夕日が沈む頃の夕焼け雲の色は、赤いがややどこか薄い紫色が入った微妙な色で、真っ赤な赤よりは落ち着いていて私好みの色である。また、こうした夕焼け雲をアカネ雲という言い方もする。アカネという植物名は、こうした色を取り出す染料として昔から根が使用されてきた。この根はかなり強く臭うのである。
アカネ
同様にシソ科の多くの植物は、昔から匂いが強くて薬草として利用されてきた。現代ではそれを利用してハーブとして香りで心を癒したり、ハーブティやケーキなどの食べ物に添え味や香りを楽しみ食欲をそそらせるために、その効用を利用している。アカネはシソ科ではないが、そんな仲間内の植物のように感じている。また。シソ科の仲間は、茎が四角である。私は少し前まで、ずうーっと植物の茎は丸いものだ思い込んでいた。ヒマワリにしろホウセンカにしろ、身近な植物はかみそりで茎を横に切った断面はみな丸いのである。そこで新たに「シソ科の茎は四角い」という規則性(法則)を作った。
アカネはツル状に伸びて葉は輪生(葉が出る部分に輪のように四枚出ている)であるが、茎は四角いのである。茎には小さいとげがあってちくちくするが、シソ科ではない。シソ科は四角くて割と小さい花がたくさんつくのに、アカネはそうしたことはない。言ってみれば、「シソ科の茎は四角い」という規則性(法則)の例外に当たる。
昔、バウハウスで小学生に草木染めをするために、アカネを採って染色させたことがあった。草木染めは、明治の頃までは日本各地で行われてきていたが、大正期になって化学染料が中心になり始めると、草木染めは行われなくなってしまった。化学染料によって色々な色が出せるようになって、私たちの生活は安価で色鮮やかな世界を作り出させるようになった。こうした化学染料が出回る原因の一つが、第一次世界大戦での化学兵器の開発に付随する化学分野の発展よるものという皮肉な現象なのである。
最近になって、周りの自然とのつきあいや昔からの染色技術が見直しされるようになって、草木染めが復活してきた。私自身は詳しい草木染の知識は持ち合わせていないが、小学生や幼児に草木染の醍醐味を味あわせたいと考えて、いくつかやってみた。草木染めは、基本的には草木なら何でも染められる。だから梅の木、セイタカアワダチソウ、紅茶やコーヒーなど何でも可能である。私がやったのは、タマネギとアカネの染色である。タマネギの場合、そのタマネギの茶色の薄皮を集めて、それを熱湯で煮だすのである。それに白い布を入れて取り出し絞る、濃くしたければまたそれを繰り返す作業をすればよい。白い布は木綿よりは絹の方が染まりやすい。本来なら、それで染色はできる筈であるが、水に入れるとその色が流れて元の白い布に戻ってしまう。そこで、布に色を留めておくための材料が必要になる。それが色留め(媒染材)である。タマネギの染色の際には、ナス漬けの青さを出すために、スーパーでも手に入れられる焼きミョウバンを使った。
アカネの実
媒染材には、草木灰、酢やタンニン(お茶)などが使われるだが、基本的に塩(しお)の仲間である塩(えん)なら良い。これらは水に溶かすと透明になって向こうが見える物質で、水溶液に電線で豆電球を通すと光る。つまり水の中でプラスイオンとマイナスイオンに分かれて電線の働きをする物質(イオン化物質)になる。塩(しお)である塩化ナトリウム、青い硫酸銅、塩化鉄やミョウバンなどがそれである。こうしたものは薬局に行けば手に入れることができる。
小学生相手にアカネを染色させるのに、アカネの採集をしなければならない。野原の真ん中に生えている場合もあるが、少し山沿いの道の脇に生えている場合が多い。そこで移植ベラなどでその根を採るのだが、アカネの葉のつき方が独特なので、探すことはそれほど難しくはない。においが強い根を採ってきて乾燥させておく。その後に、玉ねぎと同じ工程で作らせた。私自身も何度も作ったわけではないので、布が本当にアカネ色に染まるかドキドキし、染まった時は感動したものである。何度も繰り返して濃くする工程も楽しいと思う。
こうした草木染で同様なものに藍染がある。江戸時代に木綿が生産し利用されるようになって、藍染はとくに盛んになってきた。日本ではタデの仲間の藍草を利用しているが、今ではほとんど廃れてしまっている。私の草木染の知識から言えば、木綿に染められることが凄いと思うのである。調べてみると天然繊維(麻、絹、毛や綿など)や半天然繊維(レーヨンやアセテート)なら染まるが、ナイロンやポリエステルなど石油から作られたものは無理のようである。毛などのように節になっていて色がつきやすい部分や化合しやすく定着し易い部分がないからだろう。
ヨウシュヤマゴボウ
以前ヨウシュヤマゴボウの房状になっている赤紫の実を染めようとしたが、うまく染めることができなかった。媒染材を工夫したら染められるのではないかと考えている。いつか挑戦したいものである。
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