ブナ

植物編

ブナは東北の森の代表的な木である。その豊かな実りが野生動物と山の自然の根源であると理解している。私は天童から仕事の関係で鶴岡に行くことが多く、その殆どは月山道を通っている。高速道路の山形道は月山インターで112号線に入り、志津トンネル(535メートル)、月山第一トンネル(2620メートル)、湯殿山トンネル(665メートル)、月山第二トンネル(1550メートル)を経て鶴岡市に入り、また田麦俣からが山形道となっている。その月山インターから田麦俣インター間では高速道路専用の道路は作られていない。最近はそんなものと考えられるようになったが、最初はとても不思議な感じであった。恐らくは、新たな道路やトンネルを作るのが不可能な地形だからか、それとも費用対効果の問題かもしれない。鶴岡市に行くには新庄経由の別の道もある。私は殆どは月山道を使っているが、山岳道路なので冬になると吹雪やアイスバーンで衝突事故や転落事故も起こる。こんな時は出かけないか、新庄周りにすることが多い。月山道を通るとトンネル付近には、ブナ林が多数みられる。

 ブナの林

天童は山形盆地に属し、その周りは山々に囲まれている。東は蔵王を含む蔵王国定公園がある奥羽山脈、西に磐梯朝日国立公園の出羽三山(月山、湯殿山、羽黒山)から大朝日岳、飯豊山に連なる朝日連峰がある。昔仙台からは蔵王でのハイキングやスキーに来たものだが、朝日連峰の山々は蔵王連峰よりは高く深く、一度迷い込んだら生きて帰れないのではないかと思う。というのは蔵王で迷子になっても東でも西でも山を下れば、宮城県や山形県の民家に行きつくと思うからである。

月山道路で見られるブナ林は標高の高い所に生えている。木の肌合いが白くて優雅な風情を与える木である。私は通るたびに綺麗だなあと感心する。

 雪解け頃の新緑のブナ(朝日連峰)

小学5年生用に「ブナのテキスト」を作ったことがある。縄文の時代からブナを基本として、動植物が生活しそれを採集したり、焼き畑などで育てた森の恵みを糧にして明治の初期まで生活してきたことを分からせたいと思って作成したものである。今でもツキノワグマなどが麓に降りてくるのは、森のブナの実の不作が原因と言われることもある。県南の小国では、いまだにマタギの人たちがツキノワグマの猟をしていると聞いている。

  ブナの実 その1

ブナの葉は腐食がすぐに始まらず、かなり時間をかけて腐食する。そのために葉が何年にもわたって堆積してフカフカになる。こうした結果、これらが雨水を貯め込んで地下に時間をかけて雨水が染み込んでいく。だから水を貯める自然のダムの働きをしているのだ。東北の山々の木々の多くは落葉するので、山々は墨絵のような枯山水の状態になる。枯れた葉が、その間水を貯め込む作用をしているという訳である。ブナ林は、そういう森の循環で、他の雑木と共に重要な働きをしていることが分かる。

冬の枯れて雪の中で見るブナ林も風情があるし、春になって葉が芽吹き、新緑の季節になるときも素晴らしいと思う。秋になるって高揚してくる季節もまた美しい。その風情を感じさせるのは、あのブナの白い木肌なのではないかと思う。

  ブナの実 その2

私が育った名古屋周辺では、冬でも木々が青々としている。常緑樹であり照葉樹林の地域に属するから、こうした落葉する風景を初めて見たときは感激した。その反面、故郷を離れて遠くへ来たもんだという寂しさを味わったのでもあるが。ブナばかりでなく、この地方では山栗や落葉性のブナ科のナラ、コナラやクヌギなどのドングリもたくさん見られる。これらも縄文人の遺跡から縄文土器に大量に保存されていたと聞いたことがある。ブナは東北地方を歴史的にずうっと支えてきたのだと、改めて感じたのである。

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