ショウジョウトンボ

動物編

アカトンボといえばアキアカネ、ナツアカネ、ウスバキトンボやショウジョウトンボを想い出すが、赤い色の濃さから言ったらショウジョウトンボが一番だろう。このトンボは小さい時から見かけているが、そう簡単に捕まえられるトンボではなかった。というのは池や沼などの水辺にいて、ヨシやガマの葉などに止まるのが普通で、そこから路上に出てくることは殆どないからだった。その色の赤い色は単なる赤というよりは深紅といった感じである。その名前に由来する猩々(しょうじょう)の色から命名されたらしい。

ショウジョウトンボ(真ん中がメス)

 そこで猩々を広辞苑で引いてみると「①イ中国で、想像上の怪獣。人に似て体は狗の如く、声は小児の如く、毛は長く朱紅色で面貌人に類し、よく人語を解し、酒を好む。ロオランウータンのこと。②よく酒を飲む人。大酒家。③酒、酢などの上に集まる虫。」となっている。また同じ名前がついた「しょうじょうえび」「しょうじょうがに」「しょうじょうばえ」「しょうじょうばかま」などが見られ、その中に「ショウジョウトンボ」についての記載もみられる。そこには「トンボの一種。中型で、胸部は暗赤色、腹部は、雄は鮮赤色、雌は黄赤色。翅は透明で、基部に黄赤色の斑紋がある。」と記されている。

 昔からショウジョウトンボはそうした生息場所の関係で、数匹しか捕ったことはなく、チョウトンボと同じ位私にとっては手が届かないトンボだった。しかもその深紅の色合いからかアキアカネ、ナツアカネやウスバキトンボに較べると、断然に価値が高いトンボだった。それから何十年も直接ショウジョウトンボを見かけていなかった。

 交尾態飛翔と産卵

 天童に住むようになって動植物の写真を撮りに出歩いている時に偶然ショウジョウトンボを見かけたことがあった。夏に立谷川上流の氾濫原がある川原の水溜りで、何十年振りかにショウジョウトンボを見かけた。この辺りにはショウジョウトンボがいるのだと嬉しくなった。その後原崎沼の近くの茅葺屋根の農家の裏手に池がありそこまで入り込んだら、小さな池にもショウジョウトンボが飛んだり止まったりしていた。この辺りにはこうしたショウジョウトンボがまだいるのだなあと思ったものである。

 そんなショウジョウトンボとの再会だったが、原崎沼の遊歩道を歩いていたら、チョウトンボばかりでなくショウジョウトンボも何匹か飛んでいた。ここでも普通に見られたのである。チョウトンボ程の期間ではないがそれでも三〇年振りの再会だった。生きているショウジョウトンボを見かけることができ感激したが、その後宮城県の村田町から岩沼市に抜ける県道二五号線を走っている時(近くに菅生サーキットがある)、道路脇の道路から入った小さな沼に、イトトンボの他にショウジョウトンボが飛んだり止まっていた。その近くにウスバキトンボのような色合いのトンボも止まっていた。またウスバキトンボに較べると体が少しごつく尻尾が太い感じのトンボだった。それを見て咄嗟にショウジョウトンボのメスではないかと思った。今までショウジョウトンボを見かけていたがそのトンボは全て深紅のトンボだった。小さい頃はオスとメス同色なのだと考えていた。今になって思えばオスとメスでは色合いが違い、オスの方が綺麗なのが一般的だとすると、深紅の色合いはオスだけに違いないと考えるべきだった。広辞苑の説明にもメスは黄色っぽいと書かれていた。こんなことがあって私はショウジョウトンボのメスを同定できるようになった。それまでは何度もメスを見ていた筈だが気がつかなかったに違いない。

 蟹江に帰ってからあま市の秋竹にある藤島神社にアオスジアゲハの写真を撮りに出かけた。神社にはクスノキがありそこにアオスジアゲハが産卵しに来るからである。因みに名古屋周辺では神社や森ではクスノキが沢山生えている。また名古屋城周辺とその城内近くの愛知県図書館に行っても、その構内に沢山のクスノキがある。また名古屋駅近くの街路樹にもクスノキが植えられており、クスノキが多い都市と言っても過言ではない。

  暑さを避ける逆立ちと、オスのせめぎあい

 その藤島神社の近くに小さな沼がありそこにはショウジョウトンボやギンヤンマなどが飛んでいた。ギンヤンマはオスとメスが連結してその沼に降り立って産卵している様子を写真に撮ったことがあった。その水辺に何匹かのショウジョウトンボが飛んでいた。この辺りにはショウジョウトンボがいるのだなあと思った。ところが去年の秋になってこの沼が埋め立てられてしまった。その沼がある一角を含めた広い区画の団地を作るらしく、家屋の区画と道路区画を行う造成工事が始まったのである。

その結果私がギンヤンマとショウジョウトンボを観察したり、写真を撮る大事な場所がなくなってしまった。その後はショウジョウトンボを見かけていない。きっとどこかの沼や池では生息しているのではないかと期待しているが、今のところ見かけないままである。昆虫や幼虫がこの沼に生きているかもしれないとか、生態系にとって重要なことかもしれないとかを考えることなく家を建てるという安易な人間本位の考え方で環境を変えていくことが、罪悪であることを感じない現代人の知恵のなさを嘆くばかりである。本当に悲しいことである。

「日本のトンボ」(尾園暁 川島逸郎 二橋亮 文一総合出版)のショウジョウトンボの項目では、「生育環境は平地~丘陵地の開放的な池沼や湿地など。生活史は、卵期間五日~二週間程度。幼虫期間二~八か月程度(一年一~多世代)。幼虫で越冬する。形態は中型のトンボで、メスや未成熟のオスは橙黄色~黄褐色をしているが、成熟オスは全身が鮮やかな赤色になる。備考として、国内に広く分布し、もっとも普通のみられるトンボの一種。成熟オスは抽水植物などに止まって縄張り占有し、しばしば巡回飛翔する。交尾は終始飛びながら行い、三秒程度で終わる。産卵は単独で打水産卵し、オスはその間、警固飛翔することも多い。」と記されている。  私の感じだと全国に普通に見られるとは考えられず、シオカラトンボ等に較べて断然少ないと思うのだが、全国的にはどうなんだろう。どこに行っても見られるとしたら私にとっては幸せなのだが、上述の説明と実感のずれに戸惑っているのが今の感情である。(トンボ目 トンボ科 ショウジョウトンボ属 ショウジョウトンボ)              

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