ケラ

動物編

小さい時はケラをオケラと呼んでいた。酢(す)をオスと呼んで酢が正式名であるとは思わなかったのと同じである。小さい頃は社宅の前の庭の土を掘り起こすと、たびたびオケラが出てきてそれでよく遊んだものである。その遊びというのは体を掴んで「お前のチンポはどれくらい?」と聞くと、逃げようとして大きく前脚を大きく開くので、それをみて大きいとか小さいとか言って笑いながら遊んだものである。これは私が発見した遊びではなく、皆がそんなことを言いながらオケラで遊んでいたのではないかと思う。その当時オケラはそこら中にいて、皆に馴染みのある昆虫だった。

五条川の土手で見かけたケラ

 小さい時のオケラで遊んだ記憶はあったが、その後オケラを見る機会はなく何十年も経ってしまった。十一月初旬に清須市を流れる五条川にカモの写真を撮りに出かけた。この五条川は小学生の頃、名古屋から二〇キロ位離れているものの、一時間半以上かけて自転車でナマズ釣りやトンボ捕りに来た場所である。蟹江からは車でやはり二〇~三〇分位かかるだろうか。そこでカモの写真を撮っていた。これまでの経験からどの川にも共通なカモがいる反面、その川にしかいないカモがいることに気づくようになっていた。善太川では共通なカルガモ、マガモ、コガモ、オカヨシガモ、オオバンの他にミコアイサやカンムリカイツブリがいるのに、五条川では共通なカモの他にヒドリガモやヨシガモが見られる。海津市の長良川の水門がある沼にはハシビロガモ、キンクロハジロがいる。これらのカモは他の川や湖沼では見かけない。どうしてそんなことが起こるのか疑問に思っているが、特定のカモの写真を撮りたい時にはその川にいるカモの写真を目指して撮りに出かけている。

私が出かけている五条川の堤防は南の萱津(かやつ)神社と北の清州城の間の西側の堤防である。コンクリートの車が行き来する堤防と川の間には草叢があって、秋口になるとアメリカセンダングサやヌスビトハギの種が衣服や靴下にくっついて大変である。また増水した時に流れてきた、プラスチックゴミが草叢に産卵していて、決して綺麗な草叢にはなっていない。そんな草叢を歩きながらカモの写真や草叢に生える木に止まるモズやジョウビタキ、そして時々カラスに追いかけられているトビの写真も撮りたいと思いながら付近を見回しながら歩いていた。

 木曽川の土手で見かけたケラ

そんな時に地面が露出していて草が少ない場所に小さな昆虫が動いているのを見かけた。傍に行ってよく見るとオケラだった。何十年か振りに見かけたのである。オケラを掴もうとしたら前脚で私の指を引っ掻いたので離してしまった。久し振りだったのと引っ掻かれたことから本当にオケラかどうか心配になった程である。でも私の記憶の中にあるオケラだと思い直して、その写真を何枚も撮った。オケラも危険を感じたのか素早く移動して草陰に隠れたりしたので、姿をきちんとした写真に撮ることが難しかった。それでも何枚かは撮れたように思う。小さい時からそんな遊びをしたオケラであるが、どんな習性があるとか、どんな昆虫に近い仲間か等は考えたことがなかった。

ケラについて調べてみた。分類ではバッタ目、キリギリス亜目、コオロギ上科、ケラ科となっている。コオロギの仲間の一種だと考えて良いだろう。更に詳しく知るために、日本大百科全書(ニッポニカ)で調べてみた。「形態は体長三センチ内外、全体は茶褐色で、前脚脛節(けいせつ)は赤褐色。頭部は卵形で小さく、触覚は糸状で短い。頭部は丸みを帯び前方に強く細まり、樽(たる)形をした前胸背板に半分ほど隠される。~中略~ また前翅は雌雄ともに発生器備えている。後翅は前翅より長く、先端は腹端を越える。前脚はモグラの手のように鋭いつめを備え幅広く、土を掘るのに適した開掘脚(かいくつきゃく)になっている。~中略~ 生態は成虫、幼虫ともに地表近い地下トンネルを作り、その中で生活する。産卵は五~六月に行われ、幼虫態でほぼ一年過ごし、翌年の秋までには成虫となる。~中略~ 食性は雑食性で、植物の根などを食べる。野菜畑や苗代などでは重要な害虫となる。アカオビトガリバチなどのハチは、特異的にケラを狩る、ケラの天敵である。」と述べられている。

他の資料では、「田植え前の代掻き(しろかき)の際などは土を起した際に水上に浮かんでくるので見つけやすい。~中略~ 地中生活をする上に前翅が短いため飛ばないようにも見えるが、長く発達した後翅を広げてよく飛び、夜には灯火に飛来する。~中略~ 天敵は鳥類、カエル、イタチ、タヌキ、モグラなどである。ことにムクドリはケラの多くいる環境ではケラをよく摂食していることが知られている。鳥が好んで食べることから、江戸時代は江戸城大奥で愛玩用に飼育されている小鳥の餌として、江戸近郊の農村にケラの採集と納入が課されていた。また、幼虫・成虫に産卵し捕食寄生する寄生バチや、麻酔して産卵する狩蜂がいる他、ミイデラゴミムシの幼虫はケラの卵塊を食べて成長する。」と記されている。

これらを見ると、地中生活をしながら草の根等を食べて生きている。そのために害虫であるという汚名を負わなければならない羽目になった。こうしたケラの生活では天敵が多く、畑や水田近くにいる鳥、カエルやタヌキ、そして狩バチの格好の餌食になり、ハチの幼虫の栄養源になっている。はたまた江戸時代にはペットの鳥等の餌として使われたことが示されており、少し可哀相な感じさえするケラである。

私が小さい頃に遊んだ「お前のチンポはどれくらい」ではないが、「おまえのお椀(わん)どのくらい」などと大きさを問いかけ、足の開き方で大小を判断する遊びが広く行われていたと記されていた。どうもこれは女性の胸の大きさを問いかけているもので、私が小さい時に遊んだことと同じ範疇に入るものではないかと思う。どこでも考える発想は同じなんだなあと思ってしまった。(バッタ(直翅)目 コオロギ上科 ケラ科)

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