ウスバサイシン

植物編

天童に来て周辺の丘陵地帯を歩いたり慈覚大師(円仁)が開いた奥羽一番札所の若松観音(山寺も開いた)の近くを散策しながら、動植物の写真を撮っている。

 5月の連休に若松観音から下った通りの傍の果樹畑ではモモやスモモが植えられていた。近くにサクランボの花も見られ果樹の花が一面咲いている状況であった。スモモは小さい花を枝に纏わりつくようにたくさん咲かせるので、遠くから見ても白一色で素晴らしく近くに行っても花の芳しい(かんばしい)香りがする。

スモモの蜜を吸うヒメギフチョウ

 そうしたスモモの花に甲虫、蝿や蜜蜂などがたくさんいて蜜を吸ったり花粉を採りに来たりしていた。その中に小型の蝶が2~3匹同じように蜜を吸っていた。顔を突っ込んで吸っている感じであったがその翅の後ろの模様を見て、これはギフチョウかヒメギフチョウだと直感した。そこで写真を何枚か撮ったが、腕が悪いのかなかなかピントが合わなかった。それでも1~2枚ほどは何とか撮れたのである。短大の元事務局長の森谷先生は生物の先生で東根市に住んでいるが、近くの乱川の上流ではヒメギフチョウがいると話していたことがあり、いつか見に行きたいと考えていたところだった。

 その前に宮城県の村田の山の中で、カタクリの花の蜜を吸っているギフチョウだかヒメギフチョウに出会っていたので、私にとって幻のチョウに出会ったのは二度目である。

 こうしたチョウがいるならその幼虫が育つ植物があるはずで、図鑑でギフチョウの幼虫の餌はカンアオイでヒメギフチョウの餌はウスバサイシンであることは、以前から知っていた。村田で出会った時も近くを見てみたが、どれがその植物だか分からなかった。

  ヒメギフチョウの食草 ウスバサイシン

 それからもギフチョウかヒメギフチョウがいるなら、幼虫の餌である植物が近くに生えている筈だと思い込んでいる。今年の5月の連休に天童高原に行き、北面白山へ行く山道を植物の写真を撮りながら1時間ほど歩き戻ってくる途中に、右側の土手にウスバサイシンが多数生えているのを見かけた。時期的にはギフチョウやヒメギフチョウがいても良い時期だったが、これらの葉には幼虫が食べた痕などは全くなかった。天童高原は標高700メートル前後だと思われるから、こうした高地には住めないのかもしれない。そうだとしたらこれらのチョウは、里山に住むチョウなのではないか。

 そこでギフチョウとヒメギフチョウについて調べてみたら、色々なことが分かってきた。

生息している地域では、ギフチョウとヒメギフチョウは住み分けている。ギフチョウが本州の中央(ホッサマグナ)から西なのに対して、ヒメギフチョウはその北で、北海道でも分布しているようである。それは、幼虫が餌にしているウマノスズクサ科のカンアオイとウスバサイシンの分布によって区別される。ギフチョウは、主にカンアオイに卵を産み、ヒメギフチョウは主にウスバサイシンに卵を産むことから、分布の境界線がはっきりしているようである。その境界線をギフチョウ線と呼んでいる。この境界線付近では混在して住んでいる。山形県はこの混在地域で庄内、最上、長井や小国などの29市町村にどちらのチョウも分布しているから、県内のどこでもギフチョウとヒメギフチョウを見られる可能性がある。

  ギフチョウとヒメギフチョウの区別は色々あるようだが、簡単なのは大きさがギフチョウの方が大きく、ヒメギフチョウは小振りであことからヒメという名称がついたとのことである。(ギフチョウが翅を開くと5~6センチ、ヒメギフチョウが4.5~5.5センチほど)

  左 ギフチョウ 右 ヒメギフチョウ

  日当たりのよい林地をゆるやかに飛翔しながら、カタクリ、スミレ、ショウジョウバカマ、ハルリンドウなどの背丈の低い草の蜜を吸う。私が経験した例のように蜜があれば寄ってくることから、サクラ、リンゴ、スモモなども対象になるだろう。幼虫の餌は、ギフチョウがカンアオイ、ヒメギフチョウがウスバサイシンであり共にウマノスズクサ科の植物である。カンアオイの仲間には、「フタバアオイ」と「ウスバサイシン」がある。カンアオイは、日本で多くの種に分かれ地域ごとに花の形や生育の仕方が異なっている。

ところで徳川家の「三つ葉葵の紋」は神社の紋にも使われている。私は葵の紋は庭先で咲いているゼニアオイに由来すると思っていたが、どうもそうではないことを知った。その葵の紋の元になったのは、しかもカンアオイでなくフタバアオイとのことである。京都の上賀茂神社や下鴨神社の神紋は、花つきのものでフタバアオイということが分かるという。徳川家の三つ葉葵の紋は、どうも徳川家がこれらの神社との関係が深く、それをもとに三つ葉を合わせた葵の紋を作り出したと考えられている。

  三つ葉葵の紋は少しずつ模様を変えて、神社紋(鎌倉の浄智寺)や太鼓の模様(飛騨古川町の「起こし太鼓」)として使われるようになったようである。私にとって、ヒメギフチョウ、ウスバサイシン(カンアオイ)、上賀茂神社、下鴨神社、徳川の三つ葉葵が関連して記憶されることになった。

コメント