カダヤシ その1

動物編

蟹江周辺にはメダカがいる。近くの用水路で六月下旬~七月にかけて採取することができる。私はメダカを産地ごとに区別して飼育している。蟹江産、福島県いわき産、山形県の羽黒産と三川産である。天童産のメダカも飼育していたが、今年の冬の寒さと管理のまずさで死なせてしまった。何故別々に飼育するかというと、各メダカの遺伝子は毎年同じ場所でくり返される繁殖で固定化されて土地特有の遺伝子になっているからである。それらを交雑させてしまうと遺伝子の混乱が起きることになる。

メダカ(卵生)

 蟹江周辺で採取したメダカを飼っているが、他の産地のものと較べると、産卵しホテイアオイに付着させる数が圧倒的に少ないような気がしていた。捕ったメダカは六月頃にはずんぐりむっくりして腹が膨らんでいた。太平洋側の蟹江周辺のメダカはこうした体型なのだろうと単純に思っていた。それでも蟹江のメダカを産卵させて卵を採取して孵化させたものもあった。

 私が住む団地の近くの須成神明社脇の用水路に多くのメダカがいて、それを採取して冬を越させていた。大量に捕れたので細長いプラスチック製のプランターを買って、その水抜きの穴を粘土で埋めて水槽代わりにして飼っていた。冬の寒さで何十匹かは死んでしまったが、それでも冬を越して六月頃には元気に泳ぎ回っていた。今年もその神明社脇の用水路に行ってそのメダカを捕ってきて、新しいプランターや大型のタッパーに入れて育てていた。餌が少ないからか去年の秋に捕ってきたメダカは、水面に浮かせているホテイアオイの根の部分に卵を産んでいる気配がない。今年になって捕ってきたメダカの大きなものは腹が大きく不格好な形である。一か所に入れておくと全滅すると思って、そのリスクを避けるために三つに分けて飼育していた。

  カダヤシ(卵胎生)

 数日経って三つの水槽のうちの二つに、小さな稚魚がいて泳いでいた。私はホテイアオイの根に卵がついていて孵化したのだろうと思って根を丹念に調べてみたが、卵らしいものは見かけなかった。それでも一つの水槽ではその稚魚の数が一〇匹以上になっている。別の水槽でも二匹を確認した。ホテイアオイの根に卵がないのになぜ稚魚がいるのか分からなかった。その稚魚の大きさがいわき産、山形産のメダカの稚魚に較べると、やや大きく一様なのである。普通のメダカなら少しずつ大きさが異なっているのが普通なのに、その水槽の稚魚たちはほぼ同じ大きさである。またその形を上から見ると何かしらフナの稚魚のようにも見え、メダカのそれとは少し印象が違っているようにも見えた。

  同じ大きさのカダヤシの稚魚

 私はメダカと思い込んでいた魚はメダカではなく卵胎生の異なる魚ではないかと思うようになってきた。だからホテイアオイの根に卵が付着していないのではないか、それで稚魚の大きさが一様なのではないかと考えるようになった。でも水面上からその魚の模様を見ると、メダカそのものなのである。

グッピーかも知れないと思ってインターネットで調べてみた。グッピーは尾びれ等に色彩のあるものや長いものがある。捕ってきたメダカと思っていたものはそんな姿はしていない。そこでさらに探してみたらカダヤシという名前が出てきた。名前は昔から知っていたが具体的なものは見たことがなかった。このカダヤシも卵胎生である。どうも去年捕ってきたメダカだと思っていたものはカダヤシかも知れないと思うようになった。

カダヤシはカダヤシ目カダヤシ科で、メダカはダツ目メダカ科で異なる種である。同じ淡水系の田んぼ脇の用水路のような環境を生息域としているので、行動特性が似ていて姿も似ている相似形となっている。本来は北アメリカ原産で一九一〇年頃に蚊の駆除のために日本に導入され今では西日本に広がっているという。カダヤシとメダカの決定的な違いは、メダカが藻やホテイアオイの根に産卵後付着させるのにカダヤシは卵胎生であることである。最近になって特定外来生物に指定されている。蟹江周辺でもヌートリア、ミシシッピアカミミガメ(ミドリガメ)やジャンボタニシは良く出会う動物である。これらの生物は「輸入」「販売」「譲渡」「飼育」「移動」「放流」が禁止されている。カダヤシもそうした中に入る生物ということになる。

私がこれまでメダカだと思っていた中にカダヤシがいる可能性が高まった。そこでカダヤシとメダカの違いはどこかと調べてみたら、尾ビレと尻ビレの形状が違うことが分かった。特に区別し易いのは尻ビレの部分で、メダカはオスとメス共に形が多少違うものの長方形なのに、カダヤシはオスは細長い生殖管(タナゴのような)がありメスでは胸ビレのような形になっていて、その形状で区別することができる。

そこで先日捕った魚を透明なプラスチック容器に入れて、その尻ビレを見たら何のことはないカダヤシの特徴を有していた。蟹江産のメダカは姿がぼってりしているのが特徴だと考えていたが、それはカダヤシのメスが稚魚を体内に持っていたからだった。また去年捕ってきたメダカだと思っているものもプラス容器に入れて観察してみたらカダヤシのオスの生殖管を持っているものが多数みられた。小型の網で纏めて掬って魚を見てみたら、その中の一匹は尻ビレがメダカのオスの特徴を示していた。メダカとカダヤシが混じっていたのである。全体としてはカダヤシの方が断然多かった。蟹江周辺ではメダカとカダヤシが混在しているか、場所によってメダカが優勢か、カダヤシが優勢かが異なる可能性がある。

今飼育しているメダカだと思っていたカダヤシは飼育することができない動物であるから、どう処理したら良いか悩んでいる。ミドリガメやアリゲーターガー等の不法放流によって、時間の経過と共に被害が蔓延することが予想される。直接殺すことに抵抗があることも事実である。田んぼの畦に浅い盥(たらい)に水を入れてカダヤシを入れておけば、シラサギ、アオサギやゴイサギの餌になるかも知れないなと直接殺すことを避ける方法を今思案しているところである。(カダヤシ目 カダヤシ科 カダヤシ属 カダヤシ)

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