ゴイサギ

仙台の知人宅は敷地の広さが六〇〇坪もあって、建物と庭以外は竹林も含めてそのまま放置されている。敷地内は雑草だらけで野鳥たちにとってはサンクチャリになっている。その周りも塀に囲まれていて外部からは見えないので、野鳥たちにとって安心安全な場所と言えるだろう。

冬になると主人が餌台に餌を入れてやるのと竹林が隠れたり巣作りをするのに好都合だからか、毎年沢山の野鳥がやって来る。その種類はカラス、キジバト、スズメ、カワラヒワ、メジロ、シメ、シジュウカラ、ヒヨドリ、ムクドリ、アオジ、ウグイス、オナガ、ツグミである。オナガは旅の途中に寄るらしくいつも見かける訳ではない。そんなサンクチャリのような敷地の竹林の中にある時から大型の鳥が何羽か住みつくようになった。昼間はひっそりと過ごしているが時々動いたり鳴いたりしているのでその存在は確認できていた。

ゴイサギ(成鳥)

その知人宅の脇には用水路があり、その頃から夜になると、街灯の光の下で用水路の川面をじっと見つめている鳥がいることに気づいた。その用水路は浅くその鳥はそこに佇みながらじっと水面を見つめている。そうしたことが何日も何日も続いた。私はそれまで用水路の川面をじっと見つめる大型の鳥は見たことがなかった。なぜか瞬間的にクイナではないかと思った。クイナはこれまで見たことはなく今ここにいる鳥がクイナだったらと思うと心が弾んだものである。

そこにいた鳥は知人宅の敷地にいた鳥だった。それがどんな名前の鳥かは分からなかった。その用水路に佇んでいた鳥は二年程そこで餌を捕っていたが、その後は見かけなくなってしまった。知人宅の敷地には相変わらず大形の鳥が住んでいたが、夕方になると市街地を越えて田園地帯に飛んで行っているのではないかと思われた。そんなことが何年か続いた。その間に姿をはっきりと見届けたので鳥類図鑑で調べてみたらゴイサギで小魚やカエルなどを主食にしていると記されていた。

蟹江に住むようになる前には一年に二度程帰省していた。帰省した折には周辺の野草や鳥やトンボ等の写真を撮っていた。そんな時東名阪自動車道の蟹江インター付近の木々に、沢山の鳥が巣をかけているのを見かけた。木それぞれに一つの巣ではなく多くの数の巣がかかっている。その巣にいる鳥を見た瞬間ゴイサギだと分かった。高速道路の脇の一般道との間の何本かの木にかなりの数の巣がかけられている。その巣にはゴイサギの親とヒナがいるのが良く見えた。ここはゴイサギの営巣地であるコロニーで他にシラサギの巣もあり、ゴイサギとシラサギの巣が混在していた。

  ゴイサギの休憩と水浴び

東名阪自動車道を走って蟹江インターに近づくと「鳥注意」の標識が見える。この周辺に頻繁にゴイサギやシラサギが飛んでいるので、そのための注意である。昨年になって高速道路と一般道の間にあった木々が伐採されて、それまでの営巣地がなくなってしまった。そこで彼らはどこに行ったのかと疑問に思っていた。

野草の写真を撮りに、自転車で自動車道の反対側の裏道に出かけた。東北では余り見かけなかったイシミカワが金網にとりついて実がなっていたのを知っていたからである。まだ青色の実になっていなかったが、写真を撮り出したら近くでゴソゴソという音と動物の糞の臭いがした。上を見るとゴイサギの巣があり子育てしていた。高速道路と一般道の間の木々を伐採した結果、彼らは高速道路の反対側の木々に移動しただけだった。蟹江インターの近辺では今でもゴイサギやシラサギが飛び回っている。

その翌年の六月になってとても暑い日が何日も続いた。蟹江インターの北側にある田んぼでも田植えが終わって水が張られていた。それらの田んぼは田植え後間もないのでイネが活着していない時期だった。

山形では五月の連休頃に田植えをするが、蟹江周辺では六月になって田植えをする。一か月位遅いのではないかと思う。山形では植えている品種は「はえぬき」「ど真ん中」の他に最新品種で特等米の「つや姫」だが、写真撮りをしていて知り合った農家の人に尋ねると蟹江周辺では「あいちのかおり」が多いようである。特等米ではないが収穫量は四八〇キロ位との話だった。

田植えをしたばかりの田んぼに、蟹江インターに住みついているゴイサギやシラサギが降り立って水浴びをしていた。六月の陽射しの強さから巣の中はうだるような暑さだと思われ水浴びしたくなる気持ちは良く分かる。田植え後間もないのでイネが活着しておらず水浴びした場所のイネは倒れていた。農家の人たちからすると近くにあるゴイサギのコロニーは迷惑なのだろうと思う。不思議なことに夏を過ぎて秋になったら、ゴイサギやシラサギに水浴びされた場所でも稲穂が垂れていたので吃驚してしまった。農家が植え直したかそれとも倒れたイネが自力で立ち上がって根を活着させてイネが育ったのだろうか。

このダイサギやシラサギのコロニーが高速道路のインター付近にあることには理由がある。(シラサギの項で記したので参照されたい)

 ゴイサギ幼鳥(ホシゴイ)

その後ゴイサギは余り見かけなくなってしまった。それでも遠くをゴイサギの若鳥が群れで飛んでいることがある。佐屋川の有料の釣場付近を飛んでいるのを見かけたが、若鳥たちはカラスに追いかけられ突かれていた。逃げ惑っていた数羽は土手に何とか降り立ったが全く反撃出来なかった。

「日本の野鳥」(叶内拓哉 安部直哉 上田秀雄 山と渓谷社)のゴイサギの項目には「留鳥。東北地方以北では夏鳥。環境は湖沼、池、河川、海岸など。行動は平地から丘陵地の林にコロニーをつくって繁殖する。日中に採食するものもあるが、ふつう夕方や早朝に主に魚類をとり、その他ザリガニやカエルなどもとる。獲物が近づくのをじっと待ち伏せて、素早く嘴でとらえる。非繁殖期にねぐらへ帰るのは早朝。」と記されている。 夜行性の傾向が強いことは私の経験とも一致している。また日光川のウオーターパークの沼の水辺に、夕方ゴイサギの幼鳥が何日も水面をじっと動かずに見つめていたことを思い出した。魚かスジエビを狙っていたのだろう。(ペリカン目 サギ科 ゴイサギ属 ゴ

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