十二月中旬に日本の三大稲荷と自称する岐阜県海津市の「お千代保(おちょぼ)稲荷」に出かけた。海津市は揖斐川と長良川に挟まれた輪中がある町である。長良川堤防沿いには立派な日本家屋がずーっと並んでいるが、その建っている家屋は周りの土を高く積み上げて周りを石垣で囲んであるものが殆どである。こうした家屋が輪中の住宅の形態なのだろうか。ここに住む人たちは木曽三川(1級河川の木曽川、長良川、揖斐川)の間で、昔から洪水に悩まされながら生活していた。近くには千本松原があって、江戸幕府が外様大名の島津藩に堤防工事を行わせた結果、多大な人命が失われ、藩の財政を圧迫したと言われる歴史上の場所でもある。徳川幕府の外様大名に対する政策の一つとしての事業であった。
ハシビロガモ
その長良川の堤防沿いの道路を走っていたら、大きな用水路がありその水門脇の沼にカモが浮かんでいるのを見つけて、「お千代保(おちょぼ)稲荷」参詣の帰りに車を停めて写真を撮り出した。そこにはコガモ、オカヨシガモ、オオバン、キンクロハジロに混じって、初めて見るカモがいた。そのカモは嘴が大きく平たい。体に較べて嘴が大きく不格好でその姿から大きなカモの印象を受けたが、実際にはカルガモやマガモに較べると小さく、中型のカモだった。カモのメスが同定できないのがカモを勉強し始めた私の大きな課題だが、このハシビロガモだけはメスも間違えることはないと思う。そう言える程このカモの嘴は大きく平たくて目立っている。堤防を挟んだ向うの長良川は広く、川面に浮かぶカモにどんな種類のものがいるのか分からない。安いオペラグラスで遠方を見るとマガモ、カルガモ、キンクロハジロやオオバン等は何とか同定できるが、ハシビロガモがいるかどうか分からない。今年見かけたハシビロガモはこの長良川沿いのこの用水路脇の沼の多数と藤前干潟で一羽だけ陸に上がっていたものを見ただけである。ハシビロガモのオスの生殖羽はとても特徴がある。嘴は黒く頭は緑で羽の色も緑や茶色で色彩にも特徴があり一度見たら忘れられない。
ハシビロガモの飛翔
このカモの生態が分からないので、「日本のカモ 識別図鑑」(氏原巨雄 道昭 誠文堂新光社)を見てみた。それによると、「大きさは全長四四~五二センチ。翼開長七三~八二センチ。特徴はコガモより大きい中型のカモで、平べったい、しゃもじのような大きな嘴が最大の特徴。分布・生育環境・習性は北海道は少数繁殖するが、その他の地域では冬鳥。湖沼、池、河川、湿地などに生息する。水面に平たく幅広い嘴を浸けて進み、取り込んだ水からプランクトンなどを漉し取る。群れで円を描くように泳ぎ、渦をつくってプランクトンを集める採餌法をよくおこなう。地図によると繁殖地はシベリアからアリューシャン列島、カナダからアラスカとなっており、越冬地は日本、中国沿岸東南アジアやヨーロッパになっている。またオスの生殖羽は、頭部は黒っぽくて緑色光沢がある。見る角度により青紫色光沢が出る。嘴は黒い。オス成鳥の虹彩はクリアな黄色、または橙黄色。足は橙色、朱色。」と記されている。
ハシビロガモの採餌風景
私がハシビロガモを初めて観察した沼では水面のプランクトンを採餌している姿は見られなかったが、水中に頭を突っ込んで尻を水面に立てて採餌している姿を見かけた。プランクトン以外にも藻や水生植物の茎等を採餌しているのではないかと思われる。今後食性や習性なども調べたいと思っている。
その後三月初旬にその沼に行ってみたら、オカヨシガモは残っていたがハシビロガモの姿は見ることができなかった。この時期には既に北帰行してしまったのだろうか。そんなことを考えながら用水路の先の方へ行ってみたら、数羽のハシビロガモが水面に口をつけて水面採餌をしていた。また近くの大きな淀んだ川にも何羽かのハシビロガモがいて、数羽で同じ場所でぐるぐる回りながら嘴を水面につけて掬い取るような感じで動き回っていた。これが上述の記述に見られるハシビロガモの採餌スタイルなのだろうと思った。
ハシビロガモの風景
翌年の二月になってハシビロガモを福田川の河口の水門や藤前干潟の手前の水が張ってある田んぼで見かけた。この田んぼは越冬に来るカモたちのために農家の人たちが水を張っている場所らしく、近くの水田の多くがそうした水が張ってあった。藤前干潟に行く途中でその傍を通っていたが、いつもカモが見られる訳ではなく時々見られていたに過ぎないが、ある時に集団でオナガガモとハシビロガモが降り立って、田んぼの土手に上がったり田んぼで泳いでいた。その中でハシビロガモが何羽かずつ、嘴を水面に当てて掬い取る仕草で水面を泳ぎ回っていた。田んぼの刈り入れ後で冬期間に水面にプランクトンがいるのか疑わしいが頻繁にそんな格好で泳ぎ回っていた。多分何かは採餌できているのだろう。
そんな光景を写真に撮ったが、何日か経ったらオナガガモの集団はいなくなってしまった。それでもハシビロガモの一部は残って相変わらずの採餌行動をしていた。しかし一週間を過ぎた頃には、そのハシビロガモもいなくなってしまった。どこかに移動して行ったのかそれとも藤前干潟の海面に移動して行ったのかは分からない。オナガガモに較べてハシビロガモの方が一か所に留まる傾向が高いような気がした。(カモ目 カモ科 マガモ属 ハシビロガモ)
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