山形市の高瀬地区から紅花トンネルに向かう道路の左側にハス田がある。ハス田といっても山沿いなので、取り込んでいる谷川の水の温度は低い。そのためか三~四年前からそのハス田を見ているが、ハスの生育は良いとは言えずレンコンを収穫しているようには見えない。そのハス田にはスイレンもあって、季節になると赤や白の花が咲き雰囲気のある光景を醸し出している。その一角に境を設けてコウホネが植えられている。春には黄色い花が咲く。私は季節に合わせてスイレン、コウホネ、ハスの花の写真を撮りに行っていた。そんな環境のせいか水辺にはイトトンボが沢山飛んでいる。連結して止まって産卵しているものも見かける。イトトンボには沢山の種類があって、どれがどれだか同定することが難しい。色彩は緑や空色が中心だが、中にはキイトトンボのように黄色いトンボも飛んでいる。
オツネントンボ
五月の下旬にコウホネとスイレンの花が咲いていないかと、その道路脇に車を停めて、カメラを持ってその水辺を歩いてみた。沢山のイトトンボが飛んだり止まったりしている。その多くは緑や空色のイトトンボで、一匹だけでスイレンの葉に止まっているもの、連結してスイレンの葉に降りて産卵しているものがある。そうしたイトトンボの写真を撮っていたら、近くのガマの茎の葉に、薄茶色のちょっと大き目のイトトンボ二匹が連結したまま止まっていた。私が近づいたら飛び立って別のガマの葉に止まった。私の経験ではイトトンボが羽化した直後は薄い感じの茶色であることもある。その連結しているイトトンボは交尾して産卵する態勢をとっている。その様子から羽化したばかりとは思えなかった。不思議だなあとそんな疑問を持ったまま、パソコンに取り込んでおいたのである。
コウホネ
スイレン
そのイトトンボは以前にも見たことはあったが、よく見ると周りで見かけるイトトンボと随分違った印象である。図鑑で調べてみてオツネントンボではないかと思うようになった。小学生の頃から冬をトンボの成虫で越すトンボがいることは本で見ていたが、実際に本物のオツネントンボを同定することはできなかった。それが偶然にオツネントンボを見る機会に出くわしたのである。いつも思うのだが写真を撮っておいて、後からそれが何だか分かることが随分多いことかと痛感している。その意味では写真を撮っておくことは意義があると思うようになった。
オツネントンボの交尾態
「日本のトンボ」(尾園暁 川島逸郎 二橋亮 文一総合出版)によると、「本州の日本海側の京都、兵庫、福井、石川、富山などを除く本州で見られる。生育環境は、平地~山地の抽水植物が繁茂する池沼。生活史は、卵期間一~二週間程度、幼虫期間は一か月半~三か月程度(一年一世代)。成虫で越冬する。形態は全身が淡褐色で、オス・メスや成熟過程でほとんど体色が変化しない。備考として、成虫で越冬し、成虫は氷点下の低温にも長期間耐えることができる。北陸地方や関東地方など現存産地が激変している地域もある。産卵は成熟したオスは水辺に静止して縄張りを占有し、メスを見つけると交尾して、抽水植物の葉や水面に浮いた枯死植物に連結態で産卵する。メス単独での産卵もしばしばみられる。冬期は樹皮下や建物の隙間で越冬し、氷点下の寒さにも耐えられる。あたたかな日には日光浴する姿も見られる。交尾はおもに晴天の午前中、水辺の植物に静止して数分間行われる。夏に羽化した成虫は、翌年の春に成熟する。また成熟したオスは複眼背面が青味をおびる。」と記されている。
山形のような降雪地帯で木々の樹皮下で越冬するとは信じられない。恐らくは農家の軒下や農機具が入れられている納屋やその屋根裏で越冬するのではなかろうか。それにしても氷点下になる季節を乗り越えるという事実はなかなか理解することが難しい。適応行動としてこのようなオツネンする戦略が何故採用されたのか、どんな効果があるのか、その理由を知りたいものである。私が撮った写真の連結しているオスの目が、オツネントンボの特徴である一部青色に見えることから、やはりこのトンボはオツネントンボだと確信した。本当に色々な生き方をしているトンボがいるものだなあと感心してしまった。(イトトンボ目 アオイトトンボ科 オツネントンボ属 オツネントンボ)
コメント