ノブドウ

植物編

ノブドウという名前は後から知ったのだが、天童の丘を歩いていたり山に入る脇道の周辺にブドウのような植物があるのに気がついていた。

 その果実は、色が白だったり青だったり赤紫だったりと多彩で、しかもそれがブドウよりは少し小さい実であること、それが低い木の上から垂れ下がっていたり、コンクリートの道路に這っていたり、道端の低い植物の上に絡んだりと多彩な姿形でに存在している。天童周辺ではどこでも見られる普通の蔓性の植物である。花といえば小さい時から知っているヤブガラシのような風情の花であり、それがコンクリートの道路に蔓を伸ばして咲いている。その茎の根元の方に小さい白い果実を実らせているのも普通見られる光景である。このノブドウの実の色が素晴らしく奇麗で、白や青や赤紫の色がこれが自然の色かと思うほど魅力に見えるのである。

ノブドウの多様な色の実

 日本画などの展覧会で、こうしたノブドウの絵が描かれているのを見たことがある。描かれている実の色の変化、つまり色の鮮やかさと微妙な色合いが画家の創作意欲を掻き立てるのではあるまいか。何故かその気持ちが分かる気分になるのがこのノブドウである。

 このノブドウと聞いたらなぜか宮沢賢治を思い出した。その理由は何故かすぐにはわからなかった。よく考えてみたら何十年か前に読んだ「メクラブドウと虹」に思い至ったのである。宮沢賢治は盛岡農林学校を出ているからか、植物に対する造詣が深く、この小説にもオオバコ、アカツメクサなどが出てくる。この辺りでは周りに見られる普通の植物であるが、彼の小説には必ずと言って良いほど、周りの植物の世界の風景が垣間見られる。そんなことからメクラブドウという題名の小説も自然に出てきたのではないかと思う。

私自身はノブドウをヤマブドウとずーっと思い込んでいたので、メクラブドウとは何か分からなかった。岩手や青森ではこのノブドウをメクラブドウと言っている。その謂れ(いわれ)はこのブドウの汁が目に入ると盲(めくら)になるという言い伝えによることからである。

 ノブドウの花と若い実

 このノブドウはブドウ科ノブドウ属に属するのだが、ヤマブドウとは異なり食べることはできず不味いらしい。たびたびこのノブドウを写真に撮っているが、その実の大きさが大きかったり小さかったりと異なるばかりでなく、その形が歪(いびつ)なものがある。どうしてそんなことが起こるのか気になっていたが、調べてみるとブドウタマバエとかブドウガリバチの幼虫が寄生して虫こぶを作ることから、歪(いびつ)になるらしい。どの実も同じように歪(いびつ)かというとそういう訳ではないが、でもかなりの率で歪(いびつ)になっている。これらの昆虫の幼虫が寄生しても、でもその実の中の種には影響はないらしい。この昆虫の幼虫が寄生することと、ノブドウの色の変化とが関係すると思われているが、どうもそれとは関係がないらしい。もしかあるとすれば幼虫が排泄する糞から出る化学物質が、ノブドウの色を合成する物質と化学反応を起こして色の変化が起こる可能性があるとは思うが、そこまでノブドウの色を変化させる必然性があるかどうかは分からない。それにしても寄生なのか共生なのか微妙なハエや蜂とノブドウの関係であるものだと驚嘆するばかりである。

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