ハナイカダ

植物編

ハナイカダは私にとっては、夢に出てくる女神といってもよいほどの存在である。何十年も前から、名前とその変わった実のつき方を聞いていたからである。普通の植物では、花の部分は植物の茎の先端につくのが一般的だが、葉の真ん中に花や実をつけるのである。

シソ科の花のハッカやオドリコソウは葉が出る茎の下に花がたくさん咲くから、遠くから見ると花が段のようになって咲くことになる。それ以外にもミョウガのように地面から花芽が出るものもあるから、ハナイカダだけが取り立てて変わった植物といえないかもしれない。それでも葉の真ん中に花が咲く植物があるとは、ずーっと信じられなかった。でもいつか出会えるのではないかと期待していたのだが、自分の人生の長さと山形や天童の自然環境の中で、この植物に出会えるかどうか実は保証はなかったのである。

 またこのハナイカダという名前のつけ方が風流な感じがする。この名前のついたお店を割りと見かけるのである。宮城県の村田から岩沼に抜ける県道25号線から柴田町に抜ける途中に、そばを食べさせる「花いかだ」という店がある。いつもその「花いかだ」の看板前を車で通っているからか、その名前が頭にこびりついてしまった。調べてみたら、このハナイカダを使った店が全国にはたくさんあるらしいが、どの位の人が植物園ではなく野生のハナイカダを見ているのだろう。ハナイカダという名前は葉を筏に見立て、それに人が乗って操っているような風情があることから、風流ゆえに店の名前にしているのだろう。

ハナイカダの実と花

 山形でもハナイカダを見かけられることは、附属の鈴川第二幼稚園の園長であった大谷正美先生が植物に造詣が深く、蔵王や笹谷峠に人を連れて植物の観察に行ったことが先生の書いた本の中に載っている。笹谷峠に登る山道の脇を少し入ったところと推測するのだが、いつか行ってみたいと考えていた。他にはにショーマやトチノキについても書いてあって、私はその時までトチノキは知っていたがショーマは知らなかった。

 ハナイカダについて調べてみたら、ミズキ科のハナイカダ属で余り高い木にはならず、秋になると落葉すると書かれていた。花は葉が生殖するために変形したのだから、多くのものは枝などの芽ができる先端部に花を咲かせることが普通である。ところがこの花は、進化の途中で、葉の真ん中から出て葉の主脈と繋がってしまった。花を咲かせるための養分やエネルギーはそれでも十分に満たすことができる。しかも葉脈は花や実のところまでが太いのである。

 そこでどんな花の咲き方をするかだが、実際に庭に植えて観察した人のものを見ると、葉ができ始めた時に、既に花芽が葉の中央にある。私は葉ができて時間が経ってから花芽がつくと考えていたから、観察した人も予想外だったような書き方がしてあった。その点では私も同じである。そして4月の下旬か5月の上旬に花が咲くようである。

 今年の9月の中頃に、娘が孫と山形に来た。娘が市場調査の仕事をしている間に、小学4年生の孫を連れて、ジャガラモガラの山の奥まで連れて行った。頂上近くに行くとそこには小さな駐車場があり、車を降りて横道に入る遊歩道を歩いたのである。東北の山は、町から少し入ると殆ど人を見かけることはない。また時期的に秋口なので熊が出る可能性もある。奥までいくと熊に出会うかもしれないと孫にいうと、登る途中では熊を棒で叩けばよいと威勢が良いことを話していたが、実際に山奥に行くと人は全くおらず、私たちだけという状況だった。遊歩道を歩き始めると、彼は私の服を掴んで離さない。それを振り払うと、自分の陰部をズボンの上から押えて恐怖の様相を呈していた。そして早く帰ろうと泣き言を言い始めた。そこで私は、もう少し先まで行ったら戻るからと先に進んだ。遊歩道を少し進んだところで、黒い実がついている葉を見つけた。そうした葉が何ヶ所にもあり、瞬間にハナイカダだと直感した。とても嬉しくなって私は何十枚もシャッターを切ったのである。デジタルカメラで写真を撮るとピントが合わないことが多く、ちゃんとした写真は数枚というのがいつものパターンだったからである。

    ハナイカダの花

 この遊歩道を歩いていて、ヤマジノホトトギスも何ヶ所かで見つけ、これも写真に撮った。この花は珍しいと自分では思っていたが、天童の丘陵地帯にもある時期には咲いていることが分かった。他には、手の届きそうなところにカヤの実がなっていた。これも久し振りに見かけたので写真に撮った。

 私はもっと奥に行きたかったのだが、孫が早く帰ろうと言い張って、仕方なく戻ることにした。都市部の子どもは口ばっかりで度胸がないということを証明したようなものである。娘の仕事が終わってからこの話をしたら、「小心者だから」と話していたが、こうした自然の世界を少しでも楽しむように育てられたらよいなと考えている昨今である。

  ハナイカダのいろいろ

 こうして何十年の念願がかなって、私は野生のハナイカダに出会った。天童や山形に来て一番良かったのは、こうした世界と知り合いになれたことだと実感しているのである。

 その後、ハナイカダのことが分かってきたら、何ヶ所かで出会うようになった。水晶山の山道の脇にも数本あるし、7月頃笹谷トンネルに行く途中の脇道に入ったら、道路際に太さはタニウツギほどの太さの木に、ハナイカダの花が咲いていた。あまり目立つ花ではないが、葉の真ん中に小さい蕾から花が咲いたものまでを見かけた。また嬉しくなって写真を撮ったのである。

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