ヌートリア

動物編

ヌートリアはネズミの仲間だが外来動物である。蟹江に引っ越してきた五〇年前には見たことはなかった。当時は住んでいる団地の周りには田んぼがあり、畦の土手脇には小川が流れていて、名古屋から関西線蟹江駅で降りて自宅まで歩いていく途中で、夏の夜にはウシガエルがグァーグァーと鳴いている声を聞いたものだった。自宅にいてもその声は聞こえていた。今となっては、その声も懐かしさを感じる記憶となっている。

ヌートリアの採餌(草食性)と泳ぐ二匹

蟹江は駅前の案内板に水郷地帯と載っている程川や沼が多い所である。蟹江駅北側には沼があってそこにはカメが住んでいた。多分フナも沢山いただろうと思う。名古屋行きのホームから沼の光景が良く見えた。今は沼を埋め立てて将来作られる予定の北改札口前のロータリーになっている。二〇~三〇年位前からその沼にヌートリアが泳いでいるのを見かけるようになった。私は動物園にいるカピバラと区別はつかないが、見た目でも大きさが違うようである。

 ヌートリアは天童の山元沼でも原崎沼でも見かけたことはない。蟹江周辺では頻繁に見かける。いつもカモの写真を撮りに行く善太川、日光川、あま市の五条川、岐阜県海津市の長良川沿いの水門がある沼等でもヌートリアを見かけた。この辺りの川は汚れていて澄んでいるとは言い難いが、その水面をゆったりと航跡をつけて泳いでいるので直ぐにヌートリアだと分かる。私の感じでは名古屋周辺は他の地方と較べてヌートリアの数は多いのではないかと思う。私がカモの写真を撮るために善太川の堤防を歩いていると、水辺にいたヌートリアが危険を察して対岸に向かって泳いで移動して行くのに度々出会う。人間に対する警戒感はあるようだが、その反応は敏感だとは言えないように見える。

 夏になって野草の写真を撮りに弥冨や木曽川の堤防まで行こうと、自転車に乗って脇道を走っていたら、途中の畑からヌートリアが一頭、アスファルト道路を横断しようとしていた。その動きは緩慢で、私を見て横断しようかどうか迷った挙句、来た方へ戻ってサトイモの葉の下に隠れてじっとしていた。畑の辺りに川はなく用水路もないので、どこから来てどこに行こうしているのか不思議に思った。この辺りではヌートリアをよく見かけるが、外来動物として駆除しようとしている気配は全く感じられない。この辺りの景色に馴染んでしまっているように思える。

 土手を移動するヌートリアと水辺にきたヌートリア

 そこでヌートリアについて調べてみたら、ネズミ目のヌートリア科でネズミの仲間であり、ブラジルからアルゼンチンにかけての南アメリカ原産で一九三〇年頃に軍服の材料として日本に移入されたという。当時は今のように生態系概念もなかっただろうから、必要だと思えば動植物(ジャンボタニシやウシガエルも同じ)を移入してきたのだろう。同じネズミの仲間のガピバラと似ているが、ガピバラは体長が一メートル程で尾がないのに、ヌートリアは四〇~六〇センチ程で尾がありそれも割と長い。体重は五~九キロである。ガピバラは前肢と後肢に蜘蛛の巣状の水掻きがあるのにヌートリアは後ろ足だけに水掻きがある。

 田んぼのイネを食べて、ネズミ捕りにかかったヌートリア

 ヌートリアは池や沼、川等の土手などに巣穴をほり、そこで年に二~三回出産し三~五頭産むという。水田のイネやオオムギ等の食害、巣を深く掘るために畦や堤防が破壊される被害もある。日本での生息地は愛知県から近畿、中国地方での繁殖が多く、私が山形県の天童周辺では見かけないというのも、そこまで生育地が広がっていないことや、気候が原産地の暖かさと異なることが原因かもしれない。このヌートリアを西日本では駆除をしている地域がある。岡山では年間八〇〇頭、京都府では九三〇頭等かなりの駆除が行われている。イギリスでは一〇年がかりで一〇〇万頭のヌートリアを駆除し絶滅させたという。

 食性はガピバラは草類、水生植物、果実等の植物食であり、ヌートリアも草食でマコモ、ホテイアオイ、ヨシ、ハス等の茎、葉や地下茎そして陸上の草や野菜を食べている。その意味で両者とも草食性である。

 密集するげっ歯類の習性

 善太川にカモの写真を撮りに行ったら対岸に二頭のヌートリアがいて、そのコンクリートの堤防脇を通って土手に上がり、そこに生えている新芽の植物を一生懸命食べていた。善太川は汚れていて水生植物が生えているとは思えない。そこを悠々と泳ぐ姿を見ると潜って小魚等を食べているとしかその当時は思えなかったので、植物食だと知って吃驚した。原産地の南アメリカの生息地は湿地帯だから、こうした川や池の辺りに巣を造る習性があるのだろう。

 永和駅の北側の浅い沼や田んぼの近くに大きなネズミ捕りの仕掛けが三つあるのを見つけた。その中には人参がぶら下がっている。しかしその人参は少し枯れ始めていた。また沼の方に向けて置いてあることから、ヌートリアを捕獲するためのものではないかと思われた。私はこの近くでヌートリアを見かけたことはないが、生存場所としては十分あり得ると考えられる。三つも仕掛けが置いてあることからすると何とか生け捕りたいという意志の強さを感じた。頻繁にその辺りには行くので捕獲されているのを見てみたい気がしている。

 その後あま市の五条川に行った時、草叢の中でゴソゴソ音がして川の中に入っていく動物がいた。よく見たらそれはヌートリアだった。その動きはとても俊敏で泳いでいる時のゆったりとした動きではなかった。それを見て私はヌートリアへの認識を改めることになった。五条川を上流まで遡ってカモの写真を撮って戻ってくると、五条川の土手でヌートリアが草を夢中で食べていた。土手の上に私がいたのに気にしている様子は全くなかった。前肢で草を掴んで採餌している様子を見て、やっぱり植物食なんだなあと思ったものである。(ネズミ目 ヌートリア科 ヌートリア属 ヌートリア)

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