キジ

動物編

キジは天童周辺ではその声を聞いたり、姿を見かけたりしていた。勤務していた短大周辺は果樹園でサクランボやモモ畑になっていて、その畑でキジのオスのケーンケーンという声を学内でも聞くことが度々あった。キジと出会っていない頃には短大周辺は田舎なんだなあと思ったものである。

キジのオス

何故かキジの声を聞くと、「奥山に 紅葉踏み分け鳴く鹿の 声聞くときぞ 秋は悲しき」という古今集に入れられている鹿の鳴き声と関連した和歌を思い出してしまう。自分の中で無意識に日本人が親しみ馴染んできた動物だとの認識があり、シカもキジも同類との思いが入っているからではなかろうか。キジが国鳥だということも無意識に関連しているのかもしれない。キジが国鳥であることからか一万円札の裏面にキジの図柄が載っていたが、偽札が作られたために今では「ホログラム」や「すき入れバーパターン」をいれて、鳳凰の図柄に変更されている。このようにキジは日本人にとって馴染みの深い鳥といえる。

  キジのメス

キジを初めて見かけたのは、東日本大震災の被災地である浪江から双葉に向かう海岸線沿いの草叢で見かけたのが初めてである。震災の一五~一六年位前ではなかろうか。季節は六月頃だったと思われるがその時オスとメスが一緒だった。二羽が連れ立って餌を取っている様子だった。その後も相馬周辺で見かけたが、その時もオスとメスが一緒だった。カメラを向けると危険を察してすぐに隠れてしまうか飛び去ってしまって、上手く写真を撮れないでいた。私の中では、これらの経験からキジはいつも番(つがい)で行動すると思うようになった。

天童周辺で野草の写真を撮るために近くの丘陵だけでなく水晶山や天童高原の方まで足を延ばして、季節の植物の写真を撮ってきた。四月にその水晶山に植物の写真を撮りに行った帰り道、舗装道路の傍らでサクランボの花が咲いていて、反対側が田んぼの田起しをしたままの土手に一羽のキジを見かけた。車を停めて窓を開けて外に出ないまま、カメラを向けてシャッターを切った。望遠で写真を撮ったら、そのオスの色合いや模様がとても綺麗で驚いた。目の周りが赤いトサカのような肉垂れがあり、首筋は光沢がある青で、腹は緑っぽく、背中はだんだら模様で背中から尾にかけて灰色で尾は長く間隔的に線の模様が入っている。写真で見るとどうしてこんな部分毎に綺麗な色彩を持っているのだろうかと不思議に思う。確かに繁殖期のための縄張り宣言とメスへのアピールの手段としてこの色彩が進化してきたとは思うが、これ程の工夫をしなくても良いのではないかと思う。そのキジを撮ってから車を走らせたらその少し先にも別のオスのキジがいた。繁殖期前のオスの縄張りはこの付近では狭いか接近しているのではないかと思った。そこでもキジの写真を撮った。

その何日か後に若松観音経由で天童高原に写真を撮るために車を走らせていたら、舗装道路の真中にキジのオスとメスが歩いていた。そこで車を停めて降りてカメラを構えたが、普通ならすぐに二羽が飛び立ってしまうのに逃げないままだった。そこで写真を撮ることができた。普通なら危険を察して逃げるのにオスはじっと舗装道路にいる。メスはその辺りを悠然と歩いたり何かを啄んでいる。オスが逃げないのはメスがいるからだと直感した。メスは私が傍でカメラを構えているのに浅い側溝の中に入って何かを懸命に啄んでいる。それをオスはただ立ち止まって見守っている。メスが好き勝手に振舞っているのをひたすら見守っているオスを見た時、お前も大変だなと語りかけてしまった。

こうした繁殖期の行動では普通なら逃げるエドワード・ホールのいう逃走距離にあるにも関わらず、逃げないままでいるのではないか思う。このことはジョウビタキのケースでも経験している。メスを追いかけていたジョウビタキのオスは私がかなり傍まで近づいていても逃げようとはしなかった。繁殖期のこれらの行動は、子孫を繋ぐための必死の行動だと考えると理解し易い。このキジのオスの場合もそんなケースではないかと思う。

 キジのオスとメス

色々調べてみたら、キジのメスはオスの縄張りに入って気に入れば交尾する。また別のオスの縄張りに入って気に入れば交尾することを繰り返す。つまり乱婚なのである。草原、河原、田んぼや畑の畦、林の地上部に巣を造る。食性は植物性の芽や葉、種の他、昆虫、クモ、ムカデ、ゲジゲジ、ダンゴムシ、カタツムリ、ヘビ等を食べる。卵は六~一〇個位でメスが抱卵する。外敵が多く成長できるのは数羽と言われている。非繁殖期にはオスはオス同士、メスはメス同士で行動するという。

これらの記述は私が経験した番いになって仲良く行動している姿とは相容れない記述となっている。あのオスの我慢強い行動は気に入ってもらって交尾するまでの一時的なものに過ぎないのだろうか。抱卵し子育てするのがメスだけだとすると、その可能性があると思うが、今後よく観察や資料を調べたいと考えている。

蟹江に帰って動植物の写真を撮っているが、日光川と善太川の合流する突端付近はヨシ原になっている。二月下旬にそこの土手を歩いていたら、突然オスとメスのキジが飛び立って善太川の川岸に近いヨシ原に飛んでいった。名古屋近辺でキジを見たのは初めてだった。この辺りにもキジがいるんだなと思った。その後にもキジのオスが土手からヨシ原に消えていくのも見かけた。このキジはヨシ原に住んでいるのではないかと思った。

 キジの縄張りの境と雄たけび

「日本の野鳥」(叶内拓哉 安部直哉 上田秀雄 山と渓谷社)のキジの項目では「留鳥で、生活環境は平地から山地の林、草地、農耕地など。繁殖期はつがいか一夫多妻で、非繁殖期は雌雄別々の群れになって生活する。植物の種子や芽、実などを主に採食し、昆虫類もとる。採食中は長い尾羽を下げているが、警戒すると尾羽を斜め上に上げ、逃げるときにも上げたまま走り去る。」と記されている。

私がキジと出会った時にはキジが走り去る場面は殆どなく、すぐに飛び立ってしまっていた。遠い距離で出会った時には、そうした走り去る行動が見られるのかも知れない。これからよく観察してみようと考えている。(キジ目 キジ科 キジ属 キジ)

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