ツリフネソウ

植物編

ツリフネソウに初めて出会ったのは10年以上前になるが、福島県の浪江から山沿いの県道(35号線)でいわき市に向かう、富岡町の福島第一原発の先の木戸川を越えた楢葉町の山沿いであった。夏から秋にかけて少し谷川から水が流れて、少しじとじとしたところであった。それはいわき方面に行く道路の右側のすぐ傍だった。私自身はそれが目的でなく、左の脇道を入るとホトトギスが生えているのを知っていたので、もしあれば数本採っていこうと考えていたのである。

ツリフネソウ

 その時分はホトトギスの方に関心があり、ツリフネソウには余り興味はなかった。でもその花の形が、口を開いてそれがだんだん縮まってお尻がくるっと巻いており、とても変わった花で印象には残る花である。その花の色は赤紫と白が入っているなあ位にしか考えたことがなかった。

その花は茎から出た柄からふぐ提灯か船を釣り下げたようにぶら下がって咲くので、一度見れば忘れられない。このくるっと丸まっている部分は距(きょ)という尻尾だが、そこに通常は蜜が貯められている。有性生殖をする虫媒花なので、虫などを呼ぶための仕組みである。北嶋廣敏の「植物は動けないけど強い」には、この渦巻きの部分の蜜を吸いにくるトラマルハナバチやナガマルハナバチなどは花の袋に潜り込んで蜜を吸うので受粉を助けるのだが、クマバチやオオマルハナバチは渦巻き状の距(きょ)の部分に穴を空けて、ちゃっかり蜜を吸うと載っていた。受粉を促すために蜜を作っているのに、それが効果を示さないことがあるという訳である。穴を空けるから悪い蜂だとは言えないが、共生しうる蜂ばかりがいるわけではないことも事実であろう。受粉できて種ができた実は、ホウセンカのようにはじけて跳ぶようである。

天童では、若松観音脇の谷川はコンクリートの側溝になっているが、水が少ない時には川が流れない所は土砂が溜まって雑草が繁茂している。その中にツリフネソウが生えて、その時期になるとたくさん咲いている。その数はかなりの量にのぼる。他にもその近辺の山沿いに行ってもよく見かけるが、決まってその近くは、水はけが悪かったり水辺であったりでこうした環境を好むことが分かる。

 キツリフネ

同じツリフネでも黄色い色をしたツリフネがあり、キツリフネである。ツリフネソウに比べると見かける頻度は少なく、見つけるとラッキーだと感じる存在である。花の形はツリフネソウと同じであり、黄色だから見ると目立つ存在となっている。10月初旬に山形の山沿いの道を歩いていたら、花が二つ咲いているのに出会った。そこでデジタルカメラで撮ったのだが、腕が悪いのかピントが合わずうまく撮れなかった。二十枚程撮って後でパソコンで見たら、二枚位だけピントが合ったものがあった。この花は、確かに葉の下に茎から柄を出して釣り下がっている感じである。

キツリフネはツリフネソウのように、尻尾つまり距(きょ)が丸まっておらずとんがっており、その距に蜜があるのだろう。同じ仲間でありながらこんな違いが見られる。

その後、宮城県の岩沼市から村田町に抜ける山道を車で走っていたら、瞬間的に黄色い花を見かけたので止まって確かめに行ったら、そこにたくさんのキツリフネが咲いていた。そこに来る前に田圃がある谷川が流れている土手を散策していたら、ツリフネソウが生えていて写真を撮ったばかりである。そのすぐ後にキツリフネを見たのだからとても嬉しかった。そこで写真を撮ったのだが面白いことに出くわした。キツリフネの茎の節々に、瘤があったのである。ミズナやムカゴイラクサのむかごのことで気にしていたせいか、これもキツリフネ特有の瘤かなと思った。ミズナやムカゴイラクサのむかごは形が一様だったが、この瘤は大きさが同じでなく植物特有の瘤ではなさそうだと感じた。

 白色化(脱色化)したツリフネソウ

そこで調べてみたら、これはキツリフネ特有の瘤ではなくて、やはり虫こぶだったのである。キツリフネタマバエによってできる瘤で、緑だったり茶色だったりすると書いてあった。その周辺のキツリフネの殆どは、この瘤があってキツリフネを好むハエの親が産卵しまくったと考えられる。ついでに調べたら、ツリフネソウにも虫瘤ができるようである。それはツリフネソウコブアブラムシによるもので、葉肉が膨らんで赤や黄色になると書いてあった。植物の世界も進化が進んでいくうちに、ある動物同士が共生したり、特定の植物に特定の昆虫が取りついたりしてのせめぎ合いがあるのだなと感心したものである。

ところで偶然にホウセンカを調べていたら、ホウセンカはツリフネソウ科に属する花であることを知った。上述のようにツリフネソウはホウセンカのように種を飛ばすと書いたが、同じ仲間だったことを後で知ったのである。同じ仲間なら同じ種の散布をすることも頷けよう。

赤いホウセンカは、女の子がその色で爪を染めることがあるらしい。それもすぐ落ちるとは限らないようである。私は加藤登紀子の「赤い鳳仙花」の歌を車の中で、爪を染めることがあるのだと知っていた。ついでに東日本大震災で被害にもあったので、彼女の「生きてりゃいいのさ」の歌詞がある曲を聴きながら、車を走らせていたことを思い出した。

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