サトウキビ その2

植物編

サトウキビの写真を撮るために、四国に出かけた。そこで2種類のサトウキビの写真といくつかの情報を手にすることができた。

高知県の四万十市近くの黒潮町では、黒糖を採るためのサトウキビの写真と、それを栽培している人から、話を聞くことができた。1週間ほど前に台風11号(8月9日頃)が通りサトウキビの葉や茎が倒れて、それを支える横木を畝(うね)全体に通して倒れないようにしていた。その人の話では、収穫時期は11月頃なので、まだ茎の太さは半分位であること、この地域では20軒位の農家が栽培していて、約5000トンの収穫量があり、それを集めて潰して煮詰めて黒砂糖を取り出しているとのことであった。黒砂糖にする前のものを糖蜜として、一部販売しているのだとも話してくれた。

   黒街道(サトウキビの品種)

このサトウキビは「黒海道(くろかいどう)」という品種で、極早生の糖度が高く品質が良いもので、黒砂糖専用のものらしい。白砂糖にするのかと尋ねたとき、そうしないと答えた。このサトウキビ畑(15m四方)には農林20号という品種も植えてあると話してくれたが、私には同じようにしか見えず区別できなかった。後で調べてみると、サトウキビには、倒伏やサトウキビモザイク病、葉焼け病などがあって、品種改良などが行われていることがわかった。

砂糖を取った残り滓は肥料にしており、それを植えこむと果物や野菜の糖度が一度位高くなること、何層にも植え込むと雑草が生えないと話してくれた。サトウキビの雑草対策も大変な課題で、植えこむことが解決方法の一つになっているようだった。

サトウキビは多年草だから、そこに植えておけば翌年も同様に生えてくるのかと尋ねると、サトウキビは竹のように節があり、その節の部分から新しい芽が生えてくる。その節を春先に地中に埋めておくと、新しい芽が出てくるとの話であった。黒潮町での栽培は平成6年からで20年位経つと話してくれた。

翌日に東かがわ市に行き、和三盆のサトウキビ(竹糖)の写真を撮った。このサトウキビは和菓子に使われており、江戸時代から栽培されているのを知っていたので、現代のサトウキビとどのように違うかなども確かめたかった。

   和三盆(竹糖)

市役所で場所を聞き、その畑を探し当てて写真を撮りだした。私の印象では、和三盆のサトウキビは黒潮町のサトウキビに比べると丈も低く茎も細い感じで、ススキの株のような感じだった。撮影中に軽トラックの男性が車を止めて、何をしているのかと尋ねてきたので、和三盆のサトウキビの写真を撮りに来たのだと話すと自分の畑だと言い、色々な話をすることができた。

その人の話によると、この辺りの和三盆はばいこう堂からの委託生産で、すべてばいこう堂が取り扱っている。ばいこう堂の本社は大阪である。この委託栽培で手にできる金額は、1キロ当たり100円で毎年50万円(5トン生産)にしか手に入らない。この地方全体では8000トン位の生産量ではないかと話した。また栽培には、大量の化成肥料と油粕などの肥料を追肥しなければならない。畝の周りの雑草を抜いたりする作業もあり、採算は取れないと話していた。写真を撮っていたとき畝の間に耕耘機があって、その作業の途中だろうと思われた。こうした農家は単なる儲けだけでなく、伝統的な和菓子に使われる和三盆の文化を継承する意識で栽培しているのではないかと思った。刈り取られた和三盆は、徳島県の池田に運ばれて砂糖に加工されていると話してくれたが、細かい処理については詳しくないようだった。

サトウキビをどう植えるかについては、種(ススキのような種)で増やすのではなく、サトウキビの茎を3月頃に土中に植えて芽が出てくるのを待つとのことだった。春先の霜は大敵なので地面にシートを張って霜害を避けること、そして暖かくなると新芽が出るものと黒いままのものとに分かれると話してくれた。その時「芽が動き出す」という表現を使った。芽が出てくるのを心待ちにしている農家の人たちの思いを表す表現だなあと感じたものである。

東かがわ市の観光ガイドには、和三盆はそれまで輸入に頼っていた砂糖を8代将軍吉宗が奨励し、高松藩主の松平頼恭によって作られるようになり、現在では東かがわ市と徳島県板野郡の2か所だけで作られていると記されている。

サトウキビはオフィシナルム種で、和三盆の竹糖はシネンセ種で異なる品種であり、サトウキビを竹糖の手法で和三盆を作ろうとしても、それはできないということである。それと2種類の決定的な違いは、糖分がサトウキビの方が多く和三盆の方が少ないということである。

通常のサトウキビと和三盆の竹糖に含まれる砂糖の多さだけを考えると、サトウキビの方が断然良いように思うのだが、和菓子の場合には、ほのかな甘みがある奥行きの深い甘さの和三盆の竹糖の方が相応しいのだろう。こうした伝統的な和菓子を作るには、少なめの砂糖を含む方が適しているのだろう、そして文化とはそういうものではなかろうか。因みに、和三盆の他に和三宝という名称もあって、どんな関係だろうかと疑問に思っていたが、和三盆を取り扱っているばいこう堂の商品名が和三宝ということだった。和三盆の委託栽培を全て仕切っているとしたら、どちらの名前でも世間では通用するのだろうなと思ったものである。

コメント