ミサゴ

動物編

タカの仲間は殆ど空中を飛んでいるものしか見たことはなかった。タカのハヤブサ、ノスリ、トビ、チョウゲンボウ、ミサゴ等の名前は知っているが、基本的にそれらを区別し同定することはまだ十分できていない。それでもワシ・タカ科のうち大きいものがワシで、それより小さいものをタカという位は知っていた。大きさが鳩くらいのタカもいるので、それまで考えていたタカのイメージからすると、思っていた程大きくないことに吃驚した。タカの仲間は猛禽類だから基本的に肉食である。だから目は鋭く嘴は曲がっていて獲物を引き裂くことができ、足は獲物を捕まえて運ぶために太く大きい筈である。

ミサゴ

 こうした猛禽類の特徴は大学の研究室の卒業論文で下級生の三根さんが行った幼児にワシの絵を描かせた実験から学んだものである。幼児にワシの絵を描かせると、ヒヨコのような可愛い絵を描いてしまう。その絵をワシらしい絵に変えるにはどうしたら良いか。そこで考えられるのはワシの特徴を一つずつ教えて、幼児に絵の変更を求める方法がある。もう一つはワシの生活と姿と形を(形と暮らし)を教える方法で、その結果として、絵の変化を促す方法である。この場合にはハクチョウと比較しながら、ワシの生活を紙芝居にして学ばせたのである。すると幼児たちは猛々しいワシの絵を描くようになった。前者の教え方は間違ったところを修正する教育であり、日本で通常行われている教育である。それに較べて後者の教え方は幼児の認識を形成したり改めるという認識の変化を促して、その結果としてワシの絵を変えるという教育方法である。本来の教育が目指すべき方法だと思われる。こうした実験結果を知っていたので猛禽類の特徴を私なりに理解することができるようになっていた。

 空中で飛んでいる鳥をタカの仲間かどうかを判断する手がかりは、ホバリングするかどうかだと考えるようになった。そんな目で見ると山沿いの里山、蟹江周辺の畑でもホバリングする鳥を見かけるようになった。ホバリングは私の観察ではトビはしないから、必ずしもタカの仲間はホバリングすると断定はできないが、トビはトビで空中を旋回しながら風を利用して上昇する。そんな手掛かりで同定することができる。それを利用して空中を飛んでいる鳥が、タカかどうか一瞬で分かるようになってきた。

 蟹江に戻って冬期は植物が枯れてしまうので、カモの仲間や鳥の写真を主に撮っている。先日蟹江から日光川、庄内川、新川の河口にある藤前干潟に行ってみた。

 少し横道にそれるが、ここは昭和三十四年の伊勢湾台風(一五号)の鍋田干拓地の近くで、高潮などで堤防が決壊して、五〇〇〇名を超える死者が出た場所の近辺である。当時西区の東芝社宅に住んでいた。台風が来るというのは脱日常で子ども心に何か冒険心を楽しむ機会になるように感じていた。土曜日だったが七時半過ぎから暴風雨が激しくなり屋内の壁土が剥がれ出し、畳の上には水溜りができガラス窓の硝子が内側に風でたわんでくるのを見て、冒険心どころでなく恐怖感に襲われるようになった。父が「雨戸を飛ばされないように押さえろ。」と叫んで、私が必死に押さえていたことを思い出す。

 狩った魚を掴んで飛翔(魚の頭が先頭になっている)

 何十年後に名取市の集中豪雨で国道が浸水し、信号近くの交差点でドアの上まで浸水している車を見て、伊勢湾台風の時の恐怖心を思い出した。恐怖心を体が覚えていたのである。水から避難するために車を道路脇の花壇に避難させていたが水が車内まで上がってくるのを覚悟した。バケツの水をひっくり返したような雨が永遠に続くのではないかと思わせる程の豪雨だったのである。

 伊勢湾台風の結果、名古屋市南部やその周辺の地域では水が浸水して多数の死者が出た。その四年後に私の家族が住むようになった蟹江では、鴨居辺りまで水が来たと言われている。塩水に侵された木が当時まだ枯れたまま残っていた。これから先、伊勢湾台風級の台風や東南海地震が来るかも知れない。宮城県沖地震、東日本大震災等の経験から、その時には「てんでこ」で逃げる積もりでいる。マニュアルによる避難だけでは命を落とすことがあるということを痛切に学んだからである。

 藤前干潟に行ったのは十二月中旬でかなり風が強かった。干潟といっても干潟部分は満潮だからか見当たらなかった。そこに多数のカルガモ、マガモとカワウがいたが、コガモやミコアイサ等は見かけなかった。鳥の観察をするなら付属の望遠レンズとそれを設置できるカメラが欲しいのだが、余裕がないので今のところオペラグラスで我慢して様子を見ている。カメラの望遠を最大にしながら写真を撮るが、遠方のカモ類を撮ると写真がぶれたりぼやけたりするので鮮明な写真を撮ることができない。

