エゴマ

植物編

エゴマを知るようになったのは、知人が野鳥を庭に呼び寄せるために、色々な餌を買ってきて、その中にあって知ったのが初めてである。その時はエゴマという名ではなく「じゅうねん」と言っていたが、東北地方の呼び方だと思う。

  種から育てたエゴマ

野鳥の餌として、パン屑、粟、稗、麻の実、ひまわりの種、じゅうねん、ピーナッツなどを購入して、12月頃から3月頃まで、朝になるとみかん、リンゴやカキなどの果物と合わせて餌台に置く。冬になると野鳥の餌は乏しくなり、その餌台の餌を頼りに、たくさんの鳥たちが近くの藪にいて冬を越している。仙台周辺でその餌台に集まってくる鳥たちは、スズメ、カラス、キジバト、ムクドリ、ツグミ、カワラヒワ、ヒヨドリ、アオジ、シジュウカラ、ウグイス、メジロ、シメである。これらの鳥の中で油っこい物が好きなのはシジュウカラ、シメである。特にシジュウカラは、牛脂、じゅうねん、ピーナッツやひまわりの種が大好物で、それを餌台から嘴で挟んで、木の枝に飛んで行ってから、足で餌を抑えて皮を割って中身を食べている。その行動が敏捷なのは見ていて小気味良い感じさえする。また果物が好きなのはメジロやヒヨドリで、私の経験からはメジロはいつも二羽で来て、ミカンなどをつつきながら食べている。ヒヨドリは群れで行動することは少ないが、ムクドリ同様にきかない鳥で、他の鳥を追い払って独り占めするところが憎らしい。餌の中でも、じゅうねんは量に比較して値段が高く、野鳥にとっては高級食材ではなかろうか。

   餌台に集まる鳥たち

昔から東北地方では、エゴマを「じゅうねん」といって色々な料理に使っており、味噌田楽、山菜のあえ物、焼き茄子の上にかけるなどで使われてきた。会津の大内宿に行ったとき、街道を挟んだ茅葺屋根の旅籠だった家で、観光客相手にじゅうねん味噌の田楽、じゅうねん味噌の餅を売っていた。この地方では、昔から生活に根差した普通の食材で、エゴマ(じゅうねん)が栽培されてきている。

  エゴマの花

昔エゴマは油を取る材料だったようで、その後、採れる量が少ないゴマ油を経て、江戸時代に菜種から油を採るようになった。これで庶民が食用油を使えるようになり、江戸時代に大きな食生活の革命が起こったと推定できる。現在ではトウモロコシ、ごま、紅花(サフラワー)、大豆などから効率よく油を採るような技術が開発されている。

エゴマはいつ頃の時代から人に利用されていたのだろうか。福井県の三方五湖近くの縄文時代の草創期から前期にかけての鳥浜貝塚から、エゴマの種の痕跡が見つかった。他に、漆、縄、紐や櫛などが出土している。若い頃、鳥浜貝塚で綺麗に編んだポシェットが出てきたと何かで読んだ記憶がある。そのポシェットは現代人が使っているような精巧でデザイン的にも優れたものだったと書いてあった。私たちは、縄文人は半裸で粗末な服を着て、粗末な縦穴住居に住んでいたと偏見でしか見ていないが、出土したものを見ると、縄文人の生活レベルは相当なものだったのではないかと思われる。

その後、三方五湖に行ったら、海の入江の奥まった五湖であった。海沿いだから水質は良いと予想していたが、やや黄色がかったどんよりした水の色だった。水が滞留している結果だと思われるが、それが安定した環境を維持してきたのだろう。鳥浜遺跡周辺にはいくつもの縄文遺跡があった。そこの縄文遺跡の展示館に入ったら、縄文時代の草創期から晩期までの縄文土器、網、釣り道具や木舟が展示されていた。それらはすべて精巧なもので、私たちが考えているような簡素なものではなかった。採った魚の骨の遺跡から、スズキやハマグリ、ヒシの実なども採って食べていたようである。

進化生物学者の池田清彦によれば、ホモサイエンスである我々と同じ大きさの脳の持つホモハビリス、ホモエレクトスの原人、ネアンデルタールの旧人は、思考力などについて我々と差はなかったのではないかと言っている。そう考えると、縄文人たちがどんな言語を持っていたかというハンディはあるかもしれないが、思考の内容に差がなかったのではないかとも考えられる。

出土したエゴマから想像すると、縄文人は採集してきた植物や魚を天ぷらにして、山ブドウなどから作った酒を飲み交わしていたことさえ想像できるのである。

私はエゴマの種を、丸森町から相馬に抜ける鹿狼山の道の駅で買い求めた。販売している人にエゴマの写真を撮りたいのだがと尋ねたら、もうその時期が終わったと話してくれた。そこで、天童のアパートで、発泡スチロールの箱に土を入れて種を撒き育ててみた。また仙台の知り合いの人にも庭の隅で育ててもらうように依頼した。

  エゴマにとりついた青虫(ベニフキメイガ?)

エゴマを図鑑で見ると、アオジソと同じようで区別できない。香りはアオジソはシソと同じ香りがするが、エゴマは良い香りではないと書いてあった。実際に育ててみると、葉の形はアオジソと似ているが、葉の葉脈の数はアオジソの方が多く、葉の厚さも薄い感じである。育てているうちに、葉にはベニフキメイガの幼虫がとりつき、葉がボロボロになってしまった。韓国では、焼肉料理で肉をエゴマの葉で巻いて食べるようだし、エゴマの葉をキムチ漬けにもするようである。

秋になってエゴマの種は採れたが、仙台の知り合いのエゴマの種は地面に落ちている筈だが何も見当たらず、野鳥が食べ尽くしていた。野鳥にとっても、エゴマは高級食材なのだろう。

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