カラス

カラスは人の住む近くのいたる所にいる。都会ではごみ袋を突き破ってその中の食べ物を散らかすので、その対策に困っている自治体も多い。しかも賢い動物で学習能力が高く、そのカラス対策で、仕掛けを置いたり音を立てて追い払っても、すぐに慣れてしまって効果がなくなる。しかも野生動物なので捕獲して殺すこともできない。

秋から春には集団で生活するカラス

 天童にいた時火曜日と木曜日がゴミ収集日でゴミを持って集積所に行くと、プラスチックネットを掛けるようになっていた。ネットの周りはレンガを置き石をして、ゴミ袋が引き出されないようにしていた。それを近くの電線でカラスがじっと様子を見ている。私が手を叩いて音を出しても悠然としている。そんなことでは逃げる気配はない。

人間とのそうした環境で育ってきたからだろうか。このカラスとゴミの問題は全国的な問題となっている。特に盛り場のゴミの集積場では、捨て方の問題がある他にカラスにとって美味しい食べ物が含まれていることも散らかしの原因らしい。人間の朝の通勤通学のように、毎日公園や森のねぐらから飛んできて、ゴミを食べ散らかし散乱させている様子をテレビ画面で度々見かける。

 繁殖期のカラスは仲が良い

 春に鶴岡の短大附属大宝幼稚園に出かけた。訪問時刻には少し間があったので、近くの役所の駐車場で時間つぶしをしていると、電柱の上にカラスが巣を作っていた。木の切れ端やハンガー等を使って八割がた出来上がっているようだった。その番(つが)いの二羽のカラスが駐車場の地上に降りてきて、メスがオスに甘えている。背を低くして下からオスを見上げるような仕草で、ヒナが親に餌をねだるのと似た風情だった。オスはそれに対応しながら軽く飛び立ち、またメスのところに舞い戻ってくる。それを何度も繰り返していた。こうしたメスの甘え行動は、オスにとっても番いになる際に心地良いのだろうか。こうした仕草は授業をしていた時、親しくなった男女学生がくっついていて、授業中に女性が男性を下から見上げる場面と全く同じだった。公けの授業で私的な関係の場面を見せつけられると、気になって授業が上手く進められなかったことを思い出す。

東京の大きな通りや階段で近くの木に巣をかけていたカラスが、育雛期間中に通行人を攻撃する場面をテレビ放映していた。自分の縄張りの中に入ってくる人間を敵だと見做して攻撃してくるのだろう。エドワード・ホールの個人距離とか縄張り空間が、育雛期間中は拡大するのか、それとも縄張り意識が強くなり敏感になるのだろうか。

カラスの能力の高さについては何十年も前に河北新報で、仙台の広瀬川に架かる大橋から、仙台城の大手門を過ぎて東北大の川内キャンパスに通じるアスファルト道路でカラスがオニグルミの実を落として、自動車のタイヤに挽かせて中身を食べているという新聞記事が掲載されていた。クルミを挽かせてそれを砕いて食べるというのは、今している行為が次に起こる結果を引き起こすことを予想しながら行う行為であり、推論能力を持っていることを示している。いつも成功するとは限らないが、自分で殻を壊すよりは簡便な方法ということで発明したのだろう。

東北では秋になると、山沿いの渓流脇に生えているオニグルミが沢山の実をつける。また雑木林の中にも生えていて、カラスは外皮が腐ってとれた実を咥えて殻を割って食べている。オニグルミの実を包む外皮を生の状態で指や手で剥ぎ取ろうとすると強烈な臭いがする。糞便の臭いの元であるスカトールの臭いで、手につくとその茶色の色がいつまでも取れない。ギンナンとは違う匂いだが強烈な臭いで辟易してしまう。

 クルミを落として割ろうとするカラス

数年前の秋学長室の窓の向こう側は附属たかだま幼稚園だが、学長室と附属幼稚園の間に駐車場がある。土曜日か日曜日だったが行事があって学長室にいると、幼稚園の誰もいない駐車場で、カラスがクルミを咥えて飛び上がって、それをコンクリートの地面に落としていた。クルミはすぐ割れないので、クルミが落ちた場所まで行って、また咥えて飛び上がって落としている。何度も何度も繰り返している。飛ぶ高さが十分でないのか割れない。私はその光景を見てそのクルミをサンダルで押し割ってやろうと思い、校舎の戸を開けて駐車場に出たが、カラスはそのクルミを咥えたまま飛び立ってしまった。仕方なく学長室へ戻ると駐車場に戻って来て、クルミを上空からまた落としていた。結局クルミは割れなかった。

その後大学構内の駐車場で二つに割れたクルミが落ちているのを見かけた。私はカラスが上空からクルミを落とすとクルミがその力でぐしゃっと細かく割れるのだろうと考えていた。しかしそれは違うようなのである。クルミはお椀を二つに重ねたようにくっついていて、それが地面にぶつかった衝撃で二つにパカッと割れるらしい。衝撃を与えれば良く粉々に粉砕しなくても良さそうなのである。

こうした上空から落として砕くという行動は、エチオピアのヒゲワシにも見られる。この鳥は骨を主食としていて、骨を消化して栄養とする。大きな骨は咥えて上空から岩場に落として砕くという。これも何回か行うが上手く骨を砕くには岩場の石に的確に落とす技術が必要となる。カラス以外にも似た技を持った鳥がいることに驚いてしまう。

ずーっとカラスの行動を観察していると、カラスの習性が見えてくる。春になって番いになって産卵して子育てするカラスたちが、秋になると二羽でなく集まって集団行動をする。ある時は何百羽という集団になり市街地の電線に鈴なりになって止まる。ムクドリも同様で電線の下は糞だらけで不衛生になる。私はそのムクドリの写真を撮ろうとして糞を肩に落とされたことがあった。この光景を天童周辺では見かけたが、蟹江に戻ってからはカラスの大群をまだ見ていない。冬の寒さ等の気候の違いなのか、それとも私が蟹江のカラスの集団行動を見ていないだけなのかは分からない。

  トビを追いかけて攻撃するカラス

いつも見かけるカラスの行動で面白い行動がある。山形でもあま市の五条川や海津市の畑でも、トビが飛んでいるとカラスが攻撃を仕掛けている場面を度々見かけた。トビは悠然と飛んでいるがそれに向かって激しく攻撃するのは決まってカラスである。トビの方が猛禽類で、姿からすると獰猛な感じがするのに、いつもカラスが攻撃しそれを何とか避けながら飛び去っていくのはトビの方である。いつまでもカラスは追いかけるがある範囲を超えると攻撃をやめて戻ってくる。多分カラスの縄張りがあるからだろう。自分の縄張りに入ってきたトビに対して攻撃する習性があるのだろうか。

このカラスの行動を見ると、我が物顔という感じがぴったりする。それは都市部の環境に上手く入り込んで、生きていく術を獲得してきたカラスの能力の高さ故ではないかとついつい思ってしまうのである。(スズメ目 カラス科 カラス属)

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