 狩った魚を啄む

 そんな強風の中で空中に何羽かの大きなタカが風に煽られながらもホバリングしていた。高い空中でホバリングしている。そのかなり高い上空から海面に突っ込んでいった。頭から突っ込んでいくように見えたが、獲物を足で掴んでいるのだから足が先だろう。タカは目がとても良く五キロ先の獲物が見えると本で読んだことがある。そんな上空から綺麗でない海の魚が見えるのかもしれない。私は魚を捕るタカだからミサゴに違いないと瞬時に思った。

昔国道六号線の浪江から双葉(東京電力第一原発の放射能漏れで、長く避難地域だった)へ向かう右側の近くの崖の上空で、タカがハトを狩っているのを見たのがタカの狩りを見た最初である。今回はそれに続いて二回目となる。飛び込んでいったミサゴの足に魚が捕まれている様子はなく、やはり失敗が多いのではないかと思った。こんな強風でも餌取りしなければならず、人間ばかりでなく生きることはどの動物も大変なんだなあと思ったものである。そんな空中を飛んでいるミサゴの写真を撮りたいと、カメラを連写に設定して待ち構えているのだが、望遠だと画面に中々入らずまた入ってもピントが合わずになかなか撮れなかった。

 数日後にまた藤前干潟に行ってみた。この日は天気も良く晴れていて穏やかな日だった。

空中でミサゴが飛んでいた。その干潟の海面に枯れ木の枝が立っている。その枝に大きな鳥が止まっていたので、カメラを望遠にして見たらミサゴだった。嘴で足元の獲物らしいものを食べていた。それが何だか分からなかったが狩った魚を食い千切って食べているのだろう。ちょうどこの枝先は獲物を食べるのに好都合の場所に違いない。望遠で見るとミサゴの体は白っぽかった。帰ってから写真をパソコンに取り込んでみたが、やはりぼんやりした写真だったがミサゴだった。何とかこのタカの種類を同定できたので単純なことだが嬉しかった。

 春先のオスとメスの出会い(?)

 このミサゴが止まっている枝の反対側に、黒い鳥が止まっていた。そちらに望遠レンズを向けてみたらカラスだった。カラスはじっとミサゴの方を見ながらじっとしている。きっとミサゴのおこぼれを頂戴するか、横取りしようと狙っているのだろう。こんな干潟の海面の木の枝にまで来てチャンスを窺っているのを見ると、カラスのしたたかさを感じない訳にはいかない。これも生きるためなのだろう。

 その後藤前干潟に通っていたら、ある時新川河口寄りの上空をミサゴが飛んでいた。一か所に留まってホバリングしていたが急降下して足から水中に飛び込んだ。しばらくするとそこから飛び立とうとした。しかし狩った獲物が大きすぎるのか、体が半分ほど水の中に入ったままで飛び立つことができそうになかった。それでも懸命に羽ばたいてやっと空中に飛び上がった。その足には大きな魚を掴んでいた。多分スズキではないかと思う。藤前干潟でミサゴの写真を撮っている人と話した時、干潮や満潮になる時に海からスズキが川に上って来るので、それをミサゴは待っているのだと話していた。一瞬で水中の大きな魚を捕まえらえるのは、ミサゴの足が前後二本ずつになっているからである。普通のタカは前が三本後ろが一本となっていてそれで獲物を掴む。ミサゴは二本ずつになっていることから魚を掴み易いのである。獲物を掴んで飛翔している時には、魚の頭が必ず前方になっている。観察しているとどのミサゴも捕まえた魚の頭を前にして飛んでいく。逆は見たことがない。そして干潟の枯れ木に飛んで行く途中で、その獲物を狙ってカモメがミサゴを追いかけていた。まとわりつくカモメを何とか振り切って飛んでいった。

 冬に集まってきたミサゴ

 その後日光川と善太川の河口が合流する場所の土手を歩いているうちに、二羽のミサゴがそこで生活していることが分かった。その二羽は上手く棲み分けでいるようで争っているのを見たことはない。一羽は日光川の方で狩りをして、その捕った獲物をモーターボートや漁船を係留している水面に立っている鉄棒や木の杭等の横木に止まって啄んでいる。別の一羽は合流点近くの川の真中の杭の上にいつもいて時々飛び立っていく。獲物を狩るのは善太川の河口付近である。このミサゴは藤前干潟のミサゴのように空高くというよりは、川の水面の少し上を飛びながら、獲物を探している。

 蟹江周辺の川には大きなコイが沢山いて、土手からもそれらのコイの姿を見ることができる程である。写真を撮っていて知り合ったおじさんは、大きいものでは八〇センチ位のものもいると話してくれた。それを聞いて私もそうだろうなと思った。その位コイが沢山いる川である。夕方になって善太川の上をミサゴが飛んでいた。すると途中で水面にぽちゃんと落ちたように見えたが、そこで大きなコイを掴んでいた。飛び上がろうとするがやはりすぐには飛び立てないで羽ばたいている。体の半分が水中に没してしまっている。それでも少し経つと大きなコイを掴んで飛び上がった。

 ここでは藤前干潟よりは容易にコイを捕ることができそうに思えた。ミサゴについては少しずつではあるがその習性も理解できるようになってきた。馴染みの相手という感じになって来たのでこれから先も観察していきたいと考えている。(タカ目 ミサゴ科 ミサゴ属 ミサゴ)

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