トチは山に入っても見ることが多いし街中でも見ることができる。ホオノキと同じ位の大きさの葉がヤツデのように見える葉(掌状複葉)がつく。春になって5月に関山峠に向かう旧道に入ると、その間からトチの若葉とその段階状の花群を見ることができる。階段状の花群は遠くからでもその存在を確認でき、その香りは強いように思う。そのトチの花の蜜は蜂蜜の中でも高価なものだと言われている。
トチの花
寒河江にある道の駅のチェリーランドでは蜂蜜を売っているが、販売所によっては採集された花の蜜ごとに販売しその値段が違うのを見たことがある。山形から笹谷トンネルに向かう道路の左側の空き地に、ミツバチの箱が何十個か置いてある。その箱の周りには電線が張られている。通電して熊が来て荒らすのを避けるためだと思われる。一年中置いてあるから、季節ごとに蜜を採集しているのか蜜蜂の群れが既にいないのかは分からない。
トチの実
トチの花の存在感も相当なものだが、トチの実も存在感がある。縄文時代からからドングリやトチの実は食用にされていたと考えられ、ドングリは縄文遺跡の縄文土器の中に大量に保存されていたものが発掘されたと読んだことがある。トチの実についても同様だが丸い果皮の中に二つくらいのクリに似た形の種が入っている。まるまると太ったクリのような形であり直感的に食用になると思われる存在である。縄文人も山に入ってトチの実の採集をしたのだろう。山に入り沢近くを歩くとトチやクルミの木があることが多い。トチの実は触っても何ともないが、クルミの実は気をつけないと大変である。昔それを知らずにクルミの果実を素手でひっかいて、私たちが食べる殻の部分を取り出そうとしたら、もの凄い糞に近い(スカトール?)臭いがした。しかもそれがすぐには取れず、取れるには数日間かかったのである。加えて手の皮膚はその浸みた色で黒くなってしまった。
トチの実は栄養価も高く澱粉やたんぱく質も含まれ、昔から山村では食料として利用されてきた。貯蔵食料としての役割も果たしてきた。村々では山に入ってトチの実を採るにも勝手には採れずに、その範囲や時期も決められていた。その位このトチの実は山村の生活に深く関わっていた。
赤い花の咲くトチ
東北の道の駅に寄ると、必ずといって良いほど栃餅(とちもち)を売っている。買ったことはないが普通の餅としてどこでも売っている。ナラ、コナラやクヌギなどのドングリの仲間に比べて大きさも関係するのか、しかもトチの実はサポニンを含み死ぬこともあることから、その灰汁(あく)を除くのが難しい。基本的に砕いて水に晒したり草木灰などで煮たりしてから晒すのが普通であるが、とにかく灰汁を除く作業が大変なのである。
灰汁抜き作業は各地方で異なり、その灰汁の除き方が何段階かあって、その作業をし終えるのに半月から1カ月近くかかる工程である。そこで、調べてみたら①水につけて種の中の虫を殺し ②天日乾燥 ③水に戻し ④熱湯で皮を柔らかくして皮剝ぎをし ⑤水で晒し ⑥茹でて木灰処理し ⑦水洗いして水で晒し ⑧もち米と一緒に蒸し ⑨搗いて栃餅にする 等の処理をするという。これほどの工程を経るとすると時間がかかるのもやむを得ないと思う。
だから米一升・トチ粉一升だと言われることも、故なしとはいえないと思う。山に入ると割りと良く見かけるのにこんな複雑な工程を経ないとできないことと、各地では原則を踏まえながらも灰汁抜きの技法がそれぞれ異なることから、随分とトチとの人間のつき合いの歴史が長かったのだなあと感心するばかりである。
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