シオカラトンボ

動物編

シオカラトンボはトンボに馴染むきっかけとなったトンボである。天童の原崎沼や山元沼でも沼の周りを飛んでいたり、地面や枯れ木の先に止まっているのをよく見かけた。蟹江に戻ってからも川沿いや草叢で飛んでいるトンボの殆どはシオカラトンボである。誰にとっても馴染み深いトンボではなかろうか。

  シオカラトンボ(左2つ オス 右1つ メス)

 シオカラトンボのメスをムギワラトンボと呼んでいた。小さい頃はこのトンボを別々の二種類のトンボだと思っていた。後になってシオカラトンボのメスであることが分かった。このトンボはタモ網で簡単に捕ることができるし、縄張りがあるのか飛び立ってもまた同じ場所に戻ってくる習性があるようだ。

 小学生の頃にはそのメスであるムギワラトンボを捕まえて、黒の木綿糸を胸で留めて、長さ六〇~七〇センチの木綿糸の端を一メートル位の竹に結んで、オスのシオカラトンボの近くで飛ばせてみると、近づいてきて繋がって連れて行こうとした。そんな遊びをしたものだった。でも糸で結んでオスを捕る方法ではギンヤンマ捕りの醍醐味にはかなわないが、それでもオスのシオカラトンボを捕る方法として面白かったのである。

 最近のシオカラトンボをみるとメスのムギワラトンボのムギワラ色がくすんでいるように思えてならない。ムギワラトンボには違いないのだが、オスとメスの中間色のような雰囲気である。それでも連結して輪になったりしているからやっぱりメスで、オスにはちゃんとメスと判断できるのだろう。私は黄色いムギワラトンボのイメージが強烈なので、そのように思うだけなのだろうか。

先日も桑名の妹から、孫と公園で遊んでいたらこんなトンボを捕ったとメールの写真が送られてきた。このトンボはどんな名前なのかと尋ねられたのである。そのトンボはムギワラトンボで昔から知っているあの典型的なムギワラ色のトンボだった。まだこうしたムギワラトンボがいるのを知ってほっとした気持ちになった。

 「とんぼのめがね」という童謡の歌詞に「とんぼのめがねは みずいろめがね あおいおそらをとんだから とんだから」(作詞 額賀誠志 作曲 平井康二郎)があるが、そのトンボはシオカラトンボではないかと言われている。シオカラトンボの中には成熟して黒い複眼になっているものもあるが暗い水色のトンボもあり、そのことが歌詞になった可能性がある。

  交尾態

 天童の原崎沼で写真を撮っている時に、シオカラトンボのメスであるムギワラトンボが一匹尻尾で水面を叩いて産卵していた。私はこれまでオスのシオカラトンボがメスのムギワラトンボと連結しているのを何度も見てきたが、繋がったまま産卵しているのを見たことはなかった。シオカラトンボのメス(ムギワラトンボ)が産卵している時に、オスのシオカラトンボがその上空で警戒している場面を見た。小さい頃からギンヤンマやイトトンボが連結した状態で産卵している様子をずーっと見てきたし、赤トンボでも繋がって飛んでいる。そうした光景からどのトンボも連結したまま水辺で産卵すると思い込んでいたのである。

 警護産卵(オスが上空から、メスの産卵を見守る)

 八月に関西線永和駅北側にある沼にギンヤンマやコフキトンボの写真を撮りに行った。その沼でシオカラトンボのメスのムギワラトンボが水面を尻尾を叩きながら産卵していた。ここでも上空をオスが飛びながら警固していた。これまでシオカラトンボが繋がって輪になっている写真を何回も撮ってきた。そんなことから繋がったまま産卵すると思い込んでいたのだった。連結してオスがメスを受精させることと、メスが産卵するという異なる二段階のプロセスを経て産卵していると考えるようになった。

 ギンヤンマのように繋がったまま産卵させるのとシオカラトンボのように水面を叩いて産卵させるのではどんな違いがあるのだろうか。そんな疑問を感じていたら、「トンボの不思議」(新井裕 どうぶつ社)には面白い文章が乗っていた。少し長くなるが引用してみよう。「交尾が済むと、いよいよ産卵である。~中略~ 受精は産卵の直前に行われるので、オスはメスが卵を産むまで安心できない。そこで、種類によってはオスが産卵に立ち会って、メスが浮気をしないよう監視するものがある。メスを監視する方法としては二つの方法がある。その一つは、交尾後、おつながりの状態に戻って、メスと連れ立って卵を産むという方法で、イトトンボやアカトンボの仲間が多く採用している。もう一つは、交尾を済ますと離れてしまうが、オスが産卵中のメスのそばにつきまとい、ほかのオスに奪われないよう見張るものがある。この方法は縄張りを作る習性がある種類が採用しており、『警護産卵』と呼ばれる。

おつながり産卵』と『警護産卵』のどちらが有利だろうか。メスの浮気を防ぐという面では、おつながり産卵に軍配が上がるようで、私はいまだかつて、おつながり中のメスが、他のオスに横取りされた例を見たことはない。オスはメスを掴まえているのだから、メスを離さない限り安心だ。だが、その反面、もしそこに気に入った別のメスがやってきても、オスは二またをかけられないことになる。メスを捉まえているということは、すなわちメスにつながれているということでもあるのだ。それに対し、警固産卵の場合には、別のオスがメスを横取りしようと近づいてくれば、追い払い、新たにメスがやって来ればそのメスとも交尾が可能である。交尾後には二匹のメスの産卵を見張り、両手に花となる。だが、いつも上手くいくとは限らない。オスはメスから離れて見張っているので、一瞬の隙をつかれて、他のオスにメスを横取りされる危険がある。」と述べられている。

 オスのせめぎあい

 小さい時からイトトンボやギンヤンマの産卵方法をずーっと見てきたせいなのか、トンボたちは繋がって産卵する方法を採用していると思い込んでいた。シオカラトンボも連結して輪になっていることから、そういう産卵が当然だと考えていたのである。しかし実態は違っていた。私たちは一事が万事というように考えてしまう習性があるのだろう。何十年も経ってこんなことがやっと分かったのである。

 また動物の種の保存に関して、オスは自分の子孫を増やしたい、精子をばら撒きたいという戦略を採ると言われているが、シオカラトンボも例外ではないということも知ることができた。子孫をつなぐ作業はとても大変なことだと感じたものである。(トンボ目 トンボ科 シオカラトンボ属 シオカラトンボ)

                             

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