キイトトンボは私が本格的にトンボに興味を持ち出したきっかけになったトンボである。小さい頃からギンヤンマ捕りには夢中になっていた。お兄ちゃんたちにくっついてトンボ捕りをしていて、ギンヤンマを捕るつまり釣ることの面白さに惹かれて夢中になっていた。
キイトトンボと交尾態
その中でギンヤンマの習性を学んだことも事実だが、純粋にトンボの種類に興味を持つようになったのは、小学校高学年になってハラビロトンボとこのキイトトンボを捕り出してからだった。ハラビロトンボはシオカラトンボのオスとメスの体色の色合いと同じだが、その尻尾の形が幅広くなっていることに驚いてから捕るようになった。一方キイトトンボは色が黄色で美しく、草叢で見かけると草などの緑がキイトトンボの黄色の体色とコントラストになって黄色が引き立ち美しいトンボだと感じさせる。その黄色もオスの方がより明るく美しいが、メスの黄色は薄く地味な感じである。いつも思うことだがこれらは動物一般の傾向だが、人間だけがメス(女性)の方が色合いが華やかであるのはとても不思議である。
私が小学生の頃には、こうしたキイトトンボが蟹江周辺の水郷地帯にもいた。その当時は名古屋に住んでいたが、私たちは移動のための機動力がある自転車に乗って名古屋からは一時間半位かけて、蟹江に近い秋竹(今のあま市)や五条川まで遠征してきていた。その途中の庄内川、新川、五条川、近くの萱津神社や清州城址等の草叢でもこうしたキイトトンボを見つけて捕ったりした。そんなことがきっかけで色々なトンボの種類を集めるようになった。最初のうちは虫籠に捕ったトンボを入れて持ち歩いていたが、トンボの翅は籠をひっくり返したり、沢山のトンボを入れたりするうちにぼろぼろになってしまう。最後はそれが原因で死んでしまうとぽいと捨てることの繰り返しだった。小学校高学年になるとトンボを展翅台にきちんと硫酸紙で据え付けて、その翅を展翅するようになった。しかしキイトトンボは展翅した記憶はない。
キイトトンボの産卵風景
二年前に蟹江に戻ってきて春から秋にかけてトンボや鳥の写真を撮ったり、夏の暑い時期にはメダカ、タイリクバラタナゴ、モツゴ、フナ、ナマズを捕ったりしている。水郷地帯の草叢を頻繁に歩いているが、昔見かけたキイトトンボを全く見かけていない。蟹江周辺も昔田んぼだった場所に住宅やスーパーができて都市化してきた。用水路にゴミが浮かんでいることも多くなったように思う。こうした環境がキイトトンボがこの周辺で絶えてしまった原因だろうか。
住んでいた天童の定点観測地である山元沼と原崎沼を歩いていると、その遊歩道脇にある「網張の里」の草叢にキイトトンボが飛んでいた。数はそれほど多くはないがオスとメスも見られる。そこで追いかけて写真を撮った。その辺りにはキイトトンボがまだいるのである。ある時真ん中にある小さい池で連結したキイトトンボが産卵していた。池の枯れた草の茎に止まって産卵していたが、メスが産卵しようとしている時にオスの方が連結したまま立ち上がっていた。こんな体勢でもオスはメスを離さないでいることに吃驚した。後で何種類かのイトトンボの写真を撮るようになったら、連結した状態で産卵している中にオスが立ち上がっているものがあった。キイトトンボだけではないことが分かってきた。
キイトトンボを見ると、その体色の素晴らしさに感嘆すると共に自然の造形の妙に感心せざるを得ない。最近写真を撮るようになったカモの仲間でも感じることである。よく知られるオシドリはそうした造形の極みだと思うが、それでもコガモ、トモエガモ、ヨシガモの姿は人間の想像を超えた素晴らしさと言っても過言ではない。
同じキイトトンボ属のベニイトトンボ
今住んでいる蟹江では既にキイトトンボはいなくなってしまっている。同様にチョウトンボも見かけない。そんなことを考えると言葉の周圏論同様で、気候や気象の大きな違いがなければ都市化が遅れている東北だからこそ、まだキイトトンボやチョウトンボが生き残っているのかも知れない。昔から生きている動植物は日本の周辺部でしか生き残っていないのではないかと思う。こうしたトンボが生き残れる環境を保つことは、我々の義務ではないかと思うがどうだろう。いつも言うことだが、地球は人間だけのものではなく今生きている動植物のためのものでもあるのだから。
「日本のトンボ」(尾園暁 川島逸郎 二橋亮 文一総合出版)のキイトトンボの項目には「分布は日本中。生育環境は、平地~山地の抽水植物の繁茂する池沼や湿地。放棄水田や土砂採取跡地に生じた湿地でも見られる。生活史は、卵期間一~三週間程度、幼虫期間二か月~一年程度(一年一~二世代)。幼虫で越冬する。形態は、オスメスともに全身明るい黄色。オスは成熟すると胸部が緑色になる。メスは成熟すると腹部も緑色みの強くなる個体が見られる。交尾は成熟オスは水辺の草の間を縫うように飛んでメスを探す。メスを見つけるとただちに追尾して連結し、植物に止まって移精したのち交尾を行う。産卵は、連結したまま水面に浮いた植物に産卵することが多く、オスは直立姿勢を取り周囲を警戒する。メス単独での産卵もみられる。成虫はたいへん貪欲で、ハエなどはもちろん、同種を含む小型のトンボをよく捕食する。」と記されている。
分布は日本全国になっていることから、蟹江周辺でもどこかにいる可能性がある。これから気をつけて見ていこうと考えている。キイトトンボは他のイトトンボに較べるとやや大きく(アオイトトンボ程ではない)尻尾も太い感じがする。だから他のイトトンボなども捕食することも理解できる。私が観察したキイトトンボの習性もこの説明には載っていて合点することが多かった。キイトトンボが蟹江周辺でも増えて見られるようになれば良いなあと感じている今日この頃である。(トンボ目 イトトンボ科 キイトトンボ属 キイトトンボ)
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