとも会話するようになったが、名古屋と東京の文化の違いからかすぐには馴染むこことはできなかった。その当時東京の子たちはベーゴマで遊んでいたが、名古屋ではベーゴマではなく金属製のもっと大きなコマで遊んでいた。コマを回して瓶詰の金属製の蓋に乗せてそれで鬼ごっこをしたり、コマを遠くまで投げて回す技の競争をしていた。そんな遊びをしていたので、小さい樽の上のベーゴマ遊びは面白いと思うことはなかった。

 それでも近所の友だちに誘われて、実家から七~八分程離れた戸越公園にはよく遊びに出かけた。戸越公園は森に囲まれて街の中にしては立派な公園である。祖母や叔父からは三井様の庭園だったと聞かされていた。昔の金持ちの庭園だったんだと子ども心に思ったものである。

 そこでセミ捕りの他に大きな池があって魚釣りをした。私はその子たちに教えられてモロコ釣りをした。その子たちは釣り上げたモロコを「クチボソ」と呼んでいた。私はモロコとクチボソが同じものかどうか分からなくなっていた。

春の婚姻色になったモツゴ

 モツゴは昔から仙台近郊でも蟹江周辺でも捕れる魚である。体に黒っぽい側線が走っているので、モツゴだと思うようになった。私はこのモツゴとモロコとクチボソの違いが分からないままだった。調べてみたらモツゴがクチボソと言われていると記されていた。側線はオスとメスで出ていたりいなかったりするが、口が上向きで小さいからクチボソというとも記されていた。それに較べるとモロコ(タモロコ)はモツゴと共にコイ科の仲間で特徴も似ていると記されている。その違いは側線がモツゴは尾びれの所から眼や口元まで走っているが、モロコは鰓の所までだという。またモツゴは口が上口だがモロコはフナの口のようになっている。またモツゴには髭がないがモロコには髭があるという。最近も近くの用水路に魚捕りに出かけているが、モツゴなのかモロコなのかやはり判別できないでいる。

 この尾張の西部は木曽三川(木曽川、長良川、揖斐川)があり、川魚などが色々捕れる。長良川と揖斐川の間の岐阜県海津市には「お千代保(おちょぼ)稲荷」があり、そこの参道脇には川魚料理(ナマズ料理等)の他に、ハヤやモロコの佃煮を売る店がある。この近辺ではモロコが普通に捕れているのかも知れない。それとも琵琶湖周辺から恒常的に仕入れているのだろうか。上述のように一見するとモツゴとモロコは似ているので、場合によってはモツゴ(クチボソ)をモロコと称して売っている可能性もある。

 机の窓際の水槽にはモツゴ(クチボソ)と思われる魚が泳いでいる。じーっと見ているがモツゴだとなかなか同定できない。髭はなさそうだし側線が目の所まで来ているからきっとモツゴではないかと思うようになってきた。両者を知っている人が見たら瞬間にどちらかと同定できるのだろう。その特徴を瞬時に見分けられるようになりたいものである。(コイ目 コイ科 モツゴ属 モツゴ)

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