ハッカ その2

匂いがする植物のハーブの仲間にはシソ科の植物が多い。「シソ科の茎は四角い」からすぐ他の植物と区別できる。「ハッカ」のところで書いたが、これらのシソ科の花の付き方は色々ある。スペアミントと思われる種類は、茎の天辺に穂を出してそこで沢山の花を咲かせる。しかし、ハッカは茎から葉が出る部分の周りに小さい花を咲かせる。だから遠くから見ると、茎の葉の出るところに何層にも花が咲き、近くに行くと独特の香りがして風情を感じられる。これらの花は白だったり紫がかったりとバラエティがあり、楽しめる花である。

二ホンハッカ

 これらの植物を仕事を辞めて名古屋に帰ったら庭で育てたいと思い、その準備のために、アパートの近くの土手にあるスペアミントの茎をハサミで切りとった、またハッカも山元沼に行って根から採ろうとしたが大きな石があって、ほんの少ししか根がついていない状態だった。そこでスペアミントと同様に他のハッカの茎の部分をハサミで切って何本か持ち帰った。ベランダで買ってきたプランターに土を入れたものに、根がついているハッカを移植して水をかけておいた。ハッカの葉は、スペアミントに比べると葉が薄く持ち帰るまでにしなっとなっていたが、それでも数時間経つと葉が持ち直してきた。今までも野草を採ると車の中で萎れたようになっていても、コップに水を入れて挿しておくと持ち直した経験があり、野草はしぶといとか生命力が強いことは知っていた。ここでもその生命力を発揮して持ち直したのである。

 発根した茎

 ある本でハッカは生命力と繁殖力が強いので、他の植物の領域まで侵害するほどに増えると読んだことがあった。昔、知り合いがペパーミントを買って庭に植えておいたらどんどん根が広がって、ずいぶん増えたのを観察したことがあった。どんな植物でも、子孫を残すために戦略を立てて生き延びているが、このハッカの仲間には他にも驚いたことがある。

 茎を切ってコップに入れておいたハッカは、1週間しない内に下の茎の葉が出ていたところから、発根して白い根が出だした。その部分から根が少し出ていただけなのだが、その根が何本も出てくるうちに、その部分でないところからも発根し出した。数本のハッカの茎をコップに入れておいたが、どの茎からも生えてきた。それに較べると、スペアミントはハッカに比べると発根していなかったが、遅れて発根し出した。発根しなかったら、ホームセンターで発根剤を買おうかと思っていたが、そんな必要はなかったのである。2種類のミントを観察して、発根する前は水面から上にある葉のうち、下の方の葉は枯れ出していた。この植物固体の存在が危うくなると、植物生理が変化して発根させるのではないかと推測している。

 発根させてから育てた二ホンハッカ

 スペアミントも発根してから鉢に植えて育てているが、水遣りをしているにも拘らず、茎の下の方の葉が枯れてきた。茎の先端部や小さい葉が出ていた場所にも小さい葉が出だした。新たな発根では土中の水分や栄養が十分取れないからか、それとも植物生理が変化して、植物個体そのものの再生が起こっているからか分からないが、枯れるという状態を乗り越えるために、葉の一部を枯らしているようなのである。

 奥羽線の蔵王駅近くにある県立聾学校の近くにメダカがいるという情報を、数年前からグランド印刷の上浦さんから手に入れていた。そこで、一度いるかどうか調べようと思ってタモ網とプラスチック容器を持って出かけたのであるが、残念ながらメダカがいるような場所はなく、田んぼ脇の側溝は流れが速くてメダカが住める場所ではないところであった。メダカは水の流れが速いと住めないのである。多少水が淀んでいる畦の小川とか水溜まりに住んでいる。仕方なくモンシロチョウやモンキチョウの写真や植物の写真を撮っていたら、その道路の端に、良い香りのする植物があった。すぐに植物の茎を触ってみたら、四角だったのでシソ科の植物だと分かった。そこで、多分これもミントの仲間だと思ったので4本の茎をハサミで切って、ペットボトルに水を入れて挿して車のドアの所において家まで持って帰った。採集した場所にはかなりの株があったので野生種だと思われるが、どこれは西洋ハッカではないかと思う。前のミントと同じようにコップに水を入れて置いているが葉が何枚もあり茎がしっかりしたものは、1週間経っても葉が出ていたところは発根していないが、茎が細く下の方の葉が枯れだしているものは、発根が始まっている。やはりミントの仲間は生命力が高くしぶとい植物なのだろう。太い茎の西洋ハッカも少し葉が枯れてきたら、きっと発根するのではないかと今観察しているところである。

 ハッカにとりついたアオムシ

 ところで、ハッカとスペアミントの発根の話とは別にして、これらの挿し木に夢中になっていたとき、葉に穴が開いているものがあった。よく観察してみたら黒い糞だと思われるものが葉の表面にあるではないか。偶然採ってきた数本の2種類の植物に、まさか芋虫などの幼虫がいようとは考えてもいなかった。スペアミントの方を見ると、薄緑色の細い芋虫がいたので取り除いた。またハッカの方にも葉が食い千切られているものがあり、それにも緑色が濃い少し太い芋虫がいた。見つけた幼虫を取り除いたと思っていたら、その後数匹ずつ見つけてこれらも取り除くことになった。どんな蝶の幼虫かは分からないが、こうしたハッカの匂いは、本来植物が出す「近寄るなサイン」に違いないが、こうした匂いだけに引き寄せられる特別の動物がいる例としてみると、適応進化の結果ではないかと思われる。こうして私のベランダの世界での事件を見ると、ハッカは全て食われる前に葉を出そうとし、それを芋虫がどんどん食べて育つという生死をめぐる鬩ぎあい(せめぎあい)の世界があった。またハッカに取りついた芋虫を放り投げたら、ベランダの前にある倉庫の屋根に落ちて尺取虫のように這っていたのだが、雀が来て咥えて持っていってしまった。 

 人間だけが、こうした動物や植物との生態系から外れた存在なのかもしれないと、強く感じたことである。

